“腐敗した卵”星雲

【1999年10月19日 Space Science Update (NASA, STScI)

ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている赤外線カメラによって、“腐敗した卵”星雲と呼ばれる惑星状星雲の構造が捉えられた。星雲の中心に位置する星がその終焉を迎え、左右の方向にガスやダストを噴出している。この星は私たちの太陽に近い質量をもっていると考えられており、これらの星が今後どのような終焉を迎えるのかという研究に貴重な情報をもたらすだろう。

Lunar Prospector

私たちの太陽程度の質量を持つ星は、その終焉を迎えると通常の赤色巨星となり、その後星の外部にガスを噴出して惑星状星雲を形成する。しかしそのガスを噴出する状態は星の一生のタイムスケールからみるとひじょうに短い間に起こる現象で、太陽程度の質量の星のほとんどがそのような状態を迎えるにもかかわらず、まさにガスを噴出しているという星を見つけることはたいへんに難しい。

今回ハッブル宇宙望遠鏡の赤外線カメラで捉えられた星は、正式名称をOH231.8+4.2いい、まさにそのような状態にある星の一つである。左右反対向きにガスやダストを噴出しているようすが捉えられている。ガスの流れの速さはひじょうにはやく、時速70万kmと計算されている。画面右側には中心星から伸び出すストリーマー構造やガスの小塊が、また左側にはジェットのような構造も見られる。

2つの画像のうち、上の白黒画像は赤外線カメラによる単色光画像で、星雲中の微細な構造がよく描写されている。下のカラー画像は波長の異なる4枚の赤外線画像を合成したもので、場所による温度や組成の違いを見るのに好つごうである。

電波観測によると、この星雲には硫化水素や二酸化イオウといったイオウ化合物が多く検出されている。おそらく不安定な状態になった中心星から流れ出す高速ガスが周囲の星雲内にショックを形成し、その過程でこれらの複雑な分子が生み出されると考えられる。このため、この星雲には別名“腐敗した卵”星雲というニックネームが付けられているのである。

<参照>
STScI-PRC99-39 October 19, 1999