さそり座デルタ星の増光
【2000年7月27日 国立天文台・ニュース(365)】
さそり座デルタ星が明るくなっています。「星座の印象を変えるほど だ」との報告もあります。肉眼でたやすく見える星ですから、ぜひ見て おきましょう。もっと明るくなるかもしれません。
「さそり座」は、日本では夏の夕方に、南の空の低いところに見える 星座です。この星の並びを尾を振り立てたさそりに見立てるのは、なる ほどと思わせるものがあります。この形でいうと、デルタ星はさそりの 頭のところにある星で、「理科年表」にはスペクトルがB型の2.3等星と 記載されています。このデルタ星が、2.0等にまで増光しているのです。 アルゴールやミラなどの規則的な変光星を別にすれば、新星以外でこの ように眼視でわかるほどの変光があるのは、きわめて珍しいことです。 この変光に最初に気付いたのはアルゼンチンのオテロ(Otero,S)でした。 6月30日、眼視観測中にこの星が明るくなっているのに気付き、国際変光 星ネットワークに報告しました。その後、明るさはさらに増し、7月20日 には2.0等に達したのです。
スペイン、バレンシア大学のファブリガット(Fabregat,J)たちは、スキ ナカス天文台の1.3メートル望遠鏡でこのさそり座デルタ星のスペクトル を撮影したところ、水素のH-アルファ線が輝線になっていることが明らか になりました。これは、さそり座デルタ星がB型星からBe型星に変わった ことを示しています。通常のB型星ではH-アルファ線は吸収線です。これ が輝線になっている星がBe型星で、添え字のeは輝線(emmision line)を意 味します。Be型星は、一般に高速で自転するB型星で、遠心力によって放 出されたガスで、星の周囲に円盤が生じていると考えられます。この円盤 のでき具合によって、変光したり、スペクトル型が変ったりするのです。 この種の変光の有名なものに、ヒッパルコスのカタログでは2.15等のカシ オペヤ座ガンマ星があります。この星は1937年に1.6等にまで増光したので す。これもやはりBe型星でした。さそり座デルタ星も何かの理由で星から ガスの噴出があって、それが今回の増光につながったのではないでしょう か。
さそり座デルタ星がどのように変化するか、今後をじっくり見守ってい きたいものです。
参照 | IAUC 7461(July 20,2000). |
VSOLJニュース(043)(July,22,2000). |