チャンドラ、褐色矮星のフレア現象を初めて観測

【2000年7月11日 CHANDRA Press Room (2000/7/11)

NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」が、褐色矮星のフレア現象を初めて観測することに成功した。

チャンドラによる「LP 944-20」。左がフレア発生前、右がフレア中のもの。

褐色矮星は、木星などのガス惑星よりはずっと大きいが、恒星として輝くための十分な質量を持たない星で、低温のため、X線はもちろん、可視光でも観測は難しく、赤外線のみで観測可能。チャンドラが今回観測した褐色矮星「LP 944-20」は、南天の「ろ座」の方向にあり、わずか16光年ほどの距離にあるため、もっとも良く研究されている褐色矮星のひとつだ。誕生してからおよそ5億年ほどで、木星の60倍の質量を持つが、これは我々の太陽の質量のわずか6%に過ぎない。直径は太陽の10分の1程度で、自転周期は5時間未満。

チャンドラは「LP 944-20」を12時間に渡りX線で観測した。最初の9時間は「LP 944-20」の位置には何もとらえられなかったが、9時間36分を過ぎたところで劇的に増光(フレア)し、その後は2時間にわたって減光を続けた。上のチャンドラによる「LP 944-20」の画像は、左がフレア発生前、右がフレア中のもの。

7月20日の『アストロフィジカル・ジャーナル』誌で公表される報告の主執筆者であるRobert Rutledge博士(カリフォルニア工科大学)は「ショックだった。こんなに軽い天体のフレア現象を観測できるなんて、全く予想していなかった。これはまさに『吼えるネズミ』だよ。」と語っている。今回観測されたフレアは、他の波長域を含めて、褐色矮星で観測されたはじめてのフレアだ。

今回観測された褐色矮星のフレア現象のエネルギーは、太陽の小規模フレアに匹敵するもので、木星で観測されたX線フレア現象と比較すると10億倍の規模だ。フレアのエネルギー源は、ねじれた磁気圏と考えられ、観測チームの一員で同じくカリフォルニア工科大学のEduardo Martin博士によると、「今回の観測結果は、褐色矮星、そしてもしかしたら若い大型ガス惑星が磁気圏を持っているという最も有力な証拠。磁気圏の持つ大きなエネルギーはフレアとして放出され得る。」という。

なお、この観測は1999年12月5日、チャンドラの進化型CCD分光撮像器(ACIS)を用いて行なわれた。


画像提供:  NASA/UCB/Caltech/R.Rutledge