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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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115(2014年9〜10月)

2015年3月5日発売「星ナビ」2015年4月号に掲載

312P/NEAT(2001 Q11=2014 R2)

2014年9月7日18時58分に東京の佐藤英貴氏より「P/2001 Q11=VR89179」というサブジェクトを持つメイルが届きます。『今度はなんだろう……』と思ってメイルを見ると、そこには「現在、小惑星センター(MPC)の彗星状天体確認ページ(PCCP)に掲載されている天体VR89179は、P/2001 Q11の検出と思われます。この彗星は、2010年になってMaik Meyer氏がアーカイブ・データから発見したものです。今年7月29日にサイディング・スプリングにある51cm望遠鏡でこの彗星を捜索しました。しかし、暗すぎて画像上には写っていないようです。残念です……」という連絡がありました。

佐藤氏のメイルにあるとおり、この彗星の発見は、その出現(近日点通過が2001年6月)から約9年が経過した2010年3月19日10時38分到着のIAUC 9129に公表されました。これは、ドイツのマイク(メイヤー)によって、2001年にパロマーで行われていたNEATサーベイで8月18日にエリダヌス座を撮影した捜索画像上に発見された18等級の新彗星でした。この彗星は、その後のパロマーとハレアカラのNEATサーベイで、2001年12月までに同星域を撮影した計7夜の画像上にも確認されました。さらに氏は、LONEOSサーベイで2001年10月24日に行われた1夜の捜索画像上にもこの彗星の姿を見つけています。発見頃のパロマーの8月18日の画像上では、彗星には西に21″の尾がありました。また、ハレアカラの8月22日の画像上にも、西に12″の尾が見られています。マイクらは、次の回帰年である2007年に各地の全天サーベイで撮影された捜索画像上を探しましたが、見つかりませんでした。当時の2001年8月18日から12月13日までに行われた21個の観測群から決定した軌道では、周期が約6年ほどの新周期彗星であることが判明し、このとき、すでに3年ほど前の2007年11月24日に近日点を通過していました。しかし、そのときには彗星は発見されていません。次の近日点通過は2014年4月23日で、HICQ 2014(p.H79)にある予報のとおり、2014年秋には、ほぼ衝位置近くを動き、観測条件が良くなるために検出されることが期待されていました。

さっそく、MPCのウェッブページPCCPから観測を取って、2001年の観測と連結しました。観測は、レモン山の1.5m反射望遠鏡でクリステンセンが行ったものでした。そこには、2014年9月6日に行われた1夜の3個の観測しかありませんが、2001年の観測と問題なく連結できます。予報軌道(NK 1895(=HICQ 2013))からのこれらの位置のずれは、赤経方向に+666″、赤緯方向に+184″で、これは、近日点通過日への補正値にしてΔT=−0.68日でした。そこで、これらのことを中央局のダン(グリーン)とMPCのギャレット(ウィリアムズ)に知らせました。19時30分のことでした。そして21時07分には「佐藤氏もこの彗星を7月29日に追跡していたが、捉えられなかった」という情報も送っておきました。すると、21時45分にはギャレットから「Yes、我々もこれに気づいていた。観測はこの彗星の検出を狙ったものだ」という連絡が届きます。『な〜んだ。そうだろうなぁ……』と思って、そのメイルを見ました。つまり、過去に検出を試みていた佐藤氏は、彗星の観測が小惑星センターのPCCPに掲げられた直後に、VR89179はこの彗星の検出であると見出したことになります。

翌9月8日朝、09時23分に佐藤氏から「7月29日の捜索画像を再度精査した結果、捜索画像上に非常に淡いこの彗星が写っていることを見つけました」という報告があります。このときの彗星の光度は21.3等と報告されていました。この彗星の検出は、9月13日07時09分到着のCBET 3971に公表されました。その後の観測は10月18日まで行われ、これで今期の観測は終了しました。次回の回帰は、2020年9月4日となります。なお、2001年から2014年までに行われた29個の観測から計算した連結軌道がNK 2771にあります。

超新星 2014dg in UGC 2855

2014年8月の広島での豪雨の後も、9月は日本の各地を豪雨が駆け巡りました。特に9月10日頃には北海道などの北の地域や大阪、神戸などで豪雨が続いていました。当地もときおり天候が急変し、ちょっと前は晴れていたのに、雨が降ったりやんだりの不安定な気象が続いていました。そのかわり例年より秋の訪れが早く、この頃には涼しくなり、空も秋の空に変わり始めていました。しかし9月11日と12日は、ここでは秋の快晴の空が広がっていましたが、各地ではまだ局所的に豪雨が続いていました。

その9月12日の朝05時35分に山形の板垣公一氏より携帯に電話が入ります。氏によると「超新星を1個見つけました。発見報告を送りました」とのことでした。『わかりました。処理します』と返答しメイルを見ると、板垣氏の報告は05時25分に届いていました。そこには「60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、2014年9月12日02時24分にきりん座にある系外銀河UGC 2855を撮影した捜索画像上に15.4等の超新星状天体(PSN)を発見しました。この超新星は、9月8日に撮影した極限等級が18.5等級の捜索画像上にはまだ出現していません。発見後、この銀河を撮影した10枚以上の画像上にその出現を確認しました。なお、この超新星は、銀河核から西に5″、南に3″離れた位置に出現しています」と書かれてありました。氏の画像を見ると、PSNは銀河核の極くそばに明るく輝いていました。氏の発見は、06時06分にダンに送付しました。板垣氏からは08時28分に「少し寝ました。あらためておはようございます。報告を拝見しました。ありがとうございます」という報告確認のメイルが届きます。

その夜(9月12日)20時27分には、香取の野口敏秀氏より「板垣さんのPSN情報を受領いたしました。香取は相変わらずの天候で、8月21日以来観測できていません。でも、連休中は少し期待できそうです」というメイルが届きます。そして、日付が変わった9月13日00時09分に大崎の遊佐徹氏から「鈴木・加藤氏と共同で9月12日21時49分に大崎生涯学習センターの30cm望遠鏡でこの超新星を観測し、その光度を15.4等と観測しました」という報告が届きます。さらにそれから1日が経過した9月13日夜、20時55分には野口氏からも「9月13日19時51分に23cm望遠鏡で14.9等と観測しました」という報告があります。この氏の報告は、22時00分にダンに送付しました。この超新星は、それから5日後の9月18日14時01分到着のCBET 3978で公表されます。そこには、さらに海外、国内からの観測報告もありました。なお、9月14日23時頃に東広島天文台でスペクトル確認が行われた結果、最大光度1週間前のIa型の超新星らしいとのことです。その夜の23時26分には「新天体発見情報No.216」を発行し、報道機関にこの発見を知らせました。

超新星 2014dm in NGC 1516A

2014年9月26日12時57分に山形の板垣公一氏より「リアルの空と過去3日前からの空の状態(星空も)を知ることができるサイトに加入しましたのでお知らせします。これから全国にもっと増えるといいですね。なんかのときに、ご利用ください」というお知らせが届きます。『へぇ……、こんなことをやり始めたんだ……』と思って氏のメイルを読みました。

それから2日が過ぎた9月28日06時23分に板垣氏から電話があります。氏は、また「超新星状天体を見つけ、報告を送りました」と話します。そして「ところで晴れてる」と話しかけられました。『このところず〜っと快晴で、今夜も快晴でした』と答えると、氏は「山形も、今夜は一晩中晴れていました」とうれしそうに話します。板垣氏の報告は06時21分に届いていました。そこには「2014年9月28日01時43分にエリダヌス座にある系外銀河NGC 1516Aを60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDで撮影した捜索画像上に超新星状天体を発見しました。発見光度は16.5等です。この超新星は、9月9日に撮影した捜索画像上にはまだ出現していません。発見後にこの銀河を撮影した7枚の画像上に出現を確認しました。超新星は、銀河核から西に5″、北に8″離れた位置に出現しています」と報告されていました。氏の発見画像では、超新星は、2つある楕円銀河の北側の銀河に小さく輝いていました。この氏の発見は、06時53分にダンへ伝えました。

板垣氏からは、07時10分に報告を確認したことが伝えられました。そこには「おはようございます。昨夜の山形は久しぶりに夕方から朝までよく晴れました。報告を拝見しました。ありがとうございます」という連絡がありました。それを見た香取の野口敏秀氏からは10時00分に「板垣さんのPSN情報ありがとうございます。山形は晴れたのですね。香取は相変わらず曇天続きです。観測できましたら報告いたします」という連絡が届きます。その夜、9月29日00時00分に野口氏から「台風17号は遠ざかっているのですが風が強いです。23cm望遠鏡で9月28日23時03分に16.8等でした」という報告が入ります。この氏の報告は、00時52分にダンに送付しました。

この超新星は、9月30日14時28分到着のCBET 3996で公表されます。9月28日UTにはリック天文台の3m望遠鏡でスペクトル確認が行われ、極大光度近くのIa型の超新星らしいとのことでした。これで板垣氏は、今秋9月に3個目の超新星を発見したことになります。同日、18時55分に「新天体発見情報No.217」を発行し、この発見を報道各社に伝えました。

サイディング・スプリング彗星(2013 A1)

その後も、この秋は各地で豪雨が続きます。特に北上途中で中心気圧が900hPaまで成長した台風19号は、その後、970hPaと勢力が衰えたものの、九州と四国を通過したあと、10月13日夕刻には当地を通過して、大阪から東海、関東へと抜けていきました。当地もその影響を受け、午後から夕刻にかけて時間雨量80mmの大雨が降りました。この時期、大きなニュースがなかったのか、それがテレビ報道されました。それらを見た仲間の方々からお見舞いのメイルをいただきます。最初は、四国の山下浩平氏から10月14日02時16分に「アメダスを見ていると、強い雨域が通過した様子ですが、大丈夫でしたでしょうか。お見舞い申し上げます」、二番手は、08時48分に雄踏の和久田俊一氏から「テレビの報道によりますと、御地は大変な豪雨だったとのこと、ご無事でいらしたでしょうか。お見舞い申し上げます。先般は、地震で、また台風と災害が続き、ご心痛の程、お察し致します。どうかこのご苦難を乗り越えられ、ご指導を賜りますようお祈りしております」、三番手は、南陽の大國富丸氏から12時18分に「淡路島の台風による冠水についてテレビで見ましたが、中野さんの所はどうでしたか。南陽の方は、幸い台風が東側を通過したので全く心配はありませんでした」というようにどんどん続きます。

そこで、OAA/CSのEMESで『幾人かの方々から大雨のお見舞いをいただきました。ご心配いただきありがとうございます。昨日、昼過ぎから夕方までけっこう降りましたが、報道で伝えられた以上の大きな被害はなかったようです。10年ほど前の大雨災害(福知山でバスの上に乗客が避難した)のときは、国道28号線に約10kmにわたって、ぬれた畳の放置で向こう側が見えないほどの畳の壁ができましたが、そのようなことはなかったようです。元々この付近は台風の通り道ですので、東日本や北日本とは違って、時間雨量80mmくらいの雨には耐えられるようです。なお、洲本は平安時代から江戸時代にかけては、字のように三角州の集まりで小さな川が氾濫を繰り返していたそうです。しかし、明治の初期に多数の川を統合して、人工の川、洲本川を作って以来、川の氾濫が大きく減ったと記録されています。報道で伝えられた都志川、郡家川などは、瀬戸内海側の川です。8月には、松戸の太田原明氏らとそこ(高田嘉兵衛記念館)に行きました(2015年3月号で紹介)』というお礼状を16時57分に送りました。『みなさん。ご心配いただき、ありがとうございました』。

さて、10月18日14時01分に中央局のダンから「Syuichi……。元気か。ちょっと頼みがあるんだが、C/2013 A1の火星接近時刻と接近距離を正確に計算してくれないか」という依頼が届きます。本誌でも紹介されたとおり、この彗星はマックノート氏がサイディング・スプリングの50cmウプサラ・シュミットで2013年1月3日にうさぎ座を撮影した捜索画像上に18等級の小惑星状天体として発見したものです。氏は、1月4日に撮影した確認画像上で強く集光した10″のコマが見られることに気づきました。このとき、天体のCCD全光度は18.3等でした。東京の佐藤英貴氏も、同日サイディング・スプリングにある51cm望遠鏡でこの天体を観測し、天体には10″のコマがあることと北に尾らしきものが見られることを観測し、彗星であることが判明しました。氏の光度は18.6等でした。

軌道計算の結果、彗星はオールトの彗星雲近くからやってきた新彗星でした。2014年9月5日に地球に0.89auまで接近し、発見頃の観測光度からの推測では、2014年秋に6等級まで明るくなることが期待されました。その後、同年10月19.8日UTに火星まで0.0009au(約14万km)まで接近します。このとき、地球から見た彗星の光度は7等級で、彗星と火星がきわめて接近した状況で観測できることもわかり、2014年秋の光景が期待されました。

彗星は、発見後、主に南半球で観測され、その眼視全光度が5月28日に12.9等(パンサー;豪)、7月20日と21日に11.5等、26日に11.0等(アモリム;ブラジル)、29日に10.8等、8月2日に10.6等(ゴイアト;ブラジル)、6日に10.7等、7日に10.4等、9日に10.4等(アモリム)、10.1等(ゴイアト)、9月6日に9.6等(ゴイアト)、10日、13日、14日、15日に9.7等(アモリム)と観測されました。残念なことにこれらの眼視光度は、HICQ 2014にある光度予報より2等級ほど暗いものでした。そして、火星接近時には、山口の吉本勝己氏が10月15日に11.4等、生駒の永島和郎氏が10月18日に11.0等と観測しました。この頃各地から届いた画像では、火星のそばまで近づいた彗星が小さく写っていました。なお、火星接近時の彗星の光度は11等級でした。『ちょっと暗かった……』というのが実感でしょうか。もう少し明るくなってくれれば良かったのですが……。

その後、彗星は、11月上旬頃に2等級ほど増光しました。クラウドクラフトのヘール氏は、11月12日の眼視全光度を9.7等と観測しています。氏によると11月10日には彗星は11.5等であったとのことです。増光後のCCD全光度を上尾の門田健一氏が11月15日に10.0等、22日に10.3等、12月6日に10.6等、13日に11.1等、長野の大島雄二氏も11月16日に9.3等と観測しています。ごく最近のCCD全光度は、門田氏が2015年1月17日に11.5等、大島氏が1月23日に11.7等、門田氏が2月6日に11.9等、八束の安部裕史氏が2月14日に11.8等と、まだ11等級の明るさを保っています。3月には少し減光するでしょうが、明け方の空、観測しやすい位置を動きます。一度、観測されることをお薦めします。

さて、話を戻して『めずらしいこともあるもんだ。なぜギャレットに頼まないのか』と思いながら、18時07分に『次の軌道は、2012年10月4日から2014年10月12日までに行われた1293個の観測から計算したものだ。この軌道から彗星の火星への接近時刻は2014年10月19.77日UT、接近距離は0.000942auとなる』という計算結果を送付しました。ダンは、10月19日03時34分到着のCBET 4001で、私の計算結果を公表してくれました。

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