天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

039

2008年10月4日発売「星ナビ」11月号に掲載

超新星 2008R in NGC1200

1月27日夜20時20分、山形の板垣公一氏より、自宅に「エリダヌス座にある系外銀河NGC1200に超新星状天体(PSN)を発見した」という電話があります。急いでオフィスに出向いてきたのですが、実はこの頃、オフィスのコンピュータにシステム・トラブルがあったため、氏のメイルを読むことができません。2時間ほどの間、だましだましシステムを復旧しようとしましたが、うまくいきません。そこで、使っていなかったVista搭載のコンピュータを立ち上げて氏のメイルを読んだのは、23時50分になってしまいました。

板垣氏のメイルは、20時41分に届いていました。そこには「山形がめずらしく晴れました。超新星らしき天体を発見しました。発見時刻は19時55分。光度は15.5等です。60-cm反射での発見です。2006年8月27日に撮影した画像には写っていません。最近の画像は栃木に行かないとわかりません。山形では、今年初めての捜索です」という報告と、超新星の出現位置、および銀河中心の測定位置が書かれてありました。幸いにもこの情報は、いつも確認観測を行ってくれている上尾の門田健一氏にも転送されていました。21時20分には、その門田氏より「彗星を観測中でしたが、今、望遠鏡を向けて撮像中です。風が強いため、悪戦苦闘中ですが、ブレていないフレームを見てみると、発見位置にDigital Sky Survey(DSS)に写っていない星が存在します。しばらく撮像を続けて、ブレがないフレームをコンポジットして測定します」というメイルが届いていました。『良かった。門田氏はすでに確認中だ……』と安心しながら、次に、門田氏より届いていた21時58分のメイルを見ると、そこには「NGC1200のPSNを確認しました。板垣さんからの報告の位置に、明瞭な恒星像が存在します。機材は、25-cm f/5.0反射+CCD(ノーフィルター)です。1分露光の5枚のフレームをコンポジットした画像からの測定です。位置はGSC-ACT、光度はTycho-2(V等級)で測定しました。極限等級は18.0等でした」という連絡とともに、その出現位置と銀河中心位置が報告されていました。観測時刻は21時10分で、氏の光度は15.6等でした。

そのあと、板垣氏からは、22時12分に「山は吹雪になったので家に戻りました。確認観測をありがとうございます。取り急ぎお礼まで……」というメイルも届いていました。つまり、私がオフィスに出向き、メイルが読めるようになったときには、すべての作業が終了していました。『いつも、この調子ならありがたいなぁ……』と思いながら、報告を作成し、板垣氏の発見を中央局のダン(グリーン)に送ったのは1月28日00時27分のことです。そこには、もちろん、板垣氏の発見と門田氏の確認まで書き込みました。

01時10分になって、板垣氏より「あらためまして、こんばんは。拝見しました。ありがとうございます。山形では、吹雪が続いていたので家を出て、1月25日と26日は栃木にいました。2日とも晴れたので朝まで捜索をしました。かなりの画像を撮りましたが、収穫は無し。でも、1月27日に山形に戻ったら、空に少し晴れ間あり、中央局の未確認天体のページにあるPSNを観測、そして、わずか数コマ捜索を行うとPSNを発見しました。まぁ〜、発見とは、意外なものです。ありがとうございました」というメイルが届きます。『そうだねぇ……。いくら捜索しても見つからないのに、あるとき、あっという間に発見してしまう』。発見とは、そんな偶然が重なるものなのでしょう。この夜は07時55分にオフィスを出て、途中のガソリン・スタンドで灯油を買って、08時40分に帰宅しました。

その夜の出勤(?)は、所用のため遅くなってしまい、小雨が降る中オフィスに出向いてきたのは、1月29日01時00分になっていました。その夜(1月28日)の20時32分には、板垣氏から「こんばんは。昨夜は、大変お世話になりありがとうございました。今夜の山形は雪は降っていませんが、星空は100%無理な空です。山に来て待機していましたが、断念しました。家に戻ります」というメイルが届いていました。この時期、日本国内は悪天候に見舞われ、その後のこの超新星の確認は行えませんでした。

初めにも書いたとおり、この頃、私にもコンピュータのトラブルという災難が訪れていたのです。そこで、現状を板垣氏と門田氏に伝えておくために、02時32分にメイルを送っておきました。ちょうど、原稿の締め切り時期でもあったので、当編集部の川口氏にもそのことを伝えておきました。そこには『門田さん。昨夜は、ご苦労様でした。板垣さんの報告からずいぶん時間がかかりましたが、実は、以前からトラブッテいたメイン・フレームがメモリエラーを出して、頻繁にハングアップするようになりました。仕方なく、板垣さん発見の前日に、Windows XPを再インストールしようとしたのですが、DVDに読み取りエラーが出て、1ヶ月前に同じDVDからインストールしたXPがどうしてもインストールできません。でも、DVDがおかしいのではないことを他のDVDで確かめました。結局、システムを復旧できず、そのまま、帰った夜に板垣さんの発見がありました。どういうわけか、発見ってそんなときに多いですよね。仕方なく、メイン・フレームを回復しようと、2時間ほど、悪戦苦闘しましたが、うまくいきません。それで、そばにあるVista(半年前に購入した)のWindows Mailを起動しました。もう1台のXPは、観測室に行ってしまったので、オフィスにはないのです。しかし、このVistaのWindows Mailは、ディレクトリー構造が違うのですね。また、LINUXばりにLINKが使えるようになっています。アドレス帳がどこにあるのか、わかりません。そのため、手で打ち込みました。それで何とか報告したのが、あの時刻でした。まぁ、向こうでは、グリーンが出勤の時刻ですから良いようなものですが……。ただ、休日で出勤しなかったかもしれません。で……、メイン・フレームのメイラーを回復しました。しかし、どうしても、IAUCやCBETを受けているBOXからメイルを取れません。他のBOXからのメイルは受け取っているのにです。サーバの記録を見ると、POP3でログインできています。また、Vistaのメイラーは、同じBOXから問題なく受け取っています。さらに、やはり、メモリエラーが出てハングアップもします。また、グラフィック・コントローラのDRIVERが、インストールできないために、2画面も取れず、画面の反応速度も、のろのろで、これ以上、使う気がしません。そのため、新しいコンピュータを購入することにしました。私の仕事道具ですから、まぁ、やむを得ません。でも、わずか、2年の寿命でした。こんなに寿命の短いコンピュータは初めてです。当たりが悪かったというか、もう、むっか……です。川口さん。そういうわけで、ゲラがちょっと遅れました』と今の状況が伝えられていました。

そんなときのことです。02時58分、門田氏より1月28日00時前後に観測されたP/2008 A2が届きます。この彗星の国内での初観測(19等級と暗いため)でしたので『上尾の門田健一氏から2008年1月27日の観測が報告されました。氏のCCD全光度は19.3等でした。彗星は周期が5年半ほどの新周期彗星でした』というコメントとともにOAA/CSのEMESに入れ、仲間に知らせました。05時06分のことです。これには、コンピュータがうまく動くという確認もあったのです。しかし、結局この夜も日本では悪天候が続き、第2夜目の確認観測は得られませんでした。

1月29日夜、オフィスに出向いてきたのは日付が変わった1月30日00時45分のことです。外はまだ、小雨が続いていました。すると、その日の昼、1月29日12時24分に板垣氏の超新星発見を告げるCBET 1230が届いていました。そこには「未確認天体のウェッブ・サイトに掲載されたこの天体は、イタリアのコレリーによって、1月28日03時51分と29日04時06分に確認された。この超新星は銀河核から西に12"、南に9"の位置、赤経α=03h03m53s.70、赤緯δ=−11o59'39".4に出現している」と公表されていました。それを見た板垣氏から13時25分に「こんにちは。おかげさまでSN2008Rになりました。中野さん、パソコンのトラブルの中ありがとうございました。門田さん、強風での悪条件の中ありがとうございました。山形では、今年初めての晴れ間でした、ほんとうに奇跡です」と書かれてありました。しかし、そのCBETには、ちょっとしたミスがあったため、04時26分にダンに「Itagakiの超新星の公表をありがとう。何度も言っているとおり、山形は有数の積雪地域だ。今回は、我が国全域で天候が悪く確認できなかった。その上、Windowsコンピュータにシステム・トラブルが発生し、何もかもが遅れ気味で推移している。ところで、これから京都に出かけるので、1日ほど連絡が取れないことになる』という連絡とともに伝えておきました。ダンからは、04時45分に「タイプ・ミスは、次の回報で訂正するつもりだ。HICQ2008の光度データが遅れているが、忙しいため、中々進まない。もうちょっと待ってくれ……」というメイルが届きます。ダンは、1月30日10時24分到着のCBET1232で、公表したこの超新星のスペクトル確認とともにタイプ・ミスを修正していました。それを見た板垣氏からは、同日11時42分に「おはようございます。中野さんとダンは、どんな関係か知りませんが、とても良い感じですね! さすが中野さんの心配りと思います。私のことで、ありがとうございます。心より感謝をしております」というメイルが届いていました。

このページのトップへ戻る

さんかく座M33に出現した新星2008

2月7日深夜、01時30分に北見の円舘金氏から「今夜のサーベイで、前回と同じような傾斜角の大きな18等級の小惑星を発見しました。モーションも少し大きいです。MP Checkerで調べましたが、該当する小惑星はありませんでした。普通の小惑星だと思いますが、念のため、1夜の観測ですが報告いたします」というメイルとともに、その発見観測が届きます。そこで、送られてきた観測から、バイサラ軌道を決定すると、軌道傾斜角は18゚、軌道長半径が2.02AU、離心率が0.0761となります。そのため、氏には、01時59分に『ハンガリア族(i=18゚)ではないでしょうか。もう1夜観測を待ちます』というメイルとともにその軌道を送っておきました。ハンガリア族は、その移動が速いので、特異小惑星と間違われることがままあるのです。円舘氏からは、02時17分に「了解しました。明日晴れたら観測致します。天気予報では、夕方頃から曇りの予報が出ていました。お手数をお掛けしました。ありがとうございます」という返信が届きます。

ところで、この日は、また、京都に出向かねばなりません。そこで、03時30分に仕事を終えて、自宅に戻り、しばらく休息して、07時40分にいったんオフィスの戻り、08時15分、京都に向けて出発しました。帰宅は、2月7日18時30分になりました。それから、睡眠をとり、オフィスに出向いてきたのは、2月8日04時15分のことです。この夜は、急を要する観測は届いていませんでした。そこで、09時05分に自宅に戻りました。その夜は、夜半まで睡眠し、近くのコンビニで、その夜の食料を購入して、再び、オフィスに出向いてきたのは、2月9日01時45分のことでした。この時期、年のせいか無理をすると、中々、疲れが取れないため、しばらくの間、このような勤務体制となってしまいました。しかし、この日は、アストロアーツの大熊正美氏が夫妻で来島の予定です。そのため、2月8日11時55分に届いていた「明日、予定通り洲本へまいります。とはいえ、天気予報では、何だか雪模様ということで、どこかで足止めを食らう危険もありますが……。日頃の行いが悪いのでしょうか。せっかくの淡路行きだと言うのに……。淡路SAあたりから電話します。よろしくお願い致します」という氏のメイルに9日02時03分に『はい。楽しみにお待ちしています。雪かも知れませんね……』と返信しておきました。ということは、今日は、昼間に起きていなければいけません。そのため、なるべく早く帰宅したかったのですが、結局、小雨の降る寒い空の下、帰宅は09時15分になってしまいました。大熊氏からは、14時50分に電話があり、ホテルで落ち合うことにしました。氏の最初の一言は「寒かった……」です。そのあと、ジャスコで奥様を降ろし、二人でオフィスで話をして、18時過ぎに3人で夕食に出かけました。翌2月10日は、天候がいくらか回復し、晴れ間が見えました。そこで、南淡路にある淳仁天皇陵、鳴門へ出向き、渦潮を見て、少し時間が残ったので、三熊山の洲本城跡を案内しました。そして、13時頃、夫妻は帰京して行きました。

さて、この時期には多くの発見が報告されました。たとえば、その夜(2月8日)には久留米の西山浩一氏とみやきの椛島冨士夫氏から20時46分に1通のメイルが届いていました。そこには「共同で行っている超新星サーベイで、M31に新星(2008-02a)を発見した」とのことです。円舘氏からは、2月9日00時49分に昨夜に発見した小惑星の2夜目の観測が届いています。さらに2月13日20時38分には、西山・椛島氏から「M31に出現した別の新星(2008-02b)」の発見報告。2月14日には、板垣氏から「NGC3147に見られる超新星状天体」。2月16日21時13分には、津山の多胡昭彦氏から「捜索画像に写った彗星状天体」。昨年4月に櫻井幸夫氏によって発見された「いて座新星(V5558)」が、まだ9等級と明るくその増光が続いていたため、その複数の発見報告。茨城の古山茂氏から報告された「高速移動天体」。中国で2月1日に発見されたチェン・カオ彗星の追跡観測など、多くの報告が2月26日朝まで続いていました。しかし、これらをすべて紹介していると、数か月号分のページが必要ですので、ここでは省略させていただきます。

そんなとき、西山・椛島氏から2月27日21時31分に自宅に電話があります。氏らの言うことには「さんかく座にあるM33に新星状天体(PN)を発見した」とのことです。急いで支度を整え、22時35分に自宅を出て、ジャスコで買い物をして、23時15分にオフィスに出向いてきました。氏らからのメイルは、21時25分に届いていました。そこには「20時11分頃に系外銀河M33(NGC 598)を40-cm f/9.8反射望遠鏡+CCDカメラで撮影した9枚の捜索フレーム上に16.5等の新星状天体を発見しました。最近では、2月20日と21日夜にこの銀河を捜索していますが、その捜索フレームには、18等級より明るい星は、出現していません。また、この新星状天体は、DSSで過去に撮影されたフレーム上にも、その姿が見られません。新星は、銀河核から東に330"、南に8"の位置に出現しています」という報告と、その出現位置、光度(16.5等)が書かれてありました。さっそく、氏らの発見をダンに報告しました。23時31分のことです。しかし、発見位置がすぐ沈んでしまったために当夜の確認観測は報告されませんでした。この朝は、発行作業を進めていた山本速報を郵便局に運び、09時20分に帰宅しました。

山本速報を発行するときは、一晩飲まず食わずでの作業となります。1回の発行が終わるとぐったと疲れ、その日の深夜まで眠ってしまいます。そのため、この夜オフィスに出向いてきたのは2月29日の01時15分になっていました。空はまだよく晴れていました。すると、2月28日22時19分には西山・椛島氏から、両氏が発見したM33の新星は、その夜には光度が16.7等で存在することが報告されていました。また、22時24分には、宇都宮の鈴木雅之氏からは、オーストラリアにある25-cm反射を遠隔操作して、中央局の未確認天体のウェッブ・ページにあるがか座に見られた変光星状天体の観測も届いていました。西山・椛島氏の確認観測は、2月29日01時32分にダンに報告しました。ダンは、2月29日12時14分到着のCBET1272で、氏らの発見を公表しました。なお、西山氏と椛島氏は、2007年9月にも同銀河に新星を発見しています。

2月29日夜、23時にオフィスに出向くと、17時42分に西山氏から「今日29日16時半過ぎにM33のサイトを開いたら、Nova M33(2008)が載っていました。それによるとCBET1272が出典のようです。ありがとうございました。M33の新星といえば、われわれにとって思い出の初発見でした。2年続けてM33に新星を発見できて、大変うれしいです」というメイルが届いていました。そこで、3月1日00時00分に『印刷用のCBETが添付ファイルにあります。ところで、超新星の捜索をしたいと、最初は聞いていたのですが、難しくってあきらめたのですか』というメイルを送っておきした。すると、西山氏からは「超新星はちゃんとやっているのですが、見つかりません。天文台は暗いところにありますが、100万人近くが住む大平野のまっただ中だけに、条件が悪いからかもしれません。もっとも、広瀬さんはもっと条件の悪い所で発見しているのですから、まだまだ努力が足りないのでしょう。ところで、今夜もM31にPN(2008-03a)を見つけました。よろしく」というメイルが3月1日21時25分に届いていました。氏のメイルにもあるとおり、世間では『板垣さんは簡単に超新星を発見している』と思われがちですが、天体の発見というのは、中々難しいものなのです。

このページのトップへ戻る

超新星 2008ax in NGC4490

3月4日の夜は、久しぶりに早く21時すぎのオフィスに出向いてきました。一連の作業をしていると23時58分、山形の板垣公一氏から「りょうけん座にあるNGC4490に超新星を発見した」という電話があります。その氏からの報告は、3月5日00時20分に届きます。そこには「2008年3月4日夜、23時46分にりょうけん座にある系外銀河NGC4490を60-cm f/5.7反射望遠鏡+CCDで撮影した捜索フレーム上に、16.1等の超新星を発見しました。昨年2月27日にもこの銀河を捜索しています。しかし、その夜の捜索フレーム上の出現位置に19.0等級より明るい星は見当たりません。また、この超新星は、過去の多数の捜索フレーム上にもその姿が見られません」という報告と、超新星の出現位置と銀河中心の測定位置が書かれてありました。板垣氏からは、00時45分にその発見画像が送られてきます。画像を見た限りでは、見かけ上は、銀河の内部に出現しているように見える超新星でした。氏の発見は00時52分にダンに報告しました。そこには「NGC4490は、近接銀河のため、この超新星は、明るくなる可能性がある」という板垣氏のコメントをつけ加えておきました。そしてそのあと、参考のため板垣氏の発見画像をダンに送付しておきました。

01時03分には、上尾の門田健一氏より「面白い姿の銀河に出現しましたね。今夜は曇天で観測はお休みです。黄砂の影響で透明度が低くなってきました。そろそろ観測シーズンも終盤です」という返信が届きます。板垣氏からは、01時10分に「中野さん、拝見しました。ありがとうございます。門田さん、晴れましたらよろしく。画像です。光度変化を追っかけています。取り急ぎお礼まで」という連絡があります。そして、04時19分には、予想どおり「超新星が少し明るくなっている」という報告が板垣氏より届きます。それから、約25分後の04時45分にこの超新星の発見を告げるCBET1280が届きます。ところが……です。以下、次号に続きます。

このページのトップへ戻る