ハッブルによる「宇宙年齢の決定」に結論
【1999年5月25日 Space Science Update (NASA, STScI) 】
宇宙の年齢はおよそ120億歳---。ハッブルスペース望遠鏡の主要プロジェクトチームは5月25日、宇宙の年齢やサイズ、そして今後の運命を決めるのに重要な意味をもつ、遠方銀河までの正確な距離の測定を完了したと発表した。チームの行った測定は、”ハッブル定数”と呼ばれる宇宙の膨張率を正確に決めるためにおこなわれた。ハッブル定数の計測は、1990年に同望遠鏡が打ち上げられて以来、3大主要課題のうちの一つであり、今回の発表により8年越しの観測による結論が出されたことになる。
宇宙に存在する天体は、その距離に応じた速度でお互いに遠ざかっており、その後退速度は天体までの距離に比例する。この法則は発見者エドウィン・ハッブルの名をとって、「ハッブルの法則」として知られている。そして後退速度と距離との関係をあらわす比例定数は”ハッブル定数”とよばれている。ハッブルの法則の発見以来、約70年にわたってハッブル定数を正確に決めるための努力がなされてきたが、ハッブル望遠鏡が登場する以前、その数字は1メガパーセク(約326万光年)あたり秒速50km〜秒速100km程度の範囲でしか決めることができなかった。その値には、じつに2倍ものひらきがあり、大きな誤差を含んでいたのである。
この差により、宇宙の年齢も100億年なのか200億年なのか、正確に決めることができなかった。この不確実さが原因で、これまで宇宙の起源やその運命についての基本的な問題の多くに正確な答えを出せずにいた。
ハッブル定数を正確に決めるためには、遠方銀河などの、天体までの距離をいかに正確にきめられるかが重要な鍵となっていた。そこでプロジェクトチームは、ハッブルスペース望遠鏡を用いて遠方の銀河の中にあるセファイドと呼ばれる変光星を観測した。セファイドは銀河中に希にしか存在しない天体であるが、変光周期などを解析すると、その星までの距離をかなり正確に測定することができるのである。
しかし遠方の銀河にふくまれるセファイドほど暗く見えるため、変光の特徴を観測するのは困難を極める。ハッブルがこれまでに観測したのは、6500万光年よりも遠い18の銀河中の、約800個のセファイドである。中でも、もっとも遠い銀河はNGC 4603(写真)であり、その距離はおよそ1億800万光年である。このくらい遠方の銀河になると、ハッブル宇宙望遠鏡をもってしても、銀河中の星からの光は検出限界ぎりぎりとなり、変光星でないものも明るく見えたり暗く見えたりする。このためNGC 4603の解析では、前例をみないような大規模なコンピュータシミュレーションを用いての統計的な解析が行なわれた。
こうして、ハッブルによる高集光力、高分解能ならではの観測と大規模なコンピュータ解析の結果、遠方銀河までの距離が正確に決められた。こうしてもとめられたハッブル定数は、1メガパーセクあたり秒速70km、つまり天体は地球から3.3光年離れるごとに時速25万6000kmの速度で遠ざかっていることになる。そして重要なのは、その誤差が10パーセント程度におさえられたということである。
ハッブル定数の決定により、別の観測から推定されている宇宙の密度を考慮することによって宇宙の年齢を決めることができる。チームが求めたその値はおよそ120億年。この結果は、これまでに他の観測から求められている一番古い星の年齢が120億年であることとも合致する。
しかし研究者によると、この値は宇宙の密度がいわゆる臨界密度(宇宙が今後も膨張を続けるかどうかの境界となる密度)よりも低いとした場合にあてはまるとされている。また、もし宇宙に銀河どうしを引き離すような”未知の”反発力が働いているとした場合、この効果を差し引いた宇宙の膨張スピードはもう少し遅いことになり、その結果、宇宙年齢は古く見つもられることになる。この反発力は「宇宙項」とも呼ばれ、アインシュタインが一度提唱したものの、その後撤回したという経緯で知られている。「宇宙項」を考慮にいれたほうが球状星団や超新星など、複数の別の観測をよく説明できると考える研究者もおり、その場合の宇宙年齢は約135億年程度になるという報告もある。
いずれにせよ、ハッブルスペース望遠鏡の観測によって、ついに宇宙年齢が120億年なのか、135億年なのかという議論ができる時代に入ってきたという意義は大きいだろう。今後より詳しい観測が成されることに期待したい。
参照:ニュースソース
STScI-PRC99-19, May 25, 1999 プレスリリース
Hubble Finds Variable Stars in Distant Spiral Galaxy
参照:ハッブルスペース望遠鏡最新画像のページ
http://oposite.stsci.edu/pubinfo/pr/1999