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超新星 2008hi in PGC 1646(MCG -01-2-15)
2008年11月21日深夜のできごとです。自宅でそろそろ出かけようかと思っていた23時43分に埼玉の市村義美氏より携帯に電話があります。「今夜21時頃、くじら座にある系外銀河MCG-01-2-15(PGC 1646)に15.2等の超新星状天体(PSN)を発見した」とのことです。おおまかな話をうかがうと「超新星は15.2等。28-cmシュミット・カセグレンでの発見。捜索画像の極限等級は18.5等」とのことでした。『細目は、メイルで送ってください』と伝えて、11月22日00時10分にオフィスに出かけることにしました。この夜、空はよく晴れていました。
オフィスに出向くと、留守番電話に21時01分と23時36分、23時59分に無言の記録が残っていました。『市村さんがかけてきたのだろう……』とメイルをチェックすると、市村氏の発見報告は、まだ届いていませんでした。しかし、11月22日00時01分には九州の西山浩一氏と椛島冨士夫氏から、アンドロメダ銀河に出現した新星(18.8等)の発見報告が届いていました。そこで、まず、00時23分に市村氏に『銀河核からの離角をお聞きするのを忘れました。観測所から帰られたら連絡ください』と連絡し、門田氏に『市村さんが「もう低い」というので連絡が遅れました。でも、星図を見るとまだ地面の上です。PGC 1646を観測できますか。PSNは、00h26m43s・−03゚35'52"(15.2等)に出現とのことです』という連絡を送っておきました。そのあと、00時49分に西山・椛島氏が送ってきた新星の発見をダン(グリーン)に報告しました。そこには『IchimuraがPGC 1646に15.2等の超新星を発見した。Ichimuraは、今、観測所から自宅に帰っているところだ。あとで報告する』とつけ加えておきました。しかし、西山・椛島氏の新星は後日に取り消されることになります。
そして、市村氏からの報告を待ちましたが、午前02時が近づいてきてもまだ届きません。以前に氏から「観測所から自宅まで1時間以上かかる」ことを聞いていましたので、もう少し待つことにしました。すると、02時08分に氏からメイルが届きます。そこには「ごぶさたしております。埼玉の市村です。先ほど報告した超新星の画像と過去画像を送ります。最微光星は18.8等。90分経過後も移動なし」と報告されていました。しかし、00時23分に問い合わせておいた項目の情報がありません。そこで、氏に電話を入れそのことをお願いしました。すると、02時28分に「先ほどのメイルに光度と中心からの距離を入れるのを忘れました。光度15.2等、距離8"と見積もりました」と報告があります。しかし、氏は、勘違いしています。氏の発見位置は、概測観測のため、超新星の銀河核からの離角、つまり、赤経方向と赤緯方向にどれくらい離れているのかを報告しなければなりません。このままでは氏の発見が受け付けてもらえません。
しかたがないので、氏が送ってきた発見画像からその出現位置と銀河中心位置を精測することにしました。その間、上尾の門田健一氏から02時55分に「電車が遅れて先ほど02時半ごろ帰宅しました。残念ながらもう地平線下ですので、今夜は見送らせていただきます。今夜は帰宅に3時間以上かかりとても疲れました」と連絡があります。さらに03時19分に「M31の新星は、こちらの機材では暗いため観測を見送ることにします。20分露出のコンポジット・フレームで、極限等級は19等くらいですので、M31の新星は17.5等あたりが限界です。疲れていますが、習慣で、帰宅後すぐ冷却を始めて観測にかかりました。今夜は微風で微妙に鏡筒が揺れています」という連絡があります。ところで、出現位置の精測が終わったのは、門田氏の2番目のメイルが届いた頃でした。結果として、市村氏の概則位置は、精測位置から3"ほどのずれがあっただけで、すばらしく良く合っていました。そこで、03時38分にダンに『埼玉県比企郡吉見町の市村義美氏は、2008年11月21日夕刻、21時01分JSTにくじら座にある系外銀河MCG-01-2-15(PGC 1646)を28-cm f/8.1 シュミット・カセグレン望遠鏡+CCDを使用して120秒露光で撮影した捜索画像上に15.2等の超新星を発見した。発見後の約1時間半の間に撮られた多数の画像上では、その移動が見られない。画像の極限等級は18.8等。この超新星は、Ichimuraが2005年12月19日に撮影した捜索フレーム上には写っていない。また、パロマー・スカイサーベイで撮影されていた複数の画像上にもその姿が見られない。Ichimuraの発見画像から、その出現位置を赤経α=00h26m43s.00・赤緯δ=−03゚35'53".4、その光度を15.4等と測光した。超新星は、銀河核から西に8"、南に3"の位置に出現している。ただし、超新星が銀河核近くに出現しているためにこれらの値は、やや不確かであろう」という発見報告を送りました。
04時02分にダンから「OK。ありがとう。ところでHICQ 2008の件だが、まもなく掲載する彗星とそれらの光度パラメータを送る。空いた時間を見つけて作業をしてくれ。12月中に発行できればたいへんうれしい」というメイルが届きます。そして、山形の板垣公一氏からは、06時53分に「おはようございます。中野さん。山形はこのところまったく晴れません。雑用が多く栃木にも行けません。昨夜、第1報をいただいたときは夢の中でした。PSN in PGC 1646ですが、ご本人の過去画像があるのですから本物ですね。Ia型の超新星なんでしょうね。市村さん。おめでとうございます。近くに明るい銀河はなさそうですが、この銀河を捜索してたのですか? 門田さん。26時半ごろ帰宅とはたいへんですね。田舎暮らしでは考えられないことです。頭が下がります」というメイルが届きます。この夜は08時20分に作業を終わり、実家に寄ってから帰宅しました。空は、引き続きまだよく晴れていました。
帰宅すると、09時36分に市村氏から「おはようございます。睡眠不足ではありますが、これからテニスの部活です。24日に試合があるので、休めません……。おたずねのあった画像枚数は8枚です。強風のため星像が点にならず、捜索しているのかピントを出しているのかわからないほどでした。観測所には、12月からの捜索のためデータ作りに行ったのですが、風を避けてピントを追い込んでいるうちにふだんはあまり捜索しないあたりを撮影していました。今回も、またいろいろと尽力いただきありがとうございました。確定を祈りつつテニスの指導をしてきます」というメイルが届いていました。
その日(11月22日)の夕方、17時30分に門田氏から「銀河中心に近いようですので、こちらの機材では分離できないかもしれませんがスタンバイしました。ただいま、薄明終了30分前で観測できる時刻になったのですが、雲が多くちょっと無理そうな気配です」。そして、18時04分に「天文薄明が終わりましたが全天曇っている状態です。薄明中は、くじら座の5等星が雲を通して写ったのですが、PSNの視野は、今は雲で真っ白です」という連絡があります。どうも上尾での確認は無理なようです。しかし、幸いにも山形は晴れていたようです。板垣氏から18時16分に「こんばんは。山形は奇跡的に晴れました。市村氏のPSNは存在します。私の過去画像はありませんので、DSS(Digital Sky Survey)との比較になります。DSSとの比較だけでは発見報告できない難しい天体です。でも、市村さんの過去画像にはないとのことですので、間違いないと思います」というメイルとともにその出現位置と確認画像が届きます。氏の光度は15.5等でした。それを見た門田氏からは、18時59分に「山形が晴れたとのことで一安心です。こちらは晴れ間を待って2フレームを得ましたが、視野を雲が通過しているため、PGC 1646の中心部が写っているだけで、PSNは確認できませんでした。画像、拝見しました。DSSのFITS画像(R:1993)をダウンロードして、表示レベルを調整しながら比べてみると、板垣さんの画像では銀河中心より西南西方向に、DSSには写っていない恒星が確認できます」というメイルが届きます。
21時頃になると、上尾にも晴れ間が訪れたようです。21時33分に門田氏から夕方からずっと曇っていたので、今夜はダメかと思ってスライディング・ルーフを閉じ、機材を片付けて観測を終えました。観測室から降りて空を見上げると、ありゃ……、晴れ間が広がっていました。もういちど、カメラを冷やして、21時頃にPSNを撮像してみたのですが、銀河の南西側がわずかに西へ出っ張っているかな……と気がつく程度で、銀河中心と分離できず、測定はできませんでした。こちらの口径25-cm f/5.0反射は、ピクセル分解能3".3です。見つけづらい超新星だと思いますので、口径28-cmで発見された市村さんの洞察力には驚きました」という報告があります。やはり、銀河核の近くに出現した超新星の確認は、位置観測用の焦点距離では困難なようでした。また、22時47分に市村氏から「超新星の存在が確認できた」と携帯に連絡があります。さらに板垣氏からは、23時35分に「こんばんは。自己の過去画像のない確認観測は悩みます。とくに銀河の中心部に近いものはピント、空の状態等でかなり違う感じに写りますので怖いです。でも、この天体はホンモノですね。それにしても市村さんは、すごいです」というメイルが届きます。そこで、これらをまとめて、11月23日01時09分にダンに『IchimuraとItagakiは、今夜、この超新星を確認した。Itagakiによる出現位置と銀河中心は次のとおり』というメイルを送りました。
この夜は、守山の井狩康一氏から届いていたガラッド彗星(2008 P1)の観測から新しい改良軌道を計算し、『すでにCometary Orbit in Octoberでお知らせしたとおり、守山の井狩康一氏は、南西の低空を動くガラッド彗星の観測に10月18日と21日に成功しました。氏の核光度は、それぞれ15.5等と16.0等でした。北半球での観測は、10月10日にカナリー諸島(北緯+28゚)で行われた観測に次ぐものです。同彗星は、12月には少し観測しやすくなるでしょう』というコメントとともに06時32分にOAA/CSのEMESに入れ、08時00分にオフィスを離れました。昨夜までよく晴れていた空も、この朝は曇っていました。
この日(11月23日)の夜は、20時20分に自宅を出て、南淡路のジャスコまで出向きました。ガソリンを入れ、三原のリベラルに寄って、最後に洲本のジャスコにも寄って、22時15分にオフィスに出向きました。すると、スペクトル観測をお願いしている広島の山中氏から08時30分に「市村さんが発見したPSNですが、KANATAチームでも観測しました。偏光撮像装置で、V(180秒)・R(120秒)・I(120秒)の画像を撮影し、近傍3星のUSNOB-1.0/NOMAD等級で補正した等級を出しました。V=15.8・R=15.7・I=15.1です。KANATAでの分光は厳しそうな光度です。超新星の位置ですが、MCG -01-2-15のRバンド輝度中心から、7"西, 3"南にあります」というメイルが届いていました。さらに、10時29分には、市村氏から昨夜の画像も送られてきています。そして、市村氏の発見は、その日の昼、13時42分に到着のCBET 1578で公表されていました。なお、市村氏は、これで4個目の超新星を発見したことになります。
11月24日19時55分になって、西山・椛島氏から「この前報告したM31の新星は、11月23日に2MASSカタログを調査したところ、それに記載されていました。M31カタログとDSSになかったので報告したのですが取り消してください。お手数かけますが、よろしくお願いします」というメイルが届いていました。そこで、その夜の業務の終了時、06時11分に発見取り消しのメイルをダンに送っておきました。
M31の新星(M31N 2008-11b)と超新星 SN 2008hz
2008年11月26日、23時23分に山形の板垣公一氏から「M31に新星らしき天体です。報告をお願いします。光度は18.2等、11月5日に撮影した捜索画像には見られません。DSSにもありません。1時間で移動なし」というメイルが届きます。しかし、私には不満な報告でした。そこで11月27日03時06分になって『M31の新星発見だからと言って、粗末な報告では困ります。発見フレームの枚数、その極限等級、露光時間、DSSの極限等級、撮影年等々がありません』という連絡をしておきました。1時間待ちましたが返信は届きません。そのため、04時08分に板垣氏の発見をダンに伝えておきました。すると、04時34分に板垣氏から「今、起きました。すみません。完全に曇ってしまったので少し寝ました。また、粗末な報告になってしまいごめんなさい。次回までに新星報告のひな形を作っておきます。すみませんでした」というメイルが届きます。
その2日後、自宅に戻って食事の準備をしていた2008年11月29日01時04分に板垣氏から携帯に電話があります。氏は「メイルを見てくれましたか」と言います。『いや、まだです。自宅に戻ってきています』と話すと、「M31に14等級の新星を見つけました」と話します。氏は「11月26日にも画像がありますが、まだ確かではありません。中央局に報告してください」とのことでした。自宅に届いているメイルを見ると、板垣氏からの報告は、11月29日00時57分に「M31にとても明るい新星らしき天体です」というサブジェクト付で届いていました。そこには「M31にとても明るい新星らしき天体です。報告をお願いします。発見は11月29日00時24分、光度は14.5等。11月26日21時頃に撮影した捜索画像に19.0等で写っています。それより前の画像にはその姿がありません。20分間で移動なし。光度変化は見られず。極限等級が21.0等のDSSにも姿が見られません」と報告されていました。『えっ、11月26日に発見した18等の新星がそんなに増光したのか。なぜ、氏は、前に報告してきた11月26日のデータも書いてあるのだろう……』と思いながら、氏のメイルを読みました。というのは、上にあるとおり、2日前に板垣氏から報告のあった新星が増光したのだろうと思い込んでしまったのです。
もちろん、この発見は、ただちにダンに報告しました。01時17分のことでした。それも、ご丁寧に以前11月27日04時08分に送った発見報告をそのメイルにつけ加えておきました。しかし、エンターキーを押した後、『何かがおかしい。氏は、なぜ以前のデータを送ってきたのだろう』と疑問が頭に残ります。そして、そのとき、ダンに送ったメイルを見ました。すると、11月26日と11月29日に発見された新星の出現位置が違います。『あっ、いけない。このPNは別物だ』とようやく気がつきます。そこで、あわてて、01時25分にダンに『ごめん。今、報告した新星は11月26日の星とは別物であった』と訂正のメイルを送りました。なお、これよりのちは、最初の星(11月26日発見)をA星、後の星(11月29日発見)をB星とします。板垣氏からは、01時34分に、B星について、11月26日と28日の画像から再測光した光度が届きます。そこで、これらを01時40分にダンに送付しました。
そして、食事をすませ、02時20分にオフィスに戻って来ました。すると、02時13分に、今度は、この夜00時25分に行われたA星の確認観測が届きます。そこには「昨夜のPNの観測(A星)です。昨夜の報告は不備が多くすみませんでした。このPNを観測したら同じ画像に別の明るいPNがあったのです。よろしくお願いします」という説明が書かれてありました。その4分後の02時17分に上尾の門田健一氏から「B星を観測しました。明るい星が存在します。DSS (R:1989) には、写っていません。25-cm f/5.0反射+CCD(ノーフィルター)で、位置はGSC-ACT、光度はTycho-2(V等級)で測定しました。光度は14.7等、極限等級は18.4等でした」という報告が届きます。そこで、氏の観測を02時30分にダンに伝えました。このメイルには「ダン。楽しいサンクス・ギビングを持ったか……」とつけ加えておきました。02時36分には、板垣氏から「中野さん。急ぎの対応ありがとうございました。門田さん。確認観測ありがとうございます。とても明るい新星ですね! このような明るい新星は急激に暗くなりますね。もうすでに減光を感じます」というメイルが届きます。そこで、同時刻に板垣氏に電話を入れ、『どうもすみません。2個目の発見があったと思いませんでした。勘違いしました』と謝りました。同時に届いた板垣氏の11月29日02時08分に行われた観測(14.7等)を02時52分にダンに送りました。さらに板垣氏からは、03時08分に「何かとありがとうございました。明るいPNは、急激に減光してます。02時44分に14.9等でした。低空になりましたので、これが今夜の最後の報告とします。これから彗星を探します」という報告が届き、これを最終観測として03時27分にダンに送付しました。ところで、A星の確認観測をまだ送っていません。そこで、その前の03時09分にそのことをダンに連絡しておきました。
03時43分になって、門田氏より「M31の新星を確認する時は、いつもは明るい星の並びを辿りながら、DSSと見比べて確認フレームに写った星を探すのですが、今回は、明るい星の配列を見間違いそうになるくらい明るくて驚きました。同一視野に2個の新星を発見とのことで、さらにビックリです。18等の新星は、こちらの画像では確認できませんでした。さすが60-cmの威力ですね」というメイルが届きます。06時10分には、ダンから「Yes. ありがとう。バッファローに住んでいる父とサンクス・ギビングを過ごしたよ。まもなく、CBETを発行する」という連絡があります。そして、板垣氏の発見した新星Bは「BRIGHT NOVA IN M31」として、11月29日07時42分到着のCBET 1588に公表されます。ところが……です。この2つの発見は、思わぬ方向に動いて行くことになります。[以下、次号に続きます]