チャンドラ、天体までの新しい距離測定法を実験

【2000年4月27日 NASA Chandra Press Room (2000/4/25)

ドイツ・マックス=プランク研究所のPeter Predehl氏をはじめとするチームが、X線観測により天体までの距離を測定する新しい方法を、NASAのX線宇宙望遠鏡チャンドラを用いて実際に実験を行った。

この新しい方法は、星間ダストによる散乱効果を利用するもの。星間ダストを構成する物質はさまざまだが、いずれにせよX線が星間ダストを通過する際にハローが形成される。ハローとは、霧の中のライトの周りに広がる淡い光のようなもの。このハローの光は、天体から直接届く光にくらべてわずかに遅れて届く。そして30,000光年という距離にある天体では、この遅れは15分にものぼる。そしてチャンドラの前代未聞の高解像力を用いれば、天体の輝きの変化の際の直接光とハローでの変化時間のずれを見分けることが出来るのだ。

ハローの光は外側に行くにつれて遅れそして減衰しており、ハローの異なる地点で輝きの変化と遅れを測定することにより、距離が特定できるわけだ。

この方法は、マックス=プランク研究所からチームに参加しているJoachim Trumper氏が同僚とともに27年前に考案していたが、チャンドラの登場までは十分な性能を持つ観測機器が無かった。

なお、この方法は、可視光では行なえない。X線は高エネルギーのため、ダストによる散乱が小さいが、可視光はX線に比べてごく僅かなエネルギーしかなく、ダストによる散乱角が非常に大きくなってしまうためだ。

チャンドラが撮像した「はくちょう座X-3」

チャンドラが撮像した「はくちょう座X-3」。中央の黄色いリングより外側の部分がハロー。

今回Predehl氏らは、「はくちょう座X-3」というX線源を対象に実験を行った。このX線源は、まるで灯台のように4.8時間周期で輝きを変化させる。このX線源は、中性子星(またはブラックホール)と恒星で構成される二連星だと推測されている。恒星から放出された物質が中性子星(またはブラックホール)に光速で落下する際にX線放射が発生し、それぞれがお互いの周りを回ることにより周期的に輝きが変化しているのだと考えられる。

Predehl氏らは今回チャンドラ搭載の進化型CCD分光撮像器(Advanced CCD Imaging Spectrometer; ACIS)を用いて「はくちょう座X-3」を3.5時間に渡って観測した。そしてハロー内のさまざまな点での時間の遅れを分析した結果、「はくちょう座X-3」までの距離を30,000光年±20%と算出することに成功した。

天体までの距離測定は難しい上非常に重要な問題。マックス=プランク研究所からチームに参加しているメンバーで、ヨーロッパの"Astronomy and Astrophysics"誌に掲載予定の研究報告の主執筆者であるPeter Predehl氏は今回の成果に関して「チャンドラは新たな世界を切り開いた」と語っている。

なお、今回は観測時間が短かったため、誤差が多いが、Predehl氏らは、将来的に4.8時間の周期全体を通しての観測を行ない、より正確な距離測定を行うことを希望している。

この方法は、原理上は大小マゼラン雲やアンドロメダ銀河のような近傍銀河までの距離測定にも用いることが出来る。もし実際に可能なら、宇宙の大きさと年齢を知る上で大きな助けとなるだろう。