ハッブル、銀河系内の星崩壊のようすを観測
【2000年7月13日 STScI-PRC00-23 (2000/7/13)】
NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)が「はくちょう座」の方向4,700光年の距離にある散光星雲NGC6888の外縁部を撮影した。このNGC6888は、星雲中央にある死期が近い恒星WR136から25万年ほど前に放出された物質だ。
画像左上はHSTがとらえたNGC6888の一部。幅3光年ほどの領域をとらえたこの画像から、フィラメント状の構造が複雑に絡み合った構造をしており、星雲の縁には青く輝くガスがあるのがわかる。画像右下は地上望遠鏡によるNGC6888の広域像で、星雲の中心にはWR136が見える。左上の囲みがHSTが撮像した領域。星雲全体の大きさは幅16光年、長さ25光年ほどだ。
WR136は、「ウォルフ-ライエ星」と呼ばれる、超高温のひじょうに珍しい種類の恒星。死期が近づき、膨れ上がって赤色巨星となったこの恒星は、その重量の一部を徐々に放出していった。放出された物質は恒星を包む星雲となった。そして外層部を失い、高温の核が露出して「ウォルフ-ライエ星」と呼ばれるようになる過程において、強烈な恒星風――恒星表面から放出される荷電粒子の流れ――が吹き出された。この恒星風は時速610万kmという超高速で、それに伴って、我々の太陽が1万年間に放出するのと同等の質量がわずか1時間のうちに失われた。強力な恒星風は恒星を包む星雲にぶつかり、星雲は薄い殻のように圧縮され、やがて引き裂かれ、絡み合ったフィラメント状になり、現在に至っている。今は恒星風は殻の外層部を超えており、HSTによる画像の右上部には外層部が引き剥がされて舌状になっているのが見て取れる。
さらに、外層部を超えて星雲の外に吹き出した恒星風は、周囲の薄いガスを熱し、超高温に熱されたガスが青く輝いているようすがHSTの画像からわかる。この青く輝く薄いガスの発見は、観測可能な星雲の外側にも、多量の物質が存在することを示唆している。星雲全体の質量は我々の太陽質量の4倍ほどだが、この恒星がかつて赤色巨星だったころから、今に至るまでに失った質量は、太陽質量の15倍程度と見積もられており、青いガスの発見によりこの不一致がうめられることになった。
現在輝いているこの星雲は、恒星風が吹き去ってしまったために、恒星風によって圧縮されて濃くなった部分が拡散していき、輝きを失っていく。やがては見えなくなってしまうかもしれない。その後再び星雲が輝くときが訪れるだろうが、そのときはWR136が超新星爆発により完全に崩壊したときだ。
観測は1995年6月、ハッブル宇宙望遠鏡の広視野/惑星カメラ2を用いて行なわれた。色は、イオン化されている度合いに対応しており、青が最もイオン化されていることを意味し、赤が最もイオン化されていないことを意味する。研究成果は、『Astronomical Journal』誌の6月号に発表されている。
より高解像度の画像は、上記ニュースリソースのリンク先を参照されたい。
画像提供: NASA