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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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093(2012年10月)

超新星2012fh in NGC 3344

2012年10月20日朝は、前日10月18/19日夜より2夜連続して秋晴れの空が続いていました。03時14分に広島の坪井正紀氏から携帯に「超新星状天体(PSN)を見つけました。メイルで発見報告を送付しました」という連絡があります。氏からのメイルは03時11分に届いていました。氏のメイルには「ご無沙汰しております。お元気でしょうか。昨夜10月19日05時32分に超新星らしき天体を発見しました。既知の超新星はもとより、TOCP、ノイズ、ゴースト、既知の小惑星、変光星について一応確認しました。なお、報告内容で不備がありましたらご連絡ください」から始まる発見報告がありました。そこには「2012年10月19日早朝、05時32分に30cm f/5.3反射望遠鏡+CCDを使用して、20秒露光でこじし座にあるNGC 3344を撮影した捜索画像上に15.1等のPSNを発見しました。翌日10月20日02時53分頃に撮られた10枚の画像上にこの超新星の出現を確認しました。PSNの光度は15.3等でした。この間に移動はありません。この超新星は、2012年3月18日と3月27日に行った捜索時には、まだ出現していませんでした。また、DSS(Digital Sky Survey)にもその姿は見られません。なお超新星は、銀河核から東に40"、南に112"離れた位置に出現しています」とありました。『へぇ……、離角がずいぶん大きいな……』と思って氏から送られてきた画像を見ました。超新星は母銀河からかなり離れた位置に出現していました。氏の発見は、04時49分にダン(グリーン)に送付しました。

05時08分に坪井氏から「未確認天体のウェッブ・ページ(TOCP)に掲載されていることを確認しました。けっこう近い銀河のようです。ピークは過ぎているのでしょうか、継続観測したいと思います」というメイルが届きます。氏のメイルは「全員に返信」ボタンを押して送信したのか、中央局(CBAT)にも転送されていました。そこで05時25分に『頑張っていますね。昨夜、今夜とよく晴れていました。それにしては、今回は極限等級が浅かったですね。転送メイルをCBATには回さないように。彼らは文字化けで読めないので、何を言って来たのか(訂正なのか)と思うでしょう。ところで、望遠鏡とCCDを変えましたね。次回から、発見時に撮った画像の枚数も報告ください。でないと、FROM A FRAMEとなります。ただ、そうなのかもしれませんが……』というメイルを送っておきました。すると、05時34分に坪井氏からは「メイルがCBATにも行ってしまいましたね。すみません。発見時の枚数は2枚です。いつも2枚ずつ撮っています。CCDはST-9にして感度を上げました。露出も短くなりましたので、パトロールの効率も上がりました。なお、今回の発見は薄明の中で撮った画像なので、写りは悪いです」という返答がありました。

その日(10月20日)は19時15分に自宅を出ました。温水器からの熱湯を調整する「サーモスタット付シャワーバス水栓」を購入するためです。しかし洲本市内では望みのものが見つからず、結局、南淡路まで出かけてしまいました。そこで車にガソリンを入れ、牛丼を食べて、イオンで買い物をして一旦、自宅に戻ってきたのは22時10分になっていました。その夜、10月21日03時05分に山形の板垣公一氏から、坪井氏の発見した超新星の情報がアストロテレグラムに出ているというメイルが届きます。それを見た坪井氏から04時03分に「本日も晴れてます。先ほど観測しましたが、光度は15.1等で昨夜と変わっていません。板垣さん。情報ありがとうございます。IIb型ということでしょうか。7月14日頃には兆候があったということでしょうか……」という返信が送られていました。

ところで、この夜は、オリオン座流星群の極大日でした。神戸の豆田勝彦氏から06時30分に「加東郡東条町で観測したオリオン群の様子です。空が今ひとつの条件でした。薄いベールのような雲がときおり来ました。最微光星も、普段なら6.0等星は十分見えるところですが5.7等でした。少し残念……。活動は平年並みのようです。一番明るいのは木星クラスの火球でした」と報告がありました。そこで、氏の観測をダンに転送しました。07時54分のことです。

この朝、坪井氏の発見した超新星の確認観測が思わぬ方から届きます。山口の吉本勝己氏からです。09時20分に届いた氏の報告には「今朝、CCDでの彗星観測の間に坪井さんが報告されているPSNを16cm f/6.3反射望遠鏡で観測しました。光度測定を行うと14.7等(V等級)、14.6等(I等級)となりました。彗星は14日と20日に撮影していますが、測定が追いつきません。明け方に回ってきたC/2009 P1には位置角34゚に15'以上の淡く長い尾があります」とあります。しかし氏の報告には、超新星の観測時刻が書かれてありません。しかし、およその時刻の見当がつきますので、10月21日02時頃の観測として10時00分にダンへ報告しました。さらに09時38分には、大崎の遊佐徹氏からも「米国メイヒル近郊にある25cm望遠鏡を遠隔操作して、10月20日20時35分に観測しました。光度は15.3等です」という報告が届きます。

ところで、ダンに送った吉本氏の観測は、もちろん吉本氏にも転送されていました。観測時刻の欠落に気づいた氏からは10時19分に「大切な観測時刻を書き忘れていました。10月21日03時54分です。申し訳ありません。C/2009 P1の画像を添付しておきます。太陽から4auも離れても見事な尾があります」というメイルが届きました。画像を見ると、氏の言うとおり送られてきたC/2009 P1の画像には、まだ長い尾が伸びていました。そこで10時52分に『これから原稿を書くところです。八束の安部氏の観測(10月19日に13.1等)だけで書くつもりでした。C/2009 P1の測光を至急、いただけませんか』という依頼を送りました。そのあと、10時56分にダンに超新星の正しい観測時刻を連絡しました。吉本氏からは12時06分に「C/2009 P1の光度です。10月20.814日UTに12.8等。視直径が2'.4、位置角34゚に15;以上の尾があります。60秒を12コマコンポジットした画像から測りました。比較星はTycho2カタログです。機材は16cm f/6.3反射望遠鏡です。何かデータ抜けがありましたらご連絡ください」という報告が届きます。『吉本さん。ありがとうございました。助かりました』。

その日(10月21日)の夕刻、18時56分に坪井氏から「広島大学でスペクトル観測が行われました。その結果、極大から約130日ほどが過ぎたIb/c型の超新星とのことです。板垣さんからの情報にある7月に観測されていたことも整合がとれます。極大では11等〜12等級まで明るくなっていたかもしれないそうです。それにしても、こんなに明るいものが130日間も誰にも気づかれないこともあるのかと思うと、アマチュアの出番はまだまだあるような気がします。確認観測していただいた方々にお礼を申し上げます」という情報が入ります。つまり超新星は、ちょうど太陽の向こう側に位置していたとき、その極大光度となったようです。

さらに21時04分には、遊佐氏から「こんばんは。昨夜は『宮城近郊星仲間の集い』という会合があって、その会場からiPhoneを使ってアメリカのメイヒルにある望遠鏡を遠隔操作して、坪井さんのPSNをフォローアップ観測させていただきました。今朝は早朝に会場を抜け出して自宅に戻って測定しました。そのため、報告が遅くなってしまいました。NGC 3344は6.4Mpcと比較的近い割には、PSNはたいへん暗いとのことですが、極大からかなり時間がたっていたのですね」というメイルもあります。遊佐氏には21時21分に『太陽との合が9月上旬ですから、7月から10月までは発見できなかったのでしょうね。iPhoneの小さな画面で操作が可能なのですか』という返信を、また、吉本氏へは21時31分に『下記、ありがとうございました。使わせていただきます。いつも助かります。それにしても明るいですね。ただ、眼視光度からの予報は、まだ12等級くらいと明るいですので、どうなっているのかな……と思っていました。太陽の近くを動いていたせいですね』のお礼状を送っておきました。遊佐氏からは21時35分に「以前は、RAS天文台制御のインターフェースは、iPhoneのブラウザで動かなかったのですが、iOS6になってから動くようになりました。これで、外出先でも撮影だけはなんとかなります。おっしゃるとおり、iPhoneでの操作は難儀します」という返事があります。

夜が明けた10月22日の昼12時43分に、坪井氏の超新星発見を公表したCBET 3263が届きます。そこには、複数の天文台でのスペクトル観測が報じられていました。少し遅れましたが、翌日の昼間になって新天体発見情報No.193を発行しました。その夜の21時51分に坪井氏から「報道資料ありがとうございました。いつものように額に入れて飾っておきます。遊佐さん。このたびは確認観測をありがとうございました。それにしても、メイヒルの25cmはよく写りますね。空の状態が良いのでしょうか。しかもスマホで手軽にできるとは、どこまで便利になるのでしょうね。今後ともよろしくお願いいたします」というメイルが届きます。『坪井さん。あんな紙切れ(発見情報)を大切に扱ってくれて、ありがたいことです。それは、私にも励みになります』。なお、坪井氏の超新星発見はこれで8個目となります。

271P/バンホウテン・レモン周期彗星(1960 S1=2012 TB36)

2012年10月26日02時29分到着のCBET 3269に新彗星の発見が公表されます。そこには「レモン山スカイサーベイの1.5m反射望遠鏡で2012年10月5日にうお座とくじら座の境界近くを撮影した捜索画像上にラーソンが発見した19等級の小惑星状天体には、小惑星の仮符号2012 TB36が与えられた。しかし、Pan-STARRSサーベイから同所で10月9日に撮影された画像上では、この小惑星はわずかに拡散し、南西に4"の淡い尾が見られることが報告された。さらに2.2m望遠鏡でこの天体を観測したハワイ大学のエリオットも、この小惑星には西南西に4"の淡い尾が見られることを確認し、この天体は彗星であることが判明した。なおこの彗星には、レモン山サーベイで9月17日に行われていた一夜の観測群の中に発見前の観測が見つかっている」とアナウンスされていました。

そのCBET 3269が到着する27分前の10月26日02時02分には、新彗星の初期軌道が公表されたMPEC U95(2012)が届いていました。CBET 3269が私に到着する1分前の10月26日02時28分にドイツのメイヤーから驚くべきメイルが届きます。その中で「この彗星は1961年の出現以来、長らく見失われているバンホウテン周期彗星(1960 S1)の回帰だ」と2つの彗星が同定できることを指摘していました。

バンホウテン彗星は、1960年9月と10月にパロマーで撮影されたプレート上に発見された19等級の周期彗星でした。同一時刻に撮影されたパロマー・ライデン・サーベイのプレート上には、188個の新小惑星が発見され、すべて軌道が確定し番号登録されています。しかし彗星は、小惑星のように軌道計算が単純ではありません。この彗星の観測期間が1か月ほどしかないために軌道の精度が悪く、発見後見失われてしまいました。彗星の周期は約16年で、周期彗星としては長く、彗星は1977年頃に近日点を通過したはずでした。

実は、バンホウテン彗星については、私もいろいろと思い出があります。軌道計算を始めて数年が経過した1975年7月に、この彗星の軌道を暇にまかせて手計算しました。当時、理化学研究所の番野欣昭氏と行っていた共同計算で今期の予報を計算しました。今のパソコンの演算速度からは想像もつきませんが、当時の電算機は、何億円もする大型計算機といっても、1回の回帰の摂動計算に10分から30分ほどの演算時間が必要でした。番野氏に計算を依頼しておくと、氏はその結果を持ってやってきました。プリントアウトを見ると今回の回帰での近日点通過は1976年12月21日となっていました。また、同時にその時点で公表されていた小惑星センター局長(当時)のハーゲット博士が同じ観測から決定した軌道からの近日点通過を予報すると1977年2月19日となりました。

この結果をBNK 165とBNK 166に掲載し、1975年7月24日にマースデン博士に送りました。博士からは、8月7日付の手紙が届きます。そこには「この彗星の周期は±4か月ほどだと私は考えていた。しかし、きみが決定した軌道の周期は、ハーゲット博士の軌道の周期と2か月の差しかなかった。このことは、私がちょっと悲観的だったことを意味するのかもしれない。もちろん私も以前に軌道を計算したことがある。その軌道は、きみの軌道に非常に近いものであった。そこで今、私はその軌道を1977年に積分を進めてみた。そして今回の予報として、近日点通過として1977年1月1日を得た。これはきみたちの結果とよく一致する。これは、この彗星を今回の回帰で検出できる可能性があることを意味する。パロマーのコワルに予報位置を122cmシュミットで撮ってくれるように頼むつもりだ。もし、彗星を今年検出できなくっても、来年にも検出できる可能性がある。そのとき、彗星はその近日点に近づき少し明るくなっており、検出も容易であるかもしれない。もちろん、この彗星の予報をIAUCに掲載するつもりでいる……」と書かれてありました。その後、マースデン博士からは、10月16日付の手紙が届きます。そこには「何枚かのプレートが122cmシュミットで撮られたが、彗星はまだ見つけられていない」という情報が知らされていました。

マースデン博士がこの彗星の予報をIAUC 2970に公表したのは、それから約1年後の1976年7月7日でした。そこには、近日点通過時刻を±80日変化させた9種の捜索予報とともにシタルスキー博士の予報軌道が掲載されていました。同時に私の予報も紹介されていました。シタルスキー博士の近日点通過は1976年12月29日と予報されていました。しかし、残念ながらこの回帰では、彗星の検出は報告されませんでした。その後も、彗星の予報はICQコメットハンドブック1992年度版(HICQ 1992)、HICQ 2010/2011に掲載されました。しかし彗星の検出は、やはり報告されませんでした。【後半に続く】

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