Ironwood Remote Observatory Hawaii
第2回 「天文台建設で困らないためのツボ」

Writer: Ken Archer氏

《Ken Archerプロフィール》

米国・ハワイ州オアフ島在住。アロハ航空の機長を務めるかたわら、自宅に天文台を建設して以来、その性能向上に力を注いできた。リタイヤ後の今は、天文台の自動制御に関連したビジネスを展開している。ホームページ「Ironwood Observatory」を開設中。


前回は、自己紹介を兼ねて、私が自宅に天文台を建設したいきさつをお話しました。 今回は、理想的なリモート天文台をつくるために必要な点について紹介しましょう。良い天文台をつくるためには、まずお粗末な天文台がどのようにしてつくられてしまうのかを知っていただく必要があります。私が自らリモート天文台をつくった動機の1つには、リモート天文台の設計がお粗末であるという現状があったのです。

デザインの異なる天文台の写真

デザインの異なる天文台

移動時の天文台の画像

移動時の天文台の画像

観測地で屋根を開いた時の画像

観測地で屋根を開いた時の画像

まず、ほとんどの天文台のデザインにスタンダードというものはありません。私の呼ぶところの1つ1つが“単発のデザイン”なのです。望遠鏡などの機器の構成もすべての天文台で異なります。

典型的な建設のプロセスは次のようになります。

  • 設置場所に、照明のまぶしいキャンパスが選ばれる。
  • ドームを建てる会社は、ドームの骨組みをつくる。基礎工事や建物の図面は、下請け業者へ送られる。
  • 下請け業者によって、基礎工事、建物の建設および電気系統やインターネットの接続などが行われる。

この時点で、空っぽの観測用の建物ができます。続いて、望遠鏡などの機器が別々の会社から購入されます。さらにそれらの設置を行うのは、購入した会社のさらにその下請け業者か、または学校のスタッフなどが行います。すべて設置されると、プロジェクトは次の段階へ入ります。

ここで、足りないものは何でしょう?あなたが、業者とのやりとりやその分野のベテランでなければ、重要な点が抜けているはずです。

天文台の成功には、しっかりした計画と、最初から最後までアドバイスしてくれるコンサルタントが必要です。しかし、それには当然お金がかかります。

仮に、天文台を建設するとして次の質問項目について考えてみください。

  • 天文台の設置場所はどこになるのか?光害はないか、シーイングは悪くないか?スタッフや学生にとってアクセスは便利か?
  • 機器の使い方からメンテナンスにいたるまでの、スタッフのトレーニングは?
  • 教育プログラムの作成は?
  • 20年先までの、保守計画と部品などの交換にかかる資金は?
  • 教育プログラムの講師陣にかかる資金は?

天文台の建設計画には、一体いくらかかるのでしょう?たいていの人は、ドームのスリットを開いて、初めて星を観測したところで、天文台は完成したと思うはずです。しかし、それは、天文台プロジェクトの始まりでしかないのです。

もし、上記の質問に対する答えの中に1つでも「わからない」があるなら、プロの天文台コンサルタントか、または天文台システムの総合メーカーの手助けが必要です。

これらの質問はごく基本的なものに過ぎません。実は、これ以外にも数多くの考慮すべき点があります。

私は過去数年間に、数多くの天文台が動作不能となり、使用されなくなった状況を見てきました。実は、いずれの天文台も同じ問題を抱えていたのです。

  • 機器が故障し、換えの部品がなかったり、機器が古すぎて、今の技術に対応していない。
  • 操作者の資金不足のため、修理も再建設もできない。
  • スタッフがトレーニングを受けていないため、効果的な操作方法を知らない。
  • メンテナンスや修理に関する長期サポート計画がない。
  • あまり使用されないために、早期の故障が発生する。

もちろん、最初から最後まで、総合的な天文台の計画を行う会社も存在します。しかし、当然のことながらそれなりのコストがかかります。そして、忘れてはならないのは、あなたの天文台は、単発デザインであり、スタンダードというものは存在しません。

ここで私がお話しているのは、4年生大学に設置される天文台や私設天文台のことですが、いずれにせよ、長期の使用に耐え得る、且つ技術面でサポートのある天文台でなくてはいけません。

もっとも見落とされるコストは「時間」です。天文台のコンセプト作成から、スタッフによる操作、教育プログラムまでがうまく機能するようになるまでには、3年から5年を要します。コンセプトに始まり、施工、その後のオペレーションにいたる、すべてのプロセスにかかる「資金」まで考える人はほとんどいません。

そこで、時間と資金面で妥当な、ある1つの選択肢を考えてみましょう。私がIronwood Remote Observatoryとして目指すのは、オーナーや操作者にとってあらゆる技術的な問題のない天文台をマーケットにもたらすことです。

  • ユーザーが何の心配もなく、天文台を使用できるように、すべての技術的な問題を取り除くこと。
  • 天文台を(キャンパスなどから離れた)暗い場所に設置することで、最高のデータ収集を可能にすること。
  • スタッフのトレーニングとカリキュラム製作の手助けをする。
  • 稼動にかかる一月あたりのコストが低い天文台をつくる。

自動化された天文台では、すべての機器が連動して動かなくてはなりません。なかでも、もっとも重要な要素は、互換性とフレキシビリティーを兼ね備えた自動化ソフトウェアを選ぶことです。私のIronwood Remote Observatoryが、ユーザインタフェースに選んだ自動化ソフトウェアは、ACP Observatory Control Softwareです。

ACPは、DC-3 Dreams社によって1999年にMeade LX200用の天文台自動化ソフトウェアとして発売されました。その後の10年間で、あらゆる望遠鏡、オートガイダー、フォーカサー、ローテーターに対応するように改良されました。リモート デスクトップ接続なしで、天文台をウェブブラウザーで制御できます。自動化は、リモート操作には欠かせませんから、今後はもっと増えることでしょう。

リモート デスクトップ接続の画面

リモート デスクトップ接続の画面

Ironwood Observatoryソフトウェアのスクリーンショット 1

Ironwood Observatoryソフトウェアのスクリーンショット 1

Ironwood Observatoryソフトウェアのスクリーンショット 2

Ironwood Observatoryソフトウェアのスクリーンショット 2

ACPは、おなじみの機能を備えたツールボックスで、Windowsのスクリプト(JscriptやVBScript)を実行するエンジンです。観測ロジックはスクリプトに書かれていて、それがどんな画像をいつ撮影するかという観測計画を読み、システムにいつ何をすればよいかが伝えられます。また、上級観測者なら、ソフトウェアの最新バージョンの発売を待たなくても、ACPのロジックを特別なニーズに合わせることもできます。

また、ACPには、ビルト・インタイプのウェブサーバーがあり、あらかじめウェブページも用意されています。サーバー管理も必要なく、ウェブページを書き直す必要もありません。ACPのウェブサイトにログインするだけで、天文台の動きがライブでディスプレイされます。また、観測のリクエストを入力するフォームも表示されます。リクエスト入力後は、ボタン1つで処理がスタートします。作業が完了すると、ウェブページから画像と詳細な処理履歴のログをダウンロードすることができます。上級者なら、複数の観測ターゲットについて、タイミングやフォーカスを指定することもできます。

理解していただきたい重要な点は、ACPのウェブサイトには、ダイレクトな機器の操作は含まれいないことです。その代わりに、観測計画とウェブ上のフォームで、観測ターゲットの座標、画像やフィルター、任意のタイミングを指定します。画像の取得から、望遠鏡の方向転換、スリットやカメラの制御、ガイド、一定のタイミングでのフォーカスなど、これらすべてが完全に自動でできます。

つまり、天文台のオーナーは、学生などの経験が少ないユーザーにも、天文台の操作を任せることができ、天文台が故障するようなリスクもなくなるわけです。

次回は、Ironwood Observatory(IRO)について、もう少し詳しくお話します。


※Ironwood Observatory(Ken Archer氏)による、リモート天文台の建設やそのほかのサービスに関する問い合わせは、「お問い合わせフォーム」から、(営業部宛まで)ご連絡ください。

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