エクソマーズのオービターが上空からとらえた朝の火星
【2018年5月7日 ヨーロッパ宇宙機関】
エクソマーズ(ExoMars)はヨーロッパ宇宙機関(ESA)とロシア・ロスコスモスの共同による火星探査ミッションだ。火星を周回するオービターと大気圏降下モジュール、地上探査ローバーを2回に分けて打ち上げ、多角的に火星探査を行う計画になっている。2016年3月に微量ガス探査オービター(Trace Gas Orbiter; TGO)が打ち上げられ、同年10月19日に火星周回軌道に入った。その3日前に大気圏降下モジュール「スキアパレッリ」がTGOから分離されて火星の大気圏を降下したが、スキアパレッリの火星軟着陸には失敗している。
TGOの最初の軌道は遠火点(軌道上で最も火星から遠い点)の高度が98000km、近火点高度が200kmという長楕円軌道だったが、火星大気の抵抗を利用して減速する「エアロブレーキング」という方法で約1年かけて徐々に遠火点の高度を下げ、今年4月には高度約400kmの円軌道に入ることに成功し、いよいよ科学観測が始まった。
今回公開されたのは、TGOに搭載されている多色ステレオ表面撮像システム(CaSSIS)で「コロリョフ・クレーター」の一部をテスト撮影した画像だ。このクレーターは火星の北緯73度という高緯度地方にある。クレーターの縁に見られる白い物質は氷だ。朝7時ごろの低い太陽の下で撮影されたもので、3色のフィルターでほぼ同時に撮影された3枚の画像からカラー合成されている。
「太陽のライティングのおかげで非常に良い画像が撮れて本当に嬉しいです。CaSSISが火星での二酸化炭素と水の循環を研究する上で大いに貢献するであろうことが、この画像からも期待できます」(CaSSIS科学チーム Antoine Pommerolさん)。
研究チームでは画像処理の工程を全自動化し、撮影した画像を分析のために科学コミュニティにすばやく配信することを目指している。画像データは一般向けにも定期的に公開される予定だ。
TGOにはCaSSISカメラの他に、2種類の分光計と中性子検出器が搭載されている。分光計は4月21日に科学観測を開始し、火星大気の「臭いを嗅ぐ」分析を始めた。臭いを嗅ぐといっても実際には、大気に含まれる分子が太陽光を吸収する様子を分光計で調べて成分を特定するという方法だ。大気分子は種類ごとに異なる波長の光を吸収するため、これによって大気の化学組成がわかるのだ。
火星の大気にごくわずかしか含まれない成分や未知の成分を検出するためには、長い期間にわたってデータを集める必要があるだろう。TGOでは、火星大気の中に1%未満というきわめて少ない量しか存在しない微量ガスを検出しようとしている。特に、生物学的・地質学的活動の証拠となるメタンなどのガスを探すのが目標だ。TGOのCaSSISカメラは、微量ガスの放出源に関係するかもしれない火星表面の地形を特徴付けるのにも役立つだろう。
「この素晴らしい探査機でついに火星のデータを集める作業が始まり、興奮しています。テスト撮影でこれまでに目にした画像はまさに評価のハードルを上げる素晴らしいものです」(ESA TGOプロジェクト研究員 Håkan Svedhemさん)。
エクソマーズ計画では2020年に2回目の打ち上げを行い、探査ローバーと地上観測プラットフォームを火星に送り込む予定だ。TGOはこれらの地上探査機と地球との通信を中継する機能も担う。4月下旬に、NASAの火星探査ローバー「キュリオシティ」の通信をTGOが一部中継することに成功し、中継機能が正常であることが確認された。これは、将来の火星ミッションでESAとNASAが共同で火星での通信インフラを維持するという協力体制を示すものでもある。
(文:中野太郎)
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