[チャンドラ] 京大助手ら、中間質量ブラックホールを発見
【2000年9月13日 CHANDRA Press Room (2000.9.12)】
京都大学理学部の鶴剛助手や米マサチューセッツ工科大学の松本浩典研究員らを含む国際研究チームは、NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」を用いた観測により、M82銀河の中心から約600光年の位置に中間質量ブラックホールが存在する強い証拠を得た。このブラックホールは太陽質量の500倍以上と見積もられる。これまでに、太陽質量の5倍〜10倍程度の低質量ブラックホールや太陽質量の百万倍以上の巨大ブラックホールは複数発見されてきているが、その中間的な質量を持つブラックホールの発見は今回が初めてだ。
今回中間質量ブラックホールが発見されたM82銀河は、おおぐま座の頭部の方向約850光年の距離に位置し、爆発的な星形成(スターバースト現象)を行っている。わずか0.6度(約9万光年に相当)ほど離れた位置に渦巻き銀河M81があり、スターバースト現象はこのM81との相互作用が引き金になっていると考えられている。
画像は、チャンドラの高解像度カメラ(HRC)がとらえたM82の中心部。視野角は、それぞれ横方向に30秒角(1秒角=1/3600度)で、約1200光年に相当。画像に印された小さな緑色の十字マークは、銀河の活動中心の位置を示す。チャンドラは、HRCや高度CCD分光カメラ(ACIS)を用いて、このM82中心部を8か月かけて6回観測している。観測時間は、計30時間ほどだ。
2つの画像は撮影時期が3か月異なるが、画像中心のもっとも明るい天体を見比べると、後に撮影された右の画像のそれは、左の画像のそれに比べてずっと明るくなっていることがわかる。このような長期的なX線の強度変化に加え、約10分という短い周期の強度変化があることも観測されている。この2種類の強度変化は、このX線放射が太陽質量の500倍以上のブラックホールに落ち込む物質からのものであることを強く示唆している。ブラックホールの核の半径は、月と同程度と推測されている。なお、このX線源は画像では大きくふくれて見えているが、これは観測装置の悪影響によるもので、実際は点状のX線源だ。
銀河中心部を除いては太陽質量の10倍を大きく超えるようなブラックホールが発見された例はなく、このブラックホールは新タイプとして分類される。複数のブラックホールが融合して大きく成長したか、または多数の恒星が融合した「ハイパースター」の残骸として誕生したと考えられている。
「このブラックホールは、最終的には銀河の中心に落ち込むかもしれません。」と松本博士は語る。「そういったことが繰り返され、銀河中心の超大質量ブラックホールが誕生したのでしょう。」
実は、ドイツ‐アメリカ共同のX線衛星「Roentgen」や日本‐アメリカ共同のX線衛星「あすか(ASCA)」による観測から、M82に中間質量ブラックホールが存在する可能性が以前から示唆されていた。そして今回のチャンドラによる観測からX線源が点状であることが判明、X線放射強度の周期変化も確認され、さらに可視光・電波・赤外線による観測データを総合して検討した結果、ようやく中間質量ブラックホールの存在がほぼ確認されたもの。
また、チャンドラによる観測の他、研究チームの一員でありハーバード・スミソニアン天体物理センターに所属する松下聡樹博士らが、国立天文台野辺山観測所のミリ波干渉電波望遠鏡を用いて、M82の中間質量ブラックホールの周りに大きく拡散しつつある巨大なガスの泡(スーパーバブル)を発見している。このスーパーバブルが形成されるためには、超新星爆発数千回分に相当するエネルギーが必要と考えられる。
私たちの銀河系においても、過去に爆発的な星形成がなされた時期に、多数の中間質量ブラックホールが形成されたと考えられている。したがって、銀河系内には現在存在が知られている1ダース程度の低質量ブラックホールや銀河系中心の超大質量ブラックホールに加え、数百個の未発見の中間質量ブラックホールが存在する可能性があるとされる。
画像提供: NASA / スミソニアン天体物理観測所(SAO) / チャンドラX線宇宙望遠鏡センター(CXC)