チョウ型をした“パピヨン星雲”の中に隠された大質量星誕生の秘密

【1999年6月10日 Space Science Update (NASA, STScI)

N159

ハッブル宇宙望遠鏡は、私たちの銀河系から約17万光年離れた大マゼラン雲の中に位置する、N159と呼ばれる星形成領域をとらえた。この煮えたぎるような乱流領域の中で、まさに新しい星が誕生しようとしている。その証拠に、この中には山の稜線やアーチ状の模様、フィラメント状の構造などをみつけることができる。これらの構造は、生まれたばかりの、高温で重い星から吹き出す強烈な星間風によって刻まれたものであり、その長さは150光年に達するものもある。

渦巻くガスと暗黒のダストに埋もれて、この領域の中心付近にコンパクトにまとまった珍しいタイプの電離ガス星雲が見つかった(矢印)。今回はじめて捉えられたその星雲の詳細構造(右上の切りぬき拡大画像)は、みごとな“チョウの形”または“パピヨン犬(チョウのような長い耳をした小型スパニエル犬)の耳の形”ともいうべきもので、大きさは約2光年。天球上の角度にすると約2秒角に相当する。

ではなぜこのような小さな電離ガス星雲がチョウのような形をしているのであろうか。可能性として考えられるのは、この星雲の中心付近に生まれて間もない太陽質量の10倍を超すような大質量星が隠されているということである。この星自身は周りの星間ガスによって直接見ることはできないが、そのような重い星は表面の温度がひじょうに高いので、放射圧によって周囲のガスを南北両極の方向に吹き飛ばしてしまうのである。おそらく星の赤道面付近には比較的重いガスやダストの円盤が存在するためにガスが飛ばされにくく、そのため両極方向から双極流としてガスが外部に流れ出し、それがチョウが羽を広げたように見えているものと思われる。

この観測は大マゼラン雲の中の若い大質量星を探索するプロジェクトの一部として行なわれた。その中でも、生まれて間もない大質量星の痕跡を見つけた今回のようなケースはひじょうに希である。

なお、この画像イメージは1998年9月5日、広角惑星カメラ2によって撮影された。赤色が中性水素の輝線による光を、また黄色が高度に電離した酸素による光を主に反映している。

参照:ニュースソース
STScI-PRC99-23, Jun 10, 1999 プレスリリース

参照:ハッブルスペース望遠鏡最新画像のページ
http://oposite.stsci.edu/pubinfo/pr/1999