Location:

天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

140(2016年10〜11月)

2017年4月5日発売「星ナビ」2017年5月号に掲載

琉球アサガオ

1990年夏、100年ほど続いている幽霊会社を引き継ぐこともあって、マースデンの「引き続きここで働いてくれ」という強い要請や、冨田弘一郎先生の「帰ってきちゃ、絶対ダメ」という何度もの忠告も無視して、米国から帰国し、ここ淡路島にオフィスを構えました。そのとき、オフィスの近くに「真っ青」というか、「真っ紫」の大きな花をつけたアサガオが咲いているのを見かけます。その葉は、壁を覆い尽くさんくらい隙間なく茂り、いっぱいの葉の中に咲いているのは、大きさが手のひら以上(20cm以上)もある、これまでに見かけたことのない大きなアサガオの花でした。『すごいアサガオだなぁ……。種がついたら欲しいもんだ』と思い、毎年毎年『種を取らなきゃ……』といつも思いながらその花を眺め、気がついた時には20年もの時が流れていました。その間に気づいたことは、オフィスのある炬口(たけのくち)地区以外ではこのアサガオを見かけないことでした。『なんでここにしか咲いてないのか……』と思いながら、5年ほど前からは、真剣に種がないかと花の咲いた後を探していました。

しかし5年間、毎年探しても種が見つかりません。『不思議だ……。では、何のために花を咲かせるのか』と思いながら、2015年夏が終わる頃、アサガオの咲いている畑で農作業をしているおばさんを見かけ『このアサガオを分けてもらおうと思って、毎年種を探しているのですが……』とたずねると、「兄さん。このアサガオは種をつけないんだよ」と話します。『やっぱり種なしなんですか。では、どうやって増えるのですか』とたずねると、おばさんは「茎を折って、挿し木にしておくと増えてくるから」と答えてくれました。

さっそく、他の場所で自然繁殖しているこのアサガオから、根が出てきている茎を見つけ、2015年10月になって、我が家の西のガーデンテラス(中庭)にある3つの植木鉢に植えました。『冬を越せるのかな……』とどきどきしながら眺めていると、2016年春になって茎から新芽が出てきました。繁殖する前に中庭の反対側(日の当たる側)にあるバスルームの窓の方に移そうかと思いましたが、そこには、すでに広島の友人が持ってきたゴーヤをグリーンカーテンとして埋めてあります。そのため、逆側で育てました。その日当たりが悪い側でもアサガオはしっかりと育ち、みるみるうちに大きくなっていきました。しかし2016年夏になってもつぼみができません。オフィスの近くにある家の庭や群落を見に行くと、多くの花が咲いているところもあれば、そうでないところもあります。『植えて1年も経ってないからか……』とあきらめながら、その成長を見ていました。

琉球アサガオ ところが9月30日になって、中庭の壁を登りきった茎にたくさんのつぼみがあることを見つけます。『えっ、もう秋だよ。今頃からアサガオが咲くの……』と不思議な感じでした。しかし10月7日になって、びっくりするほど大きな花が咲きました。それから2週間の間、特に10月15日頃には、夢にまで見た真っ青の大きなアサガオがいっぱい咲きました。

2016年10月24日夜22時過ぎに、日本スペースガード協会の白井正明理事長と美星の浅見敦夫氏が久しぶりに当地を訪れてくれました。打ち合わせが終了したあと、理事長は予約していた旅館に向かいました。浅見氏はこのまま美星に戻るとのことでしたが、『2年前にマンションを買い替えたから泊まってくれ。明日朝、早く起こしてやるから……』と誘い、ゲストルームに泊まってもらうことにしました。

次の日の朝05時30分に氏を起こすと、西の中庭を見上げ「えっ、空が見える。ここは上に抜けているのですか」と話します。そして「それじゃ、あそこに咲いているアサガオは造花だと思ったのですが、本物ですか。でもアサガオは夏の暑いときに咲くものです。もう秋ですよ。しかも寒い……」とびっくりしたようでした。そこで『アサガオが秋に咲くのは私も納得できないが……』とこれまでの苦労を話してこのアサガオを説明しました。でも氏は、それでも納得できない様子で午前06時に美星に向かって出発しました。10月25日11時30分に浅見氏から「東の中庭から観測を始めましょう。10月24/25日は宿泊とモーニング・コーヒーとコーンフレークまでご馳走になりありがとうございました。(…中略…)ところで例のアサガオですが、ノアサガオ(Ipomoea indica)とか琉球アサガオとか言うみたいです。Amazonでも売っています」というメイルが届きます。インターネットで調べると、確かに浅見氏が指摘するアサガオでした。おそらく、炬口の漁師が沖縄付近に漁に出かけたときにこのアサガオに魅了され、その株を持ってきたのでしょうか。なおアサガオは、その後も咲き続け、今季最後のアサガオがこの1月1日に咲きました。今年(2017年)もどうなるか、たいへん楽しみです。ただ、沖縄のアサガオがどうして寒い元旦に咲くのか、気になりますが……。

いて座新星Nova in Sgr = PNV J18205200-2822100

浅見氏が美星に戻った2日後、2016年10月26日夕刻は、小雨がパラパラと降っていました。その夜、南あわじにあるコメリとイオンに出向き、オフィスには21時30分に戻ってきました。小雨はやんだようです。オフィス到着の少し前、21時22分に水戸の櫻井幸夫氏からメイルが届いていました。そこには「2016年10月26日夕刻、18時07分にNikon D7100デジタル・カメラにNikon 180mm f/2.8望遠レンズを装着して、いて座を撮影した2枚の捜索画像上に10.4等の新星状天体(PN)を発見しました。10月23日18時33分に撮影した極限等級が11等級の2枚の捜索画像上には写っていません」という報告が届いていました。氏の発見は、21時22分に中央局(CBAT)のダン(グリーン)に伝えました。櫻井氏からは、22時49分に「早速、CBATへの報告ありがとうございました。発見画像の処理に手間取り、送付が遅くなってしまい申し訳ありません。画像で見る限りノイズではないと思うのですが、ほかの方の確認観測が入らないと本物かどうかわかりません。天気予報では、明日は晴れそうなので自分でも確認できると思います」という報告とともに発見画像が送られていました。

その約30分後の23時18分には、嬬恋の小嶋正氏から「PNの情報ありがとうございます。本日18時30分頃に捜索していました。しかし、今夜は雲を避けながら晴間からの撮影となってしまいました。PNの出現位置は、捜索画像の写野からはわずか1°ほど外れており確認できませんでした。参考までに、2日前の10月24日18時12分に撮影した捜索画像上には、13等級以下で写っていません。機材はCanon EOS 6D+200mmレンズです」という報告があります。さらに氏からは、23時38分に「櫻井氏の報告にある出現位置からASASサーベイのウェッブサイトに掲載されている天体を調べると、13等級の天体(ASASSN-16ma)が増光しているようで、存在は確実だと思われます」という連絡があります。小嶋氏が指摘したウェッブサイトを見ると、セロトロロで行われているASAS超新星サーベイで14cm望遠鏡を使用して、10月25日09時28分に撮影した捜索画像上に、このPNが出現光度13.6等で発見されていました。出現位置も、櫻井氏の報告位置とよく合っていました。つまり、新星は1日と9時間の間に約3等級ほど増光したことになります。

その頃には櫻井氏の発見画像からの出現位置の測定が終了し、10月27日00時22分にその出現位置をダンに報告しました。すると、01時37分に櫻井氏から「報告した天体は、昨日にASASSNサーベイによって発見されていました。焦ってしまい報告前にそのウェッブサイトをチェックするのを怠ってしまいました。Atel 9669によれば10月25日09時頃の発見とのことです。同サーベイが夕方のこんな低空まで捜索しているとは知りませんでした。お手数をかけてしまい申し訳ありませんでした」というメイルが届きます。このあと、01時51分に先月号にある「板垣公一氏発見のいて座新星2016」を報じた新天体発見情報No.234を発行することになります。それを見た板垣氏からは05時24分、小嶋氏からは08時19分に発見情報を受け取ったとの連絡があります。小嶋氏のメイルには「この新星は板垣さんの単独発見となりましたが、最近の状況からすると、ASASSNによる発見が多くなるような気がします」という感想が書かれてありました。そのあと、23時42分に届いた美星の綾仁一哉氏からのメイルは先月号に紹介しました。

さて、櫻井氏の発見した新星は、10月29日14時21分に到着のCBET 4334に公表されます。そこには、発見報告後、日本や世界の多くの観測者によって10等級で観測されていることが紹介されていました。また10月27日21時頃には、オーストラリア・パース近郊にある35cm反射望遠鏡でスペクトル確認が行われ、爆発段階にある新星出現であることが報告されていました。なお櫻井氏は、この発見で13個目の新星を発見したことになります。その夜、新天体発見情報No.235を編集し、この発見を10月30日02時07分に報道機関に通知しました。なお、櫻井氏の発見画像へアクセスしたIPアドレスは119か所でした。

ところで、先月号でも少し紹介したとおり、板垣氏発見の新星、櫻井氏発見の新星は、その後7等級まで明るくなったことが報告されています。このことは、星の広場HAL-newsなどでも取り上げられました。また、山口の吉本勝己氏からも11月7日22時14分に「CBET 4334で発表されたいて座新星ですが、今夜の画像では何と6等台まで増光していましたので報告します。これまでの観測光度は11月2日に8.5等、4日に8.1等、5日に8.0等、7日に6.5等です。一方、板垣さんの新星は、11月2日に8.1等、4日に8.4等、7日に8.9等と少し暗くなりました」という観測が届きます。そこでこれらの光度観測を23時36分にダンに報告しておきました。さらにOAA/CSのEMESを11月8日00時35分に発行して『これまで、新星・超新星関係でEMESを発行したことはありませんが、11月6日到着の星の広場HAL 652で、八尾の鷲真正氏も報告しているとおり、最近発見された2つの新星(CBET 4332、CBET 4334)が明るくなっています。特に水戸の櫻井氏が発見した新星は、山口の吉本勝己氏の11月7日18時27分の観測では6等級まで明るくなっているとのことです。以下、吉本氏の最近の観測です……』という情報を仲間に伝えました。11月9日には吉本氏から「当地は現在快晴ですが、今夜は仕事で観測できません。その後、さらに5等級まで増光しているとの情報があり観測が楽しみです」という連絡が届きました。

ペガスス座の矮新星(V444 Peg)と、おおぐま座の矮新星(MR UMa)

11月1日には雨天となりましたが、11月2日には快晴となり、その後、11月7日朝まで晴天が続いていました。11月3日22時32分に嬬恋の小嶋正氏から「今夜の観測で20時47分にペガスス座を撮影した捜索画像上に、過去画像にない12.3等の天体を見つけました。2008年の矮新星の位置に極めて近いのですが、同じ天体なのか確信が持てませんので、未確認天体確認ページ(TOCP)に掲載をお願いします。なお、Canon EOS 6D+135mm f/2.8レンズで5秒露光で撮影した3枚の画像上に確認できます。10月24日の捜索画像上には14等級以下で写っていません」という報告と発見画像が届きます。

さらに小嶋氏から11月4日07時13分に「昨夜の12等級の増光天体は、板垣さんが発見された矮新星でした。天文台の前原さんによりますと、2008年以降初めての増光で、例によりASASSNが11月1日に14等級で捉えていたようです」と連絡が届き、この件は一件落着したようです。

小嶋氏からは、11月5日13時29分にも「今朝の捜索で04時31分におおぐま座を撮影した捜索画像上に12.5等の増光天体を見つけました。背景の恒星の増光だと思われますが、TOCPへの掲載をお願いいたします。約7分後の04時38分に撮影した画像でも同じ明るさで写っています。その間に移動はしていません。いずれも3枚の画像で確認、極限等級は13.5等です。小惑星・変光星は該当ありません。また、2015年12月8日と2016年10月27日に撮影した捜索画像上には14等級より明るい星は写っていません。ただ、この位置にはUSNO A2.0カタログで15等級の恒星があります。機材はこの前と同じです。発見画像を添付します」という報告があります。とりあえずTOCPにこの発見を記載し、そのことを16時05分に氏に知らせました。16時51分には、小嶋氏から「TOCPに掲載ありがとうございます。またフレア現象でしょうか。確認観測を待ちます」という連絡があります。

ただ、小嶋氏からは多くの報告があります。今回TOCPに掲載するまで、その第1報から約2時間ほどが経過したのが気になります。そこで17時29分に『捜索、ご苦労様です。TOCPへの掲載の件ですが、今回のものは、そちらからのメイルを読んでから掲載まで2時間ほどかかっています。この間に誰かに書き込まれる可能性があります。可能ならば、掲載はそちらで行えませんか。その後、こちらの方にご報告いただければ幸いです。リスクをご承知で、こちらからTOCPに掲載されるのをご希望でしたら、今までどおりで結構です』というメイルを送っておきました。そして、氏の発見をダンに報告したのは17時54分のことでした。

その日の夕方19時45分には、香取の野口敏秀氏から「DSS、およびSDSSなどのデジタル画像を見ると、発見位置には赤と青の星が並んでいます。小嶋さんの指摘の星でしょうか。今夜に確認してみます」という連絡があります。そして、その夜の11月6日02時50分に野口氏から「TOCPに矮新星という報告が出ていましたが撮ってみました。SDSSの青い星と一致するようです。光度は、11月6日01時54分に13.3等でした」という観測が届きます。それを見た小嶋氏から03時32分に野口氏宛てに「確認観測、および画像の調査をありがとうございました。こちらの調査不足のため、この星は既知の矮新星(MR UMa)であり、ご迷惑をお掛けしました」というメイルが送られていました。なお、小嶋氏の発見画像へアクセスしたIPアドレスは24か所でした。

さて、11月12日22時28分に届いたHAL 658に「いて座に出現した2つの新星のその後です。櫻井氏の新星は11月4日に8.0等、11月9日には7.2等でした。11月7日頃に6等級まで明るくなったようですが、少し落着いてきたようです。板垣氏の新星は11月9日に8.8等で次第に減光しているようです」と板垣・櫻井氏の発見した新星の鷲氏による観測が掲載されます。そこでこれらの観測は22時38分にダンに送付しておきました。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。