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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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104(2013年11〜12月)

2014年4月5日発売「星ナビ」2014年5月号に掲載

超新星 2013gn in NGC 5557

2013年11月20日17時59分に山形の板垣公一氏より「3日前の11月17日朝の捜索時に明るくなっていたアイソン彗星(2012 S1)の撮影に熱中してしまい、この朝に撮影した捜索画像の最後の何枚かのチェックをおろそかにしていました。今日になってそれらを見てみると、超新星状天体(PSN)を1個発見しました。ただ、画像が1枚しかないのですが、どうしたらいいでしょう」と相談の電話があります。そこで『とりあえず、未確認天体確認ページ(TOCP)に入れたらどうでしょう。細目を報告ください』と伝えました。この日の朝は、先月号で紹介したとおり、静岡県森町の池谷薫氏が火星探査機MAVENの余剰燃料放出を見かけた日でした。その池谷氏から2通目のファックスが届いたちょうど30分後の11月20日19時30分に板垣氏よりメイルが届きます。そこには「超新星らしき天体です。栃木県高根沢町にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを遠隔操作して、2013年11月17日早朝、04時55分にうしかい座にある系外銀河NGC 5557を撮影した捜索画像上に15.3等の超新星を発見しました。超新星は銀河核から東に34"、北に47"離れた位置に出現しています。発見は、撮影3日後の11月20日になりました。この発見は画像が1枚しかなく、さらに最近になって撮影した捜索画像もありません。ただ、2007年2月19日に撮影した画像上には超新星は出現していません。3日間も見逃していて、今日気がつきました。TOCPに書き込みと中央局に報告をお願いします。なお『1枚だけの画像』と記載してください」という報告と、超新星の出現位置と銀河中心位置が記載されていました。画像を見ると超新星は、母銀河からだいぶ離れた位置にはっきりと明るく輝いていました。『これは間違いない』と思いながら、氏の報告は、20時46分にダン(グリーン)に伝えました。

それを見た板垣氏からは21時41分に「拝見しました。ありがとうございます。あの日の夜明け前、アイソン彗星の撮影に気をとられて最後の何枚かを確認しなかったようです。まったく恥ずかしい限りです。不安がないわけではないですが、あのイメージではまず問題はないと思います。今夜(明朝)03時過ぎには確認できると思いますので晴れたら報告します。よろしくお願いします」というメイルが届きます。栃木は晴れているのでしょうか。

日が変わった11月21日02時55分に、氏から「栃木は曇りの予報でしたが晴れました。NGC 5557に出現したPSNを確認しました。良かったです。取り急ぎお知らせいたします。まだ低空で位置を測定できません。夜が明けてから報告します」という確認第一報が届きました。さらに03時45分には、香取市の野口敏秀氏からも「同夜03時08分に15.5等と確認しました。極限等級は17.0等です」というメイルが届きます。そして06時56分に板垣氏から「報告が遅くなりすみません。04時11分に15.4等でした。確認も、栃木の機材で最微光星18.0等の画像で確認しました」という連絡があります。両氏の報告は07時53分にダンに連絡しました。それを見た板垣氏から09時19分に「このたびは、1枚だけの画像ということで、内心ドキドキでした。私にとって初めての経験をしました。TOCPへの追加記載もありがとうございます。野口さん。さっそくの観測をありがとうございます。おそらくIa型のピークを過ぎたものかな……と思っています。どこかで分光観測してくれることを期待しています。晩秋の冷たい雨降る山形から……」というメイルが届きました。

へび座新星 Nova Ser 2013

板垣氏が見つけた「NGC 5557に出現した超新星」の発見がまだ公表されないていない11月24日、夕方から夜にかけて、南淡路に買い物に出かけていました。その途中、車を運転中の19時41分に板垣氏から携帯に電話があります。『今度は何かな……』と思って話を聞くと、「新星らしき星(PN)を発見しました。報告を送りました」という連絡でした。『今、南淡路に来ています。買い物が終わったらオフィスに出向きます。戻ったら報告を見ます』と答えて電話を切りました。

オフィスに戻ったのは21時10分のことです。氏の報告は19時39分に届いていました。そこには「新星らしき星がありましたのでTOCPに記載しました。この新星は、2013年11月24日17時50分に山形にある21cm f/3.0捜索望遠鏡+CCDで、へび座を撮影した捜索画像上に発見しました。発見光度は12.3等です。発見直後に同所の50cm f/6.0反射望遠鏡で撮られた確認画像上にその出現を確認しました。11月6日夕刻に撮影した、極限等級が15等級の捜索画像上には、まだ出現していません」と報告されていました。氏の報告をまとめ、ダンに連絡したのは21時37分のことです。板垣氏からは、22時00分に「拝見しました」という連絡が届きます。その夜にTOCPに掲載されているこの新星に気づいた群馬の小嶋正氏は、自身の捜索画像を調べたようです。23時28分に氏から「板垣さんのPNですが出現位置付近を、前々日(11月22日)と前日(23日)に写していましたが、見出せませんでした。ただCCDで明るくても、デジカメでは写らないことがありますが……。私の機材(150mm f/2.8レンズ+スカイメモ同架)では、このとき13等以下のようです」という報告が届きます。氏の報告は23時54分にダンに送りました。

翌11月25日は全国的に曇り空で風の強い一日でした。そのためか、どこからも観測の報告はありませんでした。しかし天候が回復した11月26日には、21時05分に板垣氏から「新星の今夜の観測です。予想に反して確実に明るくなっており、11月26日17時51分には光度が11.7等でした。なお、札幌の金田宏氏も同じ画像から11.5等と測光しています」という報告があります。氏の観測は21時43分にダンに送付しました。続いて、21時55分に小嶋氏から「板垣さんのPNをなんとかとらえることができました。微かな像ですが、2画像で確認しました。17時57分に12.7等(極限等級13.5等級)でした」という報告もあります。氏の観測は22時33分にダンに報告しました。

この新星の発見は、11月28日11時36分に到着のCBET 3724で公表されます。そこには、ドイツのシュメイアは、銀河面サーベイ・カタログの中に発見位置近くに20.9等の星が記録されていることを指摘していると紹介されていました。またこの星は、11月25日UTに国内外でスペクトル確認が行われ、新星の出現であることが報告されていました。なお、板垣氏の新星発見は、10月28日のわし座新星2013(2014年4月号参照)に続く発見となります。その日(11月28日)13時29分に新天体発見情報No.203を発行し、この新星の確認作業を終了しました。そこには『ご苦労様でした。新天体発見情報No.203を報道各社に送りました。アイソン彗星が増光しています。注意してください』と注釈を入れておきました。

超新星 2013gn in NGC 5557(前項の続き)

ところで、板垣氏のNGC 5557に発見した超新星が公表されたのは11月29日14時36分到着のCBET 3727でした。そこには、この超新星の出現は、国内外の観測者によっても確認されたことが報告されていました。そして11月23日朝には、東広島天文台の1.5m望遠鏡と美星天文台の1.0m望遠鏡でスペクトル確認が行われ、その結果、極大後1〜2か月が経過したIa型の超新星とのことでした。見かけ上、この銀河が太陽のそばに位置していた頃に極大に達した超新星で、板垣氏の予想(Ia型)はみごとに的中していたようです。このCBET 3727の発行を見て、11月29日15時33分に新天体発見情報No.204を発行し、板垣氏の発見を報道各社に知らせました。

新天体発見情報No.204を送ったあと、11月29日16時28分に板垣氏から「拝見しました。ありがとうございます。皆様。確認観測ありがとうございます。ところで、ビックリしました。中野さんから発見情報のメイルを受信したのは15時33分ですが、この時にはまだ、私にはCBET 3727は未着でした。受信したのは15時40分です。そんなことで、頭の中はクエスチョン・マークでした。これ、サーバーの問題ですか。そういえば、少し前に自分にカーボンコピー(cc)したメイルが未着です。話が変わって、アイソン彗星はがっかりでしたね……」というメイルがありました。そこで『今のインターネットは、1980/1990年代のBITNETやSPANネットのような一斉送付方式(送ったらどこへ行くか俺は知らん。メイルが経過した経由地が表示される)ではなくて、ハンドシェイク方式ですので、送り先のサーバーに手をつなぎ、1つ1つメイルを送っていきます。そのため、時間がかかる場合があります。ただ、これまでは板垣さんより私に届く方がたいてい遅かったです。デフォルトでは、中央局のUNIXサーバー(Postfix)が送付メイルのアドレスを並び替えてから送り始めるので、板垣先、中野あとの状態になります。今回は、契約プロバイダーがなんかのビジー状態だったのでしょう』という返信を送りました。

超新星 2013hg in anonymous galaxy

12月11日朝、07時10分に山形の板垣公一氏より「これから発見を送ります」と電話があります。氏のメイルは、07時11分に「下記の発見をTOCPに記載しました。報告はのちほど致します。すみません、時間ください。ところで、この銀河の情報をお調べください。よろしくお願いします」という内容でした。正式な報告は08時49分に届きます。そこには「無名の銀河に超新星らしき天体がありましたので、TOCPに記載しました。この銀河を調べてから報告しようと思いましたがよくわかりませんでした。かなりの数のDSSを見ましたが、恒星状の楕円銀河に見えます。栃木県高根沢町にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを遠隔操作して、2013年12月11日早朝、04時58分にかみのけ座にある系外銀河NGC 4136を撮影した捜索画像上、その近傍に写っている無名銀河の中に16.9等の超新星を発見しました。11月27日の捜索時にはまだ出現していません。超新星は、銀河核から西に2"、南に8"離れた位置に出現しています。母銀河は恒星としてカタログされていますが、小さな楕円銀河に見えます」という報告がありました。氏の発見画像を見ると、超新星は母銀河より明るく、南側にちょこっと輝いています。その西側、ずっと離れた位置に巨大なNGC 4136が輝いていました。NGC 4136は『わぁ……みごとな渦巻き銀河だなぁ』と思うほどのすばらしい銀河でした。この氏の発見は11時23分にダンに報告しました。

すると、11時42分に板垣氏から「拝見しました。ありがとうございます。なお、測定星表はUCAC4カタログを使ってみました」という連絡があります。そこで13時26分に『この銀河はNGC 4136の伴銀河ですか。それとも、PSNはNGC 4136に出現したものではありませんか』という質問を送っておきました。板垣氏からは13時57分に「NGC 4136とはかなり離れてますので別物でしょう。ただ、USNO-B1.0カタログでは16等位で掲載されているのでちょっと驚きました」という返事がありました。

その夜(12月11日)、20時50分に大崎の遊佐徹氏より「最近仕事が多忙なため、中々レスポンスできず申し訳ありません。今日は、めずらしく早く家に帰ってこられました。そこで先ほど、アメリカのメイヒルにある25cm反射望遠鏡で板垣さんのPSNを確認しました。180秒露光を3枚撮影してコンポジットした画像からUCAC4カタログで測定しました。光度は19時40分に16.7等となります。近接する銀河(18.1等)が母銀河だとすると、その3.4倍で輝いていることになりますね」という報告が届きます。また、日付が変わった01時27分には、香取の野口敏秀氏からも「23cm望遠鏡で同夜00時23分に17.0等と確認した」との報告があります。夜が明けた10時14分になって野口氏の観測をダンに送っておきました。すると、10時30分には板垣氏から「野口さん。いつも確認観測をありがとうございます。今朝方、私も観測しました。光度は0.2等くらい明るくなっていました」というメイルが転送されて届きました。

超新星 2013hq in NGC 7276

12月13日朝、カナダ王立天文協会(RAS)から“RAS Handbook 2014”が届きます。久しぶりに見るハンドブックは、私が知っている1980年代のものに比べると厚さが3倍ほどにもなっています。実は、ダンからの依頼があって数年前より彗星の予報をRASに送っているのです。『そうか……。ダンが贈呈してくれと頼んでくれたのか。でも彼らは、こんなに厚くなってもまだ発行しているのか。偉いものだ……』と思いながら、11時26分にダンにお礼を書きました。そのとき、ふと最近、山形の板垣公一氏とまともな話をしていないことを思い出し、何の用件もないのに、11時27分に電話しました。そして『メイルでお知らせいただいたPSNが出現した無名銀河の距離などがわかっていることを知らせますか』と氏にたずねました。氏は「今、栃木に来ています。リモート望遠鏡の調子が悪く、その修理とメンテナンスです」と話します。

不思議と発見は、そんなたわいもない会話に続いて起こるようです。この先、氏は4個の超新星を立て続けに発見するようになります。最初はNGC 7276に出現した超新星でした。その夜(12月13日)に19時14分に板垣氏よりメイルが届きます。そこには「こんばんは。お電話ありがとうございました。今夜も栃木で捜索してます。NGC 7276銀河にPSNを見つけました。下記の発見をTOPCに記載しました。報告は時間をください。慎重に致します」という連絡がありました。

板垣氏の発見報告がまだ届かない20時55分にTOCPを見た香取の野口敏秀氏から「板垣さん発見のPSNを23cm望遠鏡で観測し、12月13日20時36分に確認しました。光度は17.2等でした」という確認観測が届きます。このように発見報告より早く確認観測が届くことはめずらしいことです。そして、板垣氏より報告が届いたのは21時34分のことでした。そこには「12月13日18時13分JSTに栃木県高根沢町にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを使用して、ペガスス座にある系外銀河NGC 7276を撮影した捜索画像上に17.1等の超新星を発見しました。11月28日に撮影された捜索画像上には発見位置に何もありません。極限等級は18等級です。超新星は、銀河核から西に14"、南に14"離れた位置に出現しています」という発見報告がありました。【来月号に続く】

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