ハッブル宇宙望遠鏡が機能回復

【2000年1月27日 国立天文台ニュース(321)

ジャイロスコープの故障で観測不能になっていたハッブル宇宙望遠鏡に対し、昨年12月、スペースシャトル、ディスカバリー号が接近、宇宙飛行士がジャイロスコープやコンピュータを交換するなどの修理作業をおこないました。 その結果、約二ヶ月の観測休止の後、宇宙望遠鏡はその機能を回復しました。 その後、修理後の望遠鏡の性能を確認するために、二つの目標に対してテスト撮影をおこなった画像が発表されました。

ひとつは、「ふたご座」の惑星状星雲 NGC2392 の画像です。 この惑星状星雲は、地上の望遠鏡では毛皮の頭巾をかぶった人の顔に似ているところから「エスキモー星雲」といわれています。 これが宇宙望遠鏡の画像では、中心星から巨大彗星がちょうど自転車のスポークのように四方八方へ飛び出しているように見えます。 それら彗星状のものの頭部はすべて中心星から等距離で、その成因を想像させる手がかりになりそうです。 惑星状星雲の専門家であるメリーランド大学のハリントン(Harrington, J. Patrick)は、「こんなに微妙に美しい惑星状星雲はこれまで見たことがない」と、感想を述べています。

もうひとつは、エイベル2218と呼ばれる「りゅう座」の銀河団の画像です。 その重力によるマイクロレンズ現象で、この銀河団は、背後の銀河の光を増幅しています。 ハッブル宇宙望遠鏡は1994年にこの銀河団を撮影していますが、そのときはモノクロ画像でした。 今回はフルカラーで、初期宇宙の銀河のすばらしい、ユニークな様子を示したその画像が、天文学者を驚かせています。 カリフォルニア工科大学のエリス(Ellis, Richard)は、「遠距離の銀河の内部構造をカラーで見たのは初めてだ。若い銀河の微細構造がわかる。マイクロレンズ現象で生じた背後の銀河の多重像は、色が同一であるから、容易に見分けることができる」と述べています。

こうして、修理後のハッブル宇宙望遠鏡は、新しく搭載したコンピュータを含めてすべてが完全に動作し、以前に優る性能で機能を回復しました。 今後、さまざまな天体の観測に活躍し、世界の天文学者の期待に応えると思われます。

注:エイベル番号は、パロマーの写真星図からエイベル(Abell, Geroge)が1958年に作った銀河団カタログの番号です。 このカタログには赤緯マイナス27度以北の銀河団2712個が収録されています。

参照 宇宙望遠鏡研究所リリース STScI-PR00-07(Jan.24,2000).