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- アポロ型特異小惑星 2008 QS11
- オリオン座の不思議な天体
- バーナード・ボアッティーニ周期彗星 206P/Barnard-Boattini(1892 T1=2008 T3)
- NGC 3432近くの変光星、りゅう座の矮新星、超新星 SN 2008gg in NGC 539
アポロ型特異小惑星 2008 QS11
山形の板垣公一氏がNGC 3147に発見した超新星2008fvが公表された次の夜(2008年9月29/30日)は、台湾付近に上陸した台風15号の影響を受けて大荒れの天気でした。そのため、この夜は、わが家で仕事を済ませていました。でも、最近の台風は日本には来ないで、台湾か中国大陸に向かうものが多くなりました。気圧配置が変わったのでしょうか。それとも、台風に中国に向かいたい理由があるのでしょうか。その嵐の夜、2008年9月30日00時32分に板垣氏から電話があります。氏は「21-cm望遠鏡で捜索中に14等級の動きの速い小惑星を見つけた」というのです。『へぇ〜。こんな天候でも、北は、晴れているのか……。日本は広い』と思ってしまいます。ところで、20等級より明るくなる小惑星の大半が発見された今、動きの速い小惑星で14等と明るくなる小惑星の発見の場合、この天体は間違いなく地球に接近して発見されたアポロ型小惑星です。そこで、やむなく大雨の中、オフィスに向かいました。00時55分のことです。途中の道路では、山からの水が流れ出て道をふさぎ、その道にはたくさんの木々や木の葉が散らばっていました。
オフィスに到着すると、板垣氏からの報告は00時42分に届いていました。そこには、9月30日00時20分から00時32分までに行われた6個の観測とその光度が14.5等であることが報告されていました。このわずかに12分の間にも、この天体は北東方向に272"(約4'.5)も移動しています。これは、日々運動にすると何と1日あたり10゚の高速移動をしている天体となります。発見した天体が新天体であるかどうかの概略のチェックは、すでに板垣氏が行なってあります。そこで、とりあえず何もチェックしないで01時16分にこの高速移動天体を小惑星センターに報告しました。すると、センターの自動検索システムから、即座にこの小惑星は2008 QS11だ」という連絡が01時18分に届きます。『なぁ〜んだ。そうか……。失敗、失敗……』と思いながらこの小惑星を調べると、小惑星はすでに2008年8月27日にサイディング・スプリングの50-cmシュミットで18等級で南天に発見されていました。つまり、発見後、この小惑星が北上し、地球に接近して14等級まで明るくなったところで板垣氏が見つけたものでした。小惑星は、9月末には地球に0.04 AUまで接近していました。01時22分に板垣氏に電話を入れ、このことを連絡しました。01時25分には、上尾の門田健一氏にも連絡しました。
そのあと、これまで報告されている観測を集めてその軌道を改良しました。その結果を01時37分に『電話で言ったとおり大雨です』という連絡とともに板垣・門田氏に送りました。また、OAA/CSのEMESにも『板垣・金田氏は、21-cm f/3.0反射で行なっている彗星捜索の過程で、2008年9月29日にエリダヌス座を撮影した捜索フレーム上に、日々運動が10゚で移動する光度が14等級の高速移動天体を発見しました。しかし、この天体は、すでに8月27日にサイディング・スプリングで発見されていた2008 QS11であることが判明しました。なお、この小惑星は、10月2日に地球に0.028 AUまで接近し、この頃13等級まで明るくなります』というコメントとともに入れました。板垣氏による新天体の発見が続いていますが、しばらくすると氏によるアポロ型天体の発見も期待できるでしょう。なお、明るくなった小惑星ですが、板垣氏による観測以外、日本から新たな観測は、報告されませんでした。
オリオン座の不思議な天体
本誌2009年4月号と5月号でホンの1行だけ紹介したオリオン座のV1647の再増光は、8月27日早朝04時すぎに、山形の板垣公一氏から「オリオン座のM78の近く、赤経05h46m.2、赤緯−00゚06'に不思議な天体を見つけました」という電話が入ったことから始まります。事情を聞くとはるか昔に何かの記憶があります。氏に『前に同じ現象がなかったですか』と聞きましたが、氏の記憶も定かではありません。過去のメイルを調べましたが、いったい何年前の現象であったのかがわからず見つかりませんでした。そこで2008年8月27日05時15分に中央局のダン(グリーン)に『Itagakiは、散光星雲M78の近くに不思議な天体を見つけた。それは星雲と16.7等の恒星で構成されている。画像を送るからそれを見てくれ。彼は、2008年1月2日にはそこには何もなかったと言っている。ただ、この現象は、以前に公表されていた気がする。しかし、いつの現象であったかどうしても思い出せない。きみはこの現象を覚えているか?』というメイルを送りました。板垣氏からは、その後もこの天体についての情報が届きます。そこで、06時23分と06時40分にダンに恒星の位置とその後に判明したことを再度、画像とともに連絡しておきました。
その夜(8月27日)は、22時55分にオフィスに出向いてきました。すると、その日の朝の07時06分、板垣氏から「今朝ほどはたいへんお世話になりました。M78付近の天体のことで、札幌の金田宏さんが調べて下さいました。中野さんのおっしゃるとおりかなり前のできごとでした。同じ天体がまた増光したのでしょうね。なお、この天体は彗星捜索時に入ってきたものです。昨年から金田さんと共同で彗星探しを始めました。そのうちに地球に衝突する彗星を発見したいと思います。そのときはよろしく」というメイルが届いていました。そこで、このことを23時12分にダンに連絡すると、ダンからは「そうだ。それはV1647 Oriだ。IAUC 8284〜8694を見ろ。この天体が再増光したのなら、それは公表することが必要だ」というメイルが届きます。そして、ダンは8月29日06時09分到着のIAUC 8968で「板垣氏がV1647 Oriの再増光を見つけた」ことを紹介してくれました。
さて、話を現時点に戻しましょう。つまり、それから約1か月が過ぎた9月30日、板垣氏から報告のあった高速移動天体が2008 QS11であったことが判明したときまでです。03時40分に板垣氏からまた電話があります。氏は「この前のオリオン座のV1647に似た、また変なものを見つけた。でも、今度のものは彗星の形をしていますが動いていません」と話します。そして、氏からは「その位置(赤経05h40m.5、赤緯−07゚28')と光度(16.8等)、画像が送られてきます。画像を見ると、確かに彗星のような形をしています。こんなものが彗星捜索中に写野に入ってきたならば、きっと氏はぎくっ……とびっくりしたことでしょう。板垣氏によると「発見は、21-cm f/3.0によって10秒露光で撮られたの2枚の画像からで、1時間にわたる追跡でも移動はなし」とのことでした。氏は「これは報告してください」と言います。そこで、04時16分にダンに『Itagakiは、21-cm反射で月30日早朝に撮影した2枚の捜索画像上に、また、オリオン座のV1647のような奇妙な天体を見つけた。この天体の存在は、即座に60-cm反射で撮られた極限等級が18等級の画像上に確認された。ただし、移動はしていない。彼の言うことには、この位置には銀河はない。Digital Sky Survey(DSS)上にもこの天体は見られないとのことだ』というメイルを送りました。
ところがです。天体の存在が気になってか、別の波長域(IR)で撮影されたDSSの画像を調べていると、この天体が写っている画像がありました。そのため、04時36分にダンに『この天体が写っている画像を見つけた』と伝え、この件は終了することにしました。なお、先月号で紹介した「わし座新星2008」の公表(10月4日)はこの後のできごとです。
バーナード・ボアッティーニ周期彗星
206P/Barnard-Boattini(1892 T1=2008 T3)
10月9日02時16分到着のIAUC 8993にボアッティーニによって発見された新彗星(2008 T3)の発見が公表されます。そこには「ボアッティーニは、カテリナ・スカイサーベイの68-cmシュミットで2008年10月7日にはくちょう座の天の川星域を撮影した捜索フレーム上に17等級の新彗星を発見した。発見当時、彗星には9"ほどの強く集光したコマと南南東に淡く広がった25"〜30"どの扇形の尾が見られた。10月8日に発見者自身がレモン山の1.5-m反射で撮った画像では、西南に25"まで伸びた明るい尾が見られた」ことが報告されていました。
その発見の公表からわずかに34分後の02時50分のことです。ドイツのメイヤー(マイク)から1通のメイルが届きます。そこには「この彗星(2008 T3)は1892年の出現以来、長く見失われていたバーナード第3彗星(1892 T1)と同定可能だ。私は、最新の2008 T3の軌道にわずかな修正を加えると1892年の出現軌道が得られることを確かめた」と書かれてありました。さらに、その29分後の03時19分には「2008年10月7日と8日に行われた55個の観測から決定した軌道から、1892年の出現時でバーナード彗星と同じ軌道が計算できる」というメイルと、その軌道が送られてきました。氏から送られてきた軌道を見ると、それは、バーナード彗星(1892 T1)そのものの軌道でした。
『ジャコビニ彗星に続いて、またやられてしまった……』と思いながら、1892年と2008年の連結軌道を計算してこの同定が正しく結ばれるかチェックすることにしました。すると、2回の出現を表現する連結軌道がすぐ得られこの同定が正しいことがわかります。そこで、このことをブライアン(マースデン)、ダン、マイクに「マイク。きみの同定を連絡してくれてありがとう。下の連結軌道に示すとおりこの同定は正しいものだ。なお、1892 T1の軌道は40個の観測から決定されているが、私の手元には1892年出現時の観測は9個しかない。たぶん、中央局では彼らのライブラリーからその他の観測を探してくれるだろう」というメイルを送っておきました。10月9日04時42分のことです。この結果は、06時36分に『ドイツのメイヤーから、1892年に出現しその後見失われているD/1892 T1と最近発見されたP/2008 T3が同定可能であるという私信が届いた。OAA計算課では、この同定のチェックをしたところ、氏の同定が正しいことを確認した。彗星は、見失われて以来20公転して再発見されたことになる。なお、彗星は、1922年10月、1934年8月、2005年8月に、それぞれ、0.28、0.30、0.41 AUまで木星に接近していた』というコメントをつけて、EMESにも入れて仲間に知らせました。
07時17分にダンから「1892年の9個の観測をどこから手に入れた。今、ギャレット(ウィリアムズ)がライブラリーから探し出した当時の観測を2000年分点に整約中だ」というメイルが届きます。そこで07時23分に「それらの観測は、たぶん私がそこに滞在していたときに手に入れたものだろう」という返事を返しておきました。ダンは、その52分後の08時15分に到着のIAUC 8995でこの同定を公表しました。最近、多くの暗い新彗星が発見されていますが、それらの中に過去に見失われた彗星が含まれている可能性もあります。したがってその初期軌道には十分に注意を払うことが必要です。しかし、連結軌道の計算されていないこれらの周期彗星も残っているものが15個ほどと少なくなってきました。
NGC 3432近くの変光星、りゅう座の矮新星、
超新星 SN 2008gg in NGC 539
バーナード彗星の同定が公表された10月9日朝は、09時10分にオフィスを出て実家によって10時00分に自宅に戻りました。ひさしぶりに犬ちゃんに出会いました。『お前、ひさしぶりだなぁ……。初めて出会ってからもう6年か。お前もずいぶん年をとったなぁ……』と話しながら、買っておいたハムをあげました。その夜は、美星から浅見敦夫氏がやってきます。そのため、少し早目の13時30分に眠ることにしました。そして、浅見氏から「今、大橋を通過しました」と連絡があって起こされたのは20時32分のことです。身支度を整えて、21時00分に自宅を出て、ジャスコによってオフィスに出向いてきたのは21時30分、浅見氏もそのとき到着しました。氏に購入してもらったコンピュータ・パーツを受け取り、食事をして氏が美星に戻って行ったのは23時30分のことです。
浅見氏が美星に帰って行ったその夜のことです。10月10日04時00分に山形の板垣公一氏から「おはようございます。未確認天体のウェッブ・ページにある超新星状天体(psn/NGC3432)を10月10日03時41分に観測しました。この天体は17.5等で確実に存在します。60-cm f/5.7反射+CCD(ノーフィルター)での観測、極限等級は19等、過去画像には存在しません」というメイルが届きます。そこで、氏の確認を04時22分にダンに報告しておきました。さらに、氏からは04時33分に「九州の西山浩一氏と椛島冨士夫氏が10月8日02時03分にアンドロメダ銀河に発見した新星(発見光度18.1等、M31 2008-10a)」の観測が届きます。そこには「観測時刻は、10月10日04時23分、光度は17.7等です」と報告されていました。『あれ〜、板垣さん。今夜は暇なのか……』と思ったそのときの04時36分にダンから「Itagakiが比較に使った過去画像の日付と極限等級は何なのだ」という問い合わせが届きます。さらに板垣氏からは、04時52分に「これも報告をお願いします。未確認ページにある星(var/Dra)ですが、これは10月2日21時47分に14.9等でりゅう座に発見したものです。山岡均氏にお願いした星ですがお蔵入りになりそうです。現在(10月9日21時32分)の光度は15.6等です。なお、この星は矮新星候補です」というメイルも届きます。
そこでまず、04時55分にM31の新星について『過去の画像のもっとも新しい日付をください』というメイルを送りました。すると、板垣氏からは、05時09分に「2007年10月13日と2008年10月1日です。それぞれ19.5等と18.5等の極限等級の画像には、その出現はありません」という返答が届きます。続いて05時10分にvar/Draについて同じ問い合わせ『過去の画像のもっとも新しい日付をください』を送りました。氏からは、05時22分に「この星は、21-cmでの捜索ですので、過去画像は2008年6月12日撮影のもののみで、極限等級は17.5等です。10月2日の発見画像では14.9等で、これらは中央局に報告済みです。なお、その後の観測として、10月3日には15.0等、9日には15.6等です」という返答があります。さらに、05時22分にpsn/NGC3432について、同じ質問を送りました。すると、板垣氏からは、05時36分に「この銀河は東の空から出てきたばかりですので、最近の深い画像はありません。照合用の画像は、2007年2月20日、極限等級が19等のものです」と、いずれの問い合わせにもほとんど即座に返答があります。『どうも板垣さんは、今夜は本当に暇そうです。観測できるということは晴れているのに……です』と思いながら、板垣氏からの報告をまとめてダンに連絡しました。05時42分のことです。
10月10/11日夜は雨でした。そこで、自宅で仕事を済ませオフィスに出向いてきたのは10月11日03時35分のことでした。すると、10日12時02分に到着のCBET 1534にpsn/NGC3432は、以前のIAUC 7415等に公表された変光星と位置がきわめて近く「NGC 3432の近くの変光星」として公表されていました。また、その夜の朝、05時52分に到着したCBET 1535には、板垣氏が発見した変光天体var/Draが「矮新星」として公表されていました。21-cm反射による捜索を開始して以来、板垣氏は多くの矮新星を見つけていますが、氏にとってこれらの発見は、捜索の副産物にしてもたいへんうれしいことでしょう。板垣氏からも、10月11日08時01分に「おはようございます。いつも重ね重ねありがとうございます。一昨日は捜索しながらの報告でしたので不備だらけですみませんでした。ところで、あの暗いP天体「Dwarf Nova in Draco」として公表して下さいました。今回も、中野さんに観測報告をしてもらったらDan先生は公表をしてくれました。なんか偶然ではないような気がしています。ありがとうございました」というメイルが届いていました。
なお、板垣氏の確認作業はさらに続きます。氏は、10月14日01時25分に「こんばんは。私の過去画像はありませんが、未確認ページにあるpsn/NGC539は確実に存在します。10月14日00時54分に60-cm f/5.7反射での確認ではその光度は16.8等でした。なお、DSSにはその姿はありません」というメイルが届きます。そこで、03時30分にダンにこの確認を連絡しました。ダンは、この超新星2008ggの出現を10月14日07時42分到着のCBET 1538で公表しました。板垣さんのこれらの確認作業は、新天体の公表を待つ発見者にとってたいへんありがたい作業でしょう。