ニュートリノを検出する新しい観測装置

【2000年2月29日 SpaceDaily (2000/2/28)

CDMS(Cryogenic Dark Matter Search=低温ダークマター捜索)と呼ばれる共同研究チームは2月25日、新しい検出器を用いてダークマター候補の一つであるニュートリノを精度よく検出することに成功したと発表した。( 速報・「ダーク・マターの検出に成功」より)

宇宙にはたくさんの銀河が存在する。銀河を構成する物質には星や星間ガス、ダストなどが挙げられるが、その運動を注意深く観測し、銀河がバラバラにならないために必要な質量を計算すると、実際には私たちが見ている物質の10〜100倍もの質量が宇宙に存在していなければならないことがわかる。このことは、私たちが見ることのできない、重力としての作用をもつ物質が宇宙に存在することを意味している。この物質のことをまとめて「ダークマター」と呼ぶ。

ダークマターの候補は、自ら輝かない星である褐色わい星や黒色わい星、ミニブラックホール、素粒子レベルで様々な粒子などが考えられているが、その正体はいまだ明らかではない。そしてその候補の一つとして、ニュートリノと呼ばれる粒子がある。

ニュートリノは電荷をもたず、他の物質に対してほとんど相互作用を及ぼさない。宇宙では恒星の中心部や超新星爆発などで起こる核反応によって大量に生成され、実質的に光の速さで運動すると考えられている。この粒子の質量はほとんど0であると考えられるものの、完全に0なのか、僅かでも質量をもつかどうかは重要である。もしこの粒子がある有限の質量を持つことが分かれば、宇宙に莫大な量が存在すると思われるニュートリノがダークマターとなっている可能性が高まる。そしてこれまで、世界中のニュートリノ検出装置によって、ニュートリノが僅かながら有限の質量を持つ可能性が指摘されている。ニュートリノは重要なダークマター候補の一つなのである。

宇宙のダークマターがニュートリノであるのかを調べるためには、宇宙がどの程度のニュートリノで満たされているのかを知ることが重要である。しかしながら、ニュートリノはどんな物質を用いても、それを検出することは極めて難しいとされている。日本のスーパーカミオカンデをはじめとして、世界中にニュートリノ検出装置が開発されてきた。そして今回、CDMSとよばれる研究プロジェクトチームは、低温の石英を用いた全く新しい検出器を用いてニュートリノをはじめとする弱い相互作用しか及ぼさない粒子(WIMPs=weakly interacting massive particles)の検出に成功した。

理論的には、WIMP粒子はつめの大きさほどの領域を1秒間に100万個も通過しているという。にもかかわらず、この粒子は1キログラムのゲルマニウムの中で、1日に1回程度の相互作用しか起こさない。この相互作用によって引き起こされる信号(イベント)を精度よくとらえることが重要なのである。今回開発された装置を用いると、WIMP以外の粒子が検出器に及ぼしてしまう信号と、WIMP粒子が及ぼす信号とを極めてよく分離することができるといい、WIMP粒子の検出精度を高めることになった。

共同研究チームによると、イベントの発生数は年周変動をしており、6月に最大、12月に最小になるとのことである。ニュートリノを検出する新しい装置が、太陽や宇宙から飛来するニュートリノをはじめとしたWIMP粒子を高精度で観測することで、ダークマターの謎を解く手がかりを与えてくれるかもしれない。