月のガラスビーズによる天体衝突頻度の推定
【2000年3月23日 国立天文台・ニュース(335)】
地球には、流星、隕石などの天体が絶えず衝突をしています。 ときにはやや大きい天体が衝突して、生物に影響を与える場合も想定されます。 このような天体の衝突は、過去に非常に激しい時代があったものの、現在はかなり減っているともいわれます。
地球、月に対する天体の衝突頻度は、地球軌道を横切る小惑星、彗星を数えること、また、地球にある衝突クレーターの数と年代を調べること、さらに、決まった年代以後にできた月のクレーターを数えることなどにより推定できます。 どの方法にもかなりの不確かさがつきまといますが、それらの方法から、最近2億年間の衝突頻度は、過去30億年間に比べて2倍に増えているという結果が得られています。 この増加は本当なのでしょうか。
カリフォルニア大学のカラー(Culler,T.S.)たちは、月表面のガラスビーズを使って天体の衝突頻度を見積もる新しい方法を考え出しました。
月には大気がありませんから、小さい天体でも高速で月表面に衝突し、表土を溶かしてガラス化し、球形のビーズを作ります。 したがって、月の表土はたくさんのガラスビーズを含んでいますが、そのほとんどは、せいぜい直径0.1ミリに達するかどうかといった小さいものです。 これらのビーズは、衝突のとき広い範囲に散らばりますから、一カ所で採取したビーズでも、月表面をランダムに採取したのとほぼ同じに、いくつもの衝突によるビーズを含んでいます。 このビーズ一個一個の形成年代を測定すれば、その分布は、過去の天体衝突の年代分布と似たものになると思われます。
このような考えに基づいて、カラーたちは、アポロ14号が持ち帰った月の表土1グラムの中にあった155個のガラスビーズの形成年代を測定しました。 溶けてガラス化したときは高温になりますから、それまでに含まれていたガスはすべて放出され、カリウム−アルゴン法による年代決定には好都合です。 この解析から、カラーたちは、つぎの結果を発表しました。
35億年前から5−6億年前までの間に、衝突頻度は2分の1から3分の1に減少した。
最近4億年の間に、衝突頻度は、上記の最小値から4倍近く増加した。
これだけの結果から断定することはできませんし、数値そのものがどこまで信用できるかもわかりませんが、最近の衝突頻度の増加は本当なのかもしれません。 また、ガラスビーズを使うこの方法は、将来、月以外の天体に対しての応用も考えられます。
参照 Culler,T.S. et al., Science 287, p.1785-1788(2000).
Ryder,G., Science 287, p.1768-1769(2000).