Location:

天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

118(2015年1月)

2015年6月5日発売「星ナビ」2015年7月号に掲載

超新星 2015A in NGC 2955

2015年1月上旬は晴れた日が続きます。寒さも再び戻ってきました。その寒さのせいか1月5日頃からかぜ気味になり、体調の悪い状態が続いていました。そんな時期、1月10日02時00分に小惑星の発見情報を書き込んだファイルADD.DSCとCODE.DSCが小惑星センターのギャレット(ウィリアムズ)から届きます。そのファイル(各2個ずつ)は、03時41分にももう一度、さらに04時45分にも再度送られてきます。『あれ、どうしたのかな……』と思いながら3つのファイルを比べましたが、すべて同じものでした。2014年12月にはMPCの発行がなかったため、ファイルには11月と12月の2か月分の小惑星の発見情報が記録されていました。その総数は16,355個です。つまり、小惑星の1か月の発見数は約8,000個と最近の標準的な発見数でした。

ところで、私がハーバード・スミソニアン天体物理学研究所にある小惑星センターで働いていた1987年には、小惑星の発見総数は51,124個に達していました。現在はすでに100万の大台を超え、1,181,958個(2015年1月現在)です。それと比べれば比較にならないほどのわずかな発見数ですが、それでも、ブライアン(マースデン)が記録していた小惑星の個別の発見情報の収集ノートの厚みが2.5mにもなっていました。そのためブライアンと相談し、研修に来ていたハーバードの学生に頼み、小惑星の発見時の情報を入力してもらったのです。しかし記憶のボケがひどく、彼の名前をどうしても思い出せません。この原稿を彼の知り合いが読んでいるなら彼に連絡してください。当時はケンブリッジのスーパーにも日本の天文雑誌が来ていたので『今もそうかな……』とわずかな可能性にかけてみます。

私は『すべて入力するのにいったい何年かかるのだろう』と思って彼を見ていましたが、約2か月が過ぎ、私の部屋のターミナルで入力していた彼が「Syuichi。入力が終わった」と言うではありませんか。びっくりして『本当なのか』とたずねて、VAXコンピュータ内にあるファイルを見ると、入力は最終発見まで届いていました。びっくりしてブライアンを呼び、このことを伝えました。この結果、次第に多くなっていた小惑星の個別の発見情報を筆記で1つの小惑星ごと書き込んでいた苦労がなくなる開放感からか、ブライアンの喜んだ顔が今でも忘れられません。なお、このことは1989年に小惑星センターにやってきた私の後輩、ギャレットの着任以前のことで、彼は知りません。あとで伝えましたが……。私はこのあと、新任のギャレットに私のプログラムの使い方や軌道論を教え、1990年夏に足掛け約5年間の小惑星センターでの勤務を終え、日本に戻りました。なお、そのあともギャレットへの指導が続きます。

その日(1月10日)の夕方16時18分になって、ギャレットには『毎月、ファイルをありがとう。ファイルが複数回送付されてきたが、なにかあったのか。それともこちらのサーバ・エラーか。それにしても、小惑星の発見数は減らないね……』というお礼状を送っておきました。ギャレットからは19時43分に「バッチジョブが3度繰り返されたためだ。メイルの送受信エラーではない」という返答が届きました。局長ティム(スパール)が2015年1月に小惑星センターを去った今、このファイルの作成は、ギャレット一人が行っています。いずれにしろ、プログラムで行っていても、このファイルを最初に作成するのは大変な作業です。

同日(1月10日)の早朝のことです。まだ体調が悪く、自宅に戻って寝込んでいると、山形の板垣公一氏から07時35分と08時06分に携帯に電話があったことに気づきます。『また新発見があったな……』と思って、メイルを見ると、氏からの発見はすでに07時33分に届いていました。そこには「超新星らしき天体(PSN)がありましたので、未確認天体確認ページ(TOCP)に記載しました」から続く発見報告がありました。そして「2015年1月10日00時16分に栃木の観測所にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを遠隔操作して、こじし座にあるNGC 2955を撮影した捜索画像上に16.6等の超新星状天体を発見しました。この超新星の出現は、発見1時間後までに撮影された画像上にその存在を確認しました。PSNは1月2日にこの銀河を捜索したときには、まだ出現していませんでした。なお、銀河核から西に12″、北に21″離れた位置に出現しています」と記載されていました。さっそく発見報告を作成し、中央局のダン(グリーン)にそれを送付したのは08時43分のことでした。報告を見た板垣氏からは「拝見しました。ありがとうございます。メイルを頂いた後も電話をしましたが……。本年もよろしくお願いします」というメイルが届きます。氏のメイルにあるとおり、その後も板垣氏からは08時47分と10時39分に電話がありますが、寝込んでいて電話に出る気にはなれませんでした。

その夜(1月10日)のことです。香取の野口敏秀氏から20時43分に「香取は晴れていますが、冬特有のシンチレーションの悪い夜が続いています。1月10日夜、20時10分に23cm望遠鏡で光度が16.4等であることを観測しました」という報告が届きます。氏の観測は、21時36分にダンに送付しました。そして21時38分に板垣氏に電話を入れ、体調が悪く電話を取れなかったことを伝えました。すると氏から22時30分に「野口さん。観測をありがとうございます。栃木に望遠鏡のメンテナンスに来ています。中野さん。実は、昨夜は会社の新年会でした。でも、宴会には30分だけ顔を出し挨拶をしただけで、夕方に栃木が晴れていたのを知って温泉旅館にパソコンを4台を持ち込んで、夕方17時半から朝06時まで延々12時間30分の間、遠隔操作で捜索しました。そんなことで……幸運でした。笑ってください。そして、昼前にちょっとだけ家に寄って栃木に来たのです。晴れてます。捜索してます」というメイルが野口氏に送られていました。

この超新星は、1月19日16時20分に到着のCBET 4045にその発見が公表され、今年最初の超新星符号(SN 2015A)が振られました。そこには、この超新星は「発見1日後までに国内外の観測者によって15等級で観測されたこと」「1月10日UTに東広島天文台の1.5m望遠鏡とアジアゴ天文台の1.82m望遠鏡でスペクトル確認が行われ、極大光度数日前のIa型の超新星らしいこと」が掲載されていました。それを見た板垣氏から21時31分に「こんばんは。おかげさまで、SN 2015Aとなりました。しばらくぶりの超新星符号でビックリしました。超新星のCBET発行は、なんと約2か月ぶりです。あきらめていましたが良かったです。ありがとうございました」というお礼状が届きます。そこで21時36分に氏に『途中で抜けている超新星をどうするのでしょう。以前にCBET上に1行で仮符号を公表するサンプルを送りましたが……。なお、今ちょっと忙しいので、しばらくしたら発見情報を出します。数日後か。お許しを……』という返信を送りました。そして、次の夜(1月20日)の23時17分に板垣氏の発見を告げる新天体発見情報No.219を報道各社に送りました。それを見た野口氏からは23時42分に「受領いたしました。ありがとうございます。香取は冬晴れが続いていますが、写りが悪い季節です。今夜の捜索範囲にラブジョイ彗星(2014 Q2)がありましたので1フレームだけ撮りました。尾が見事な姿です」という連絡と画像が届きます。その夜の朝(1月21日)06時29分には、板垣氏より「拝見しました。ありがとうございます。今年、すでにかなりの数の超新星が出ているのに、“A”は似合わないですね。これから先、どうなることやら心配です。TOCPと発見報告の窓口は閉ざさないように願っています」というメイルが届いていました。

おとめ座の矮新星(PNV J12124012+0416563)とヘルクレス座の矮新星(PNV J17500288+2022264)

1月21日に崩れた天候も1月23日には回復しました。特に1月23/24日夜は快晴の空となりました。その朝(1月24日)04時09分に鹿児島の向井優氏から「昨年7月19日の矮新星発見では、忙しいところお手数をおかけし申し訳ありませんでした。おかげで発見者になれたことに感謝しております。本日1月24日01時32分にデジタルカメラ+105mm f/2.0レンズを使用して、20秒露光でおとめ座を撮影した2枚の捜索画像をチェックしていたところ、12.2等の新星らしき天体(PN)を見つけました。あとで撮影した4枚の画像上にも、このPNは写っています。2015年1月9日、16日、18日に撮影した捜索画像上には写っていません。なお、画像の極限等級は14.1等です。変光星カタログなどを調べましたが、この星の記載はありません。TOCPには、02時04分現在報告はありません」という発見報告が届きました。さっそくこの発見報告を作成しました。その最中の04時15分に氏から携帯に電話があります。そこで氏には『今、処理している』ことを伝えました。TOCPに氏の発見を入力し、TOCPナンバーを得ました。それをつけてダンに送付するのです。

ところがです……。送付前にTOCPに向井氏の発見が入ったことを確認しました。すると、ほぼ同じ位置に発見された星(TCP J12124039+0416564)がその1つ上の行に掲載されています。発見者は山形の板垣公一氏です。『あちゃ〜、やられた……』でした。しかし、向井氏がTOCPにこの天体の掲載がないことを確認してから2時間ほどしか過ぎていません。その間に板垣氏は、向井氏の発見よりちょうど2時間遅れの03時32分にこの天体を発見し、TOCPに掲載したことになります。『さすがぁ〜、やるなぁ……』という印象でしょうか。なお、板垣氏からの後日のメイル(2月3日21時07分)によると、氏は、向井氏と同じ時刻にこの天体を発見していました。上記時刻は50cm望遠鏡による確認時刻だそうです。そのあと『この天体は、TOCPの1つ上にある天体と同じものだ』という注釈をつけて、04時45分にダンに送付しました。

向井氏からは05時24分に「中央局へのメイルの転送をありがとうございました。また、早朝から大変お手数をおかけしました。報告のあとしばらくしてTOCPを見たら、すでに出ていました。当夜01時半には気づいたのですが、元画像からPNの写っている付近の画像の切り出しに手間取りました。その他の調査も、念のため何回も確認したりして、すっかり遅くなってしまいました。研究でお忙しいところ、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。もっとスピーディに報告できるよう努めます。今後ともよろしくお願いいたします」というメイルが届きます。さらに氏からは、06時02分に「今、TOCPを見たら私の発見が載っていました。気落ちしていましたが、中野さんのおかげで発見者の一人になることができました。うれしさのあまり涙が出そうでした。最近では全天サーベイもきつくなり、あと何年できるかなと思ったりもしますが、また少し頑張れそうです。本当にありがとうございました」というメイルが届きます。氏のメイルは「1個の新天体を発見するということは、発見者にとってどんなに困難で苦難の道程なのか、また感激深いことなのか」を如実に語っています。

その後、05時38分には山口の吉本勝己氏から「TOCPに掲載されたおとめ座の天体を、デジタルカメラ(180mm f/2.8)で撮影し確認しました。2015年1月24日04時29分に11.8等でした。光度はカラー画像をRGB分解し、G画像で測定しています。天体は青い色をしています。なお、この星はASAS-SN & CVパトロールでASASSN-15bpという名前がついた天体ではないかと思うのですが……」という報告が届きます。氏の報告は、06時59分にダンに送付しました。

その夜が明けた1月24日08時51分に掛川の西村栄男氏から携帯に電話があります。もちろん、とっさに『この天体の独立発見だ……』と思いました。氏にそのことを問いかけると「おとめ座の新星ではありません。すでに報告を送りましたので、ご覧ください」とのことです。その西村氏の発見報告は08時28分に届いていました。そこには「200mm f/3.2デジタルカメラで2015年1月24日05時20分に30秒露光でヘルクレス座を撮影した4枚の捜索画像上に、12.2等の新星状天体を見つけました。1月16日に撮影した捜索画像上には写っていません。なお、デジタル・スカイサーベイ(DSS)には発見位置に20等級の星があります。また矮新星かもしれません」という発見報告と画像が届いていました。氏の発見は、12時31分にダンに送付しました。それを見た西村氏からは13時10分に「今朝の天体ですが、さっそく処理して頂きありがとうございました。報告した時刻は、中野さんのお休みになる頃ではなかったでしょうか。いつも勝手なお願いを快くお引き受け頂き感謝しております。ASASが活躍してアマチュアの出る幕が縮小するようで残念ですが、偶然を信じて頑張りたいと思っています。インフルエンザが大流行しているようです。お体を大切にされてください。今回も本当にありがとうございました」というお礼状が届いていました。

次の日の朝(1月25日)、04時44分には、香取の野口敏秀氏から2つの天体の観測が届きます。氏の観測では「おとめ座のPNは1月25日03時00分に12.5等、ヘルクレス座のPNは1月25日03時27分に14.0等」とのことです。さらに氏は、ヘルクレス座の星については1992年に撮影されたDSS上のほぼ同じ位置に17.2等の星があることを見つけています。この氏の観測は、16時48分と50分にダンに送付しておきました。それから4日後の1月29日16時03分に吉本氏から「先日は、おとめ座のPNの観測をTOCPに掲載して頂きありがとうございました。今回もやはり矮新星のようですね。実は驚いたことがあるのですが、デジカメ+180mmレンズでの画像ファイルをアストロメトリカに読み込ませて位置を測定してみると、意外に良い数字を測定していることでした。中焦点のレンズでこの精度が出るのは驚きました」というメイルが届きます。そこで17時11分に『この天体は、向井氏の報告時点では、板垣さんはまだTOCPに報告していませんでした。それで新しい発見として掲載したのですが、そのときには、その上に同じPNの報告が入っていました。こんな暗い星を複数の人がよく見つけるものです……。はい。ときどき発見者の方の画像を測定しますが、群馬の小嶋正さんが使われていた85mmくらいのレンズでも、±5″くらいの精度が出ます。フィルムの時代には考えられなかったことです。20年ほど前に私が使っていた画素数が1000くらいのカメラ(55mmレンズ)だと、まだ測定誤差が±30″ほどありましたので、精度の向上は画素数が細かくなったことによるものでしょう。大気を通してそんなに分解できるのかとも思いますが、露出をかけずに一瞬の間合いで撮影することにもよるのでしょうか……。ただ、精測を行うには300mmレンズくらいが欲しいですね。これくらいになると、測定精度が±1″(以下)くらいに常時安定します』というメイルを返しておきました。なお、おとめ座の新星状天体はWZ Sge型の矮新星、ヘルクレス座の新星状天体も矮新星であったようです。

このページのトップへ戻る