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超新星 SN2008A in NGC634
2008年1月1日早朝、茅ヶ崎の広瀬洋治氏がNGC2770に超新星状天体(PSN)を発見したので、その確認を行いました。確認作業第2夜目が終了した朝(1月2日)は、09時00分に帰宅しました。まだ快晴の空が続いていました。『これは、まだ発見が続くかも知れないなぁ……』と思いながらの帰宅でした。その1月2日夜、少し遅くなったと思いながら、そろそろ起きて出勤の準備をしようかと考えていたそのとき、22時54分に吉見の市村義美氏から電話があります。氏の話によると「12月21日に発見した超新星2007ss(2008年7月号参照)とは、また別の超新星状天体をNGC634に見つけました」とのことです。氏は、さらに「発見光度は18.0等です」と話します。『少し暗いですね。極限等級はどれくらいですか』とたずねると「19.3等です」とのことでした。そこで『ちょっと浅いですね。このまま報告すると保留になる可能性があります。もう少し極限等級をかせげませんか』とたずねました。しかし、「ちょっと難しい」とのことでした。『じゃあ、これからオフィスに出ますので、報告を送っておいてください』と頼みました。すると、氏は「はい。では、こちらも家に帰ります」と話します。そのとき、氏はまだ観測所にいたようです。出発の準備が終わり、自宅を出たのは23時25分のことでした。しかし、食料品の蓄えがありません。そのため、近くにある「三熊山」を山越えして、物部というところにあるファミリーマートまで出かけ、その夜の食料品を購入して、オフィスに向かい始めました。
するとその途中、23時41分に携帯が鳴ります。出ると「うお座に10等級の新彗星を見つけました。その付近に新発見の彗星がありますか」という問い合わせでした。報告者は過去に新彗星を発見している経験者です。これは久々に期待できる報告です。『いや、聞いていません。今オフィスに出向いている途中です。すみませんが、ファックスかメイルで情報を送っていただけませんか』とお願いしました。そして『あとでこの番号に電話します』と言って電話を切りました。
オフィスには23時46分に到着し、コンピュータの電源を入れてメイルをチェックしました。市村氏の電話から約1時間が経過していましたが、氏からの報告はまだありませんでした。また、ファックスを見ましたが、彗星発見の報告もまだ届いていませんでした。しかしメイルの下の方、つまり新しく届いたメイルが目にとまります。茅ヶ崎の広瀬洋治氏から23時50分に到着のメイルです。それを見ると「今夜のSN2007uyの画像をお送りします。私の測定では昨日より0.2等ほど明るくなり、16.8等になっていました」という観測報告と、「20時過ぎにご連絡しましたNGC7798のPSNの方はどうだったでしょうか」という連絡が書かれてありました。『あれ……。これは、いったいどういうことだ』とメイル・ホルダーの上の方を探すと、20時18分に氏から届いていたメイルがあります。そこには「SN2007uy(2008年8月号参照)では、大変お世話になりました。ところで、また別の超新星状天体を見つけました。発見日は、2008年1月2日19時14分、出現銀河はNGC7798です。光度は16.2等。35-cm f/6.8シュミット・カセグレインで撮影した10枚の画像上に確認できます。極限等級は18.0等です。超新星は、銀河核から西に6秒、北に12秒の位置に出現しています。観測中の移動は認められません。過去の画像として2007年11月24日と12月3日のものがありますが、そこには写っていません。DSS(Digital Sky Survey)にもその姿がありません」という別の超新星発見が広瀬氏から届いていました。きっと広瀬氏は、私から応答がないため、「正月だ……。どこかに出かけてしまったのか……」と心配になったのでしょう。『正月早々心配をかけては……』と思い、広瀬氏には23時53分に『広瀬さん。今出てきました。これから処理します。板垣さん、門田さん、別のPSNと新彗星があります。待機してください。ただ、新彗星はうお座と言っていましたので、今夜の確認は無理ですね』というメイルを送っておきました。
ところで、この夜には栃木にいる板垣さんから、昨夜(1月1日未明)の超新星(2007uy)の画像が13時54分に届いていました。また22時23分には、九州の西山浩一氏と椛島冨士夫氏から「12月5日に私たちが発見したアンドロメダ銀河(M31)の新星(2007-12a)が、いつまでも明るいので報告します」というメイルとともに12月9日(16.9等)から1月2日(17.6等)まで9夜の光度観測も届いていました。みんな、正月早々がんばっているようです。さらに23時26分には、広瀬氏の超新星2007uyの発見を正式に告げるIAUC8908も到着していました。そして、広瀬氏の発見をダン(グリーン)に報告したのは、日が変わった1月3日00時11分のことでした。そのメイルでは『さらに別の超新星と新彗星がある。待機してくれ』とダンに伝えておきました。00時19分に上尾の門田健一氏よりさっそく「明日の夕方観測してみますが、銀河中心からの離角が小さいので、分離できないかもしれません」という返事があります。
その間に、気になっていた新彗星の情報が1月3日00時03分にファックスで届いていました。そこには「夜分に申しわけありません。さっそくですが、例の新彗星の件です。2008年1月2日19時59分に15-cm双眼鏡で捜索中に、赤経00h06m30s、赤緯−01゚15'30"の位置、うお座ω星を南に7〜8度ほど降りたところに、光度が10等級、視直径が3'くらいの拡散状天体を捕えました。この付近には明るい星雲、星団はなく、彗星ではないかと思い、動きが見られないかとしばらく観測していましたが、20時すぎには西の空低くになり、雲も出てきたために、十分な追跡はできませんでした。帰宅後、リックの写真星図で、その位置を確認しましたが、発見位置に拡散状の天体はありませんでした。明日の夜、もう一度同じ方向を見てみます」という報告が書かれてありました。そこで、発見位置近くに知られた彗星が来ていないかを確認しましたが、光度が18等以下のラーゾン彗星(2007 R1)が発見位置から約1度の位置にいる以外、明るい彗星はありません。00時30分に報告者に電話をかけ、もう少し詳しい状況をうかがった後、『もったいないから報告しておきます』と伝えました。報告者は発見時のスケッチを送ってくれるとのことでした。そのスケッチは、ファックスで00時43分に届きます。そこで、それを参考にしながら00時59分にダンにこの発見を連絡しました。折り返し門田氏からは、01時12分に「明日の夕方、ねらってみます」と連絡があります。
ところで、この夜の最初に自宅に連絡があった市村氏からの報告は、いったいどうなったのでしょう。まだ連絡がありません。一連の作業が終了すると、急に心配になり、01時00分に氏に電話を入れました。電話に出た市村氏に『報告がまだ来ませんが……』とたずねると、「今、観測所から戻ってきたところです」と話します。『そんなに遠いのですか』「はい。1時間ほどかかります。位置と光度を正確に測定中です。30分くらいで送れると思います」『じゃあ……、待っています』と言って電話を切りました。氏のメイルを待っていた01時25分には、山梨の玉城修氏から1通のメイルが届きます。そこには「2008年1月3日00時25分に28-cmシュミット・カセグレンでNGC2770を撮影した7枚の捜索画像上に16.5等級の超新星を見つけました。過去の複数の画像には、その姿が見られません」という発見報告がありました。しかし、この超新星は、1月1日に広瀬氏によって見つけられた2007uyです。そのため、01時48分になって門田氏が、玉城氏に「発見した超新星は、すでにその発見が公表されている」ことを伝えてくれました。
そして、01時34分にようやく市村氏からの発見報告が届きます。そこには「2008年1月2日夕刻、21時54分JST頃に、28-cm f/8.1シュミット・カセグレン望遠鏡+CCDを使用して、さんかく座にあるNGC634を120秒露光で撮影した多数の捜索フレーム上に17.6等の超新星状天体を発見しました。この天体は、銀河核から西に16秒、北に20秒の位置に出現しています。フレームの最微光星は19.3等です」と書かれてありました。01時40分、氏に電話を入れて「2007年11月18日に撮影された過去画像があって、それには、超新星状天体が写っていないこと、1時間の追跡で移動がない」ことを確かめました。
01時58分、栃木に出張中の板垣氏から電話があります。氏は「彗星状天体の件ですが、実は、昨夜に発見位置を撮影した捜索画像には、彗星の姿がありません。発見位置の周囲も撮ってありますが、やはり見当たりません」という連絡があります。氏のこの報告に驚いて『何で……、そんな位置を撮っているのですか』とたずねました。すると、「へっへっへっ……、広角CCDで彗星捜索もやっています」とのことでした。その際、NGC634の過去画像を調べて欲しいことをお願いしました。02時02分、板垣氏からNGC634の過去画像が届きます。そこで、02時06分に板垣・門田氏に『門田さん、玉城さんへの返信をありがとう。板垣さん、市村氏の超新星は確実にありますね』というメイルを送っておきました。02時20分になって板垣氏より「先ほどNGC634の画像を送りましたが、あれは2006年8月20日に撮影したもので、18.5等級より明るい星はありませんね」とのことでした。
そこで、まず、新彗星の件を処理することにしました。02時24分にダンに『Itagakiが1月2日20時38分に21-cm f3.0+CCDで撮影した、写野が2゚.2角の捜索フレームには、17等級より明るい彗星状天体は見られない。彼の捜索フレームは、ちょうど発見位置とその周囲の空も撮影している。従って、彗星は何かの見誤りであろう』ということを伝えました。02時32分には、門田氏から「玉城さんの件、一目で先日のSNであることが分かりましたので、簡単に返信しておきました。NGC634のPSNは、DSS(1989年)には写っていませんでした。暗い星ですが、銀河の腕から離れていますので、明晩(今夜)ねらってみます。それにしましても、発見が続きますね……」というメイルが届きます。『そうだねぇ……、新年で空が澄んでいる上に晴れている。さらに新月……と捜索者の観測意欲をそそるのでしょうか』というのが、私のこのときの印象です。
さて、同時に進めていた市村氏のJPEG画像からの超新星の出現位置と銀河中心の位置の測定も終わりました。測光された光度は、市村氏の発見光度よりも明るく16.9等でした。超新星は、近くにある17.1等の恒星よりも明るく見え、これが真に近い光度と思われます。これらをまとめて、03時23分にようやく市村氏の発見をダンに送ることができました。続いて、進めていた広瀬氏からの報告のあった超新星状天体の出現位置と銀河中心位置の測定も終了し、これらを03時50分にダンに送付しました。このメイルには、氏の超新星状天体の光度は16.2等、その極限等級は18.0等だったこともつけ加えておきました。
04時17分になって、玉城氏から「先ほどの超新星状天体の確認以来の件についてですが、すでにSN2007uyとして公表されたいたという連絡を門田さんから受け取りました。超新星2005glのときもそうでしたが、そのときは名寄の佐野康男さんに先を越され、今回は広瀬さんに先を越されました。なにしろ機材を車に積んで観測地まで出かけますので、対応が遅れます。一晩にようやく300個くらいの銀河の捜索をこなせるようになりました。今年は、幸先は良いようですので、がんばりたいと思います」というメイルが届きます。そこで、05時01分に氏に『玉城さん、超新星発見がまだ2個続いています。その処理をしている最中に門田氏が「私(中野)は忙しいだろう……」と気をきかせて、送ってくれました。皆様方、ご苦労様でした。超新星2007uyの発見(新天体発見情報No.116)を報道各社に出しましたので、参考のために送付します。板垣さん、No.113〜116まで、お名前が途絶えています。順調にいけば、さらに2号途絶えますね。彗星が実在すれば3号……です。これは、近年ではめずらしいことです』というメイルを送っておきました。
超新星 SN2008B in NGC5829
『発見情報も出したし、今夜はこれで終わりだ。これで通常の仕事に戻れる』と思っていました。しかし、05時58分に電話が鳴ります。板垣氏でした。『どうかしましたか』とたずねると、「私も1個見つけました」と言うのです。氏は「メイルを送りました」とのことです。そこで、メイルを見ると、氏の発見報告は05時54分に届いていました。そこには「2008年1月3日早朝、05時16分にうしかい座にあるNGC5829を栃木県にある高根沢観測所の30-cm f/7.8反射望遠鏡+CCD使用して撮影した捜索フレーム上に、16.4等の超新星を発見しました。30分の追跡で、移動は認められません。1年近く前の2007年2月25日に撮影した捜索フレーム上の出現位置に、18.5等級より明るい星はありません」という報告とともにその出現位置と銀河中心位置が書かれてありました。もちろん、氏の発見も直ちにダンに連絡しました。1月3日06時09分のことです。板垣氏からは、06時25分に「中野さん、拝見しました。ありがとうございます。門田さん、よろしくお願いします。まぁ〜、びっくりですね!こんなに発見が続くのは初めてですよね!ありがとうございました」というメイルが届きます。
業務終了前の07時33分には、玉城氏から「まだ2個あるとのことですが、まさかNGC4591のことではありませんよね。1月1日から2日の間の夜に撮影した画像に要確認の恒星像があります。今夜にも、再度確認したいと思っています。すみません、きちんとした報告が出せるようにしてから連絡するようにします。気になったもので、すみませんでした」というメイルもあります。氏には、07時52分に『今夜、全部で3個の発見報告がありましたが、お知らせいただいたものではありません。なお、中央局のページを観測前に必ず見てください。報告のあった超新星(2007uy)は、1月1日から入っていました。このウェッブ・ページを見てないといういい訳は、中々通用しなくなっています。報告に、出現位置と銀河中心核の精測位置(0".1単位まで)がない場合、必ず、中心核からの離角(0".1単位まで)を報告してください。これもない場合は、多くの場合受けつけられません』という返答をしておきました。結局、この日の朝、自宅に戻ったのは08時20分になっていました。年末から続いていた晴天も、この日は、曇った寒い朝に戻っていました。
1月3日夜、出勤の準備をしていると、市村氏より21時37分に「NGC634に発見した超新星の出現を確認できました。今夜21時半に17.5等でした」という電話があります。氏には『すでにメイルでお知らせしたとおり、私の方で、測光すると光度は1等級近く明るくなります。どのように測光していますか』とたずねておきました。朝には曇っていた空も、その夜はまた晴れ間が戻っていました。23時30分に自宅を出て、近くのコンビニで食料品を購入して、23時50分にオフィスに出向いてきました。『さぁ……、たくさんのメイルが届いているぞ……』と期待しながら、メイルを見ました。まず、玉城氏からの返信が08時26分、そして、16時45分に門田氏から「うわぁ〜〜、いよいよ、真打ち登場ですね。中野さんが送られた『お名前が途絶えています』の激励が効いたようです。年頭から発見が重なる大変な状況になりました。昨夜は、作業を終えた後でしたので、今夜にねらってみます。現在は雲が多い状態で、別件の夕方の観測は微妙かもしれません」という連絡がありました。さらに18時52分に板垣氏から「NGC634の超新星は確実に存在します。1月3日18時23分の観測では16.7等でした。なお、広瀬さんの超新星(NGC7798)はないようです。門田さん、いかがですか。画像は60-cmでの過去画像です」という報告。18時58分には、門田氏より「今日も栃木ですね。ご苦労さまです。晴れてきましたので観測を始めました。まずNGC7798 を撮っています。何フレームか撮像したら、次に行きます」という連絡。19時07分には、広瀬氏から「連日、ご迷惑をおかけします。PSN(NGC7798)を18時23分に撮影しましたので、画像をお送りします。ちょうど、腕のこぶの所で、光度測定ではバックの明るさをひろってしまうようです。今日の等級は16.3等でしたが、そばの星と比べるともっと暗そうです。ついでにNGC634のPSNも、18時38分に撮影、測定しておきました。光度は16.7等となります」という報告。19時29分には、門田氏から広瀬氏あてに「こちらの今夜に1月3日19時頃に撮影した画像では、PSNの位置に集光があるように見えますが、ピクセル分解能(3".3/pixel)が低いため、星がどうかはよくわかりませんでした。添付のDSS画像(1991年)では、該当位置に明るい集光部、または、星があるようです。板垣さんから見られないようだという報告がありましたので、氏のメイルを転送します」という連絡が届いています。
さらに、彗星状天体について、門田氏から19時53分に「すでに発見から1日が経過していますが、1月3日19時半頃、発見位置の1゚.5四方をCCDカメラのフォーカスモードを使って(およそ14等まで撮影可能)で探してみました。しかし、明るい彗星状天体は見つかりませんでした。まだ地平線上ですので、追加の情報がありましたら、すぐ向けます」という連絡。20時03分には、板垣氏より「PSN in NGC7798のことです。18時52分着のメイルには「広瀬さんの超新星はないようです」と書きましたが、「存在を確認できませんでした」に訂正します」というメイル等々……(以下、次号で紹介します)、夜半にオフィスに出かけてくるまでの間に、延々、昨夜の発見に関係した14通のメイル、さらに20時56分と22時05分に彗星状天体について2通のファックスが届いていました。『これは、寝すぎた。しくじった』です。これらをまとめて、これからダンに報告しなければなりません。以下、次号に続きます。