大衝突による月の誕生を支持する新たな論文(続報)

【2000年2月23日 BBC (2000/2/16)

Nature誌に発表された論文によると、アメリカ・コロラド州のサウスウエスト研究所(SwRI)のチームによるコンピュータシミュレーションを使った研究の結果、月の軌道が持つ傾きは大衝突により月が誕生したと考えると説明できることがわかったという。 ( 速報・「大衝突による月の誕生を支持する新たな論文」より)

ジャイアントインパクト説

月の成因については様々な説がある。たとえば太陽系形成時に地球と一緒に創られたとする「兄弟説」、地球とは別の場所でできた天体が地球に接近して捉えたれたとする「捕獲説」などがある。その中で1984年、新たな月起源説が提唱された。地球が誕生して内部に中心核とマントルが分離した頃、地球に火星程度の原始惑星が衝突し、飛び散った破片の一部が地球をまわりながら月を形成したとする「ジャイアントインパクト説」である。月の岩石の組成が地球のマントルの組成と似ていることや、コンピューターシミュレーションによるモデル検証などから、現在この説はかなり有力視されている。

しかしながら、ここに一つの問題があった。地球をまわる月の軌道面が、地球の赤道面に対して5度以上傾いているという事実である。これまでのコンピューターシミュレーションによると、形成される月の軌道面はせいぜい1度程度の傾きしか持たないとの結果が得られるのである。じつは太陽系内のほとんどの衛星は、惑星赤道面に対する軌道の傾きが1〜2度より小さい。5度以上も傾いている地球の月はかなり特異な存在といえる。なぜこのような大きな軌道面の傾きをもっているのかはこれまで謎であった。

ジャイアントインパクト説のシミュレーション計算によると、原始惑星の衝突後、飛び散った破片は地球赤道面上を周回するようになるが、その質量中心は円盤の内部と外部の2つの領域に形成されるようになるという。内部の破片は外部にできる集積塊を地球重力から遮断するはたらき、すなわち地球から遠ざける役割をもつ。その後外部の集積塊は月に成長し、半径22,500kmの円軌道をまわるようになる。

重要なのは、月ができた後、その重力が内部をまわる破片に重力的な相互作用による波を形成するという点である。この波は月自身にも影響を及ぼす。この効果を考慮に入れて、その後の月の運動のようすをシミュレートすると、最初は1度程度の傾きしか持たなかった月の軌道が次第に振幅を増し、最大15度も軌道面が傾くことがわかったのである。

このようにして現在の特異な月の軌道面の傾きをジャイアントインパクト説により説明することができることが明らかになった。この説の信憑性はますます高められることになる。この論文は科学雑誌Natureの最新号に掲載されている。

イラスト 加賀谷 穣/星の手帖社