もっとも若い褐色わい星
【2000年8月3日 国立天文台・ニュース(367)】
これまででもっとも若い褐色わい星が発見されました。 「うみへび座」にあるTWA-5Bと呼ばれる星で、形成後1200万年ぐらいと推定されます。
褐色わい星は恒星と惑星の中間の星です。 質量が太陽の8パーセントに満たず、十分に核融合反応が起こりません。 収縮による重力エネルギーによって初期にはなんとか光を放ちますが、その後は暗くなる一方という星です。 1995年に最初の褐色わい星GL229Bが発見されて以来、数10個の褐色わい星が発見されています。
褐色わい星は若いときほど明るく輝きますし、またわれわれの近くにあるほど明るく見えます。 しかし、現実に発見される褐色矮星は、近距離にあったために発見できたものが多く、年令は少なくとも数億年に達していて、若い褐色わい星はなかなかありません。 研究のために、なるべく若い褐色わい星を見つけたいと関係者は考えていました。
そのために取られた手段は、300光年以下の距離にある、年令1億年以下の若い恒星から伴星を探すことでした。 この条件の恒星はROSAT X線サーベイで発見され、100個ほどがリストになっています。 もしそこに褐色わい星の伴星があればその年令は1億年以下のはずです。 ただし、伴星らしい星があったとしても、それだけで褐色矮星の判星であると判断することはできません、スペクトル観測や固有運動の測定で、その確認をすることが必要です。
1998年に、ハッブル宇宙望遠鏡は、180光年の距離にあってTWA-5として知られる「おうし座T型星」のすぐそばに、暗い伴星TWA-5Bがあるのを発見しました。 しかし主星から角度でたった2秒しか離れていない上に、明るさが主星の僅か100分の1しかないので、これを単独で観測するのは容易ではありませんでした。
これに対し、ヨーロッパ南天天文台は2000年の2月から4月にかけて、チリ、セロ・パラナルの8.2メートルVLT望遠鏡を使って、TWA-5Bの光学、赤外のスペクトル観測などをおこないました。 その結果、スペクトルにTiO、VOなどの分子吸収線が認められ、TWA-5Bが褐色わい星であることがはっきりしました。 1998年との位置の比較から固有運動も求められ、主星と伴星の関係があることも確定的になりました。 こうして、これまででもっとも若い褐色わい星が発見されたのです。 観測から求められたTWA-5Bの明るさは太陽の400分の1で、絶対等級は約11.3等、有効温度は2500K、年令は1200万年と見積もられます。 主星からの距離はほぼ110AUあり、これは太陽、冥王星間の距離の2.75倍です。 公転周期は約900年で、理論的計算から質量は木星の15ないし40倍になります。
参照 ESO プレス・リリース 16/00(July 21,2000)