XMM、初観測(続報)

【2000年2月22日 ESA XMM-Newton (2000/2/9)

XMM-Newtonが開眼

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の天文衛星「XMM(X-ray Multi-Mirror)」は、ヨーロッパでこれまで開発された中では最大かつ最高感度のX線宇宙望遠鏡で、昨年12月10日に打ち上げられた。XMMは総面積120平方メートルにおよぶ174枚の反射鏡を備え、NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ(Chandra)」の5倍以上の高感度を誇る。ただし、解像力ではチャンドラの方がはるかに優れており、今後この2機はお互いを補完し合いながら観測を続けていくことになる。

この「XMM」は、今は「XMM-Newton」と改名され、活躍をはじめている。ここでは、XMM-Newtonの初観測画像をいくつか紹介させていただく。なお、これらの画像は2月9日に公開されたものだ。


タランチュラ星雲

EPIC-PNによるタランチュラ星雲の擬似カラーX線画像 画像1 EPIC-PNによるタランチュラ星雲

画像1は、EPIC(European Photon Imaging Camera, ヨーロッパ光子画像カメラ)によるもの。われわれの銀河系の伴銀河である大マゼラン雲の一部のタランチュラ星雲と呼ばれる領域を撮像したものだ。この領域では、天体の爆発により新たに生成された物質が放出されており、また同時に新たな星が形成されつつある。右下の領域にあるのは、超新星1987Aの残骸で、左上の最も明るい部分は超新星残骸N157Dだ。

この画像は中程度の輝きを放っているX線の温度を測定するために制作された。青が最も高温の領域を表し、緑が中温、赤が最も低温を表す。青のX線のほとんどはこれまで観測されたことがないもので、XMMの集光力によりはじめて観測が可能となったものだ。

EPICは3つのCCDカメラから構成される。うち2つは従来通りのMOS CCDを採用したカメラで、これらは軟X線(低エネルギーX線)の観測に威力を発揮する。あとのひとつはPN CCDという新しいCCDを採用したカメラで、こちらは硬X線(高エネルギーX線)の観測に威力を発揮する。



銀河団HCG 16

EPIC-PNカメラによるHCG 16の擬似カラーX線画像 画像2 EPIC-PNによるHCG 16

画像2は、EPIC-PNによる擬似カラーX線画像だ。これらの衝突し合う銀河たちはおよそ1億7千万光年の彼方にあり、ほとんどは非常に淡いのものだが、このEPICによる画像でははっきりと見て取れる。さらにその背後には100以上の微光X線源がひしめいている。これらの微光X線源は、そのほとんどがXMMにより新たに発見されたものだ。

OMによるHCG 16の可視光/紫外線画像 画像3 OMによるHCG 16

画像3は、同じ領域を光学モニター望遠鏡(Optical Monitor Telescope, OM)で撮影したもの。OMは口径30cmの可視光/紫外線望遠鏡で、口径4mの地上望遠鏡と並ぶ性能を有する。XMMはX線域および可視光域の画像を同時に得ることができる初の天文衛星だ。

ESAの先代のX線宇宙望遠鏡「Exosat」の場合、それにより得られたX線天体と対応する可視光天体を調べるには、地上の望遠鏡との連携が必要であったが、その成功率は非常に低いものに過ぎなかった。しかしXMMではX線天体と可視光天体の対応関係は容易に見出せるのだ。

なお、画像左は可視光域、右は紫外線域によるものだ。



二連星HR1099

EPIC-MOSによるHR1099の擬似カラーX線画像 画像4 EPIC-MOSによるHR1099

HR1099は100光年ほどの距離にある高温コロナを伴う星で、X線域において非常に活発な活動を見せてくれる。

画像4はそのEPIC-MOSによる画像。この画像においては、強烈な明るさのせいで二連星であるということがわからなくなっている。われわれの太陽は30日という周期で自転しているが、この二連星はわずか3日周期でお互いの周りを周回している。HR1099の周りに多数見えるX線源は、そのほとんどはこれまで未知だったものだ。


RGSによるHR1099のスペクトル 画像5 RGSによるHR1099のスペクトル

画像5は2つある反射回折格子分光計(Reflection Grating Spectrometer, RGS)のうちの1つにより得られたHR1099のスペクトル。画像右上はRGSの9つ並んだCCDチップにより得られた画像で、この画像の受光位置から波長を求め、スペクトルを得ている。これを分析することにより、それぞれの元素の温度や密度、量、運動速度などを推定することができる。



ニュートンを引き継いで

いずれの天体画像にも新たな天体が得られた。これらの天体には最も高温の天体として分類されるものが特に多く、宇宙は考えられていたよりも熱いということがわかった。

ただ、これらの画像は各機器の微調整が完全には済んでいない状態で撮影されたものだ。3月3日には観測機器の微調整とパフォーマンス検証が開始され、6月からは本格運用が開始される。

ESAはこの新しいX線宇宙望遠鏡に、かのアイザック・ニュートン(Isaac Newton, 1642-1727)にちなんだ名を与えた。ニュートンの数学、光学、物理学などにおける偉大な功績は、現代科学の基礎を築いた。

ニュートンは、分光学の創始者だ。そして、XMMの任務は天体の分光観測にある。またXMMは多くのブラックホール候補天体を発見することだろう。そしてもちろんそれらはニュートンが発見した万有引力の法則に従う。XMM-Newton以上にふさわしい名前は存在しないだろう。

これからもXMM-Newtonの活躍に期待したい。