ヨーロッパ南天天文台の新技術望遠鏡NTTがオメガ星雲を観測

【2000年9月21日 ESO Press Photos 24a-b/00

ヨーロッパ南天天文台の南米チリのラシーヤ観測所に設置された口径3.6メートルの新技術望遠鏡NTT(New Technology Telescope)の近赤外線分光カメラSOFIが撮像したM17「オメガ星雲」の画像が公開された。

新技術望遠鏡NTT(New Technology Telescope)の近赤外線分光カメラSOFIが撮像したM17「オメガ星雲」

能動光学系を持つ新技術望遠鏡NTTは1989年にファーストライト(初観測)を迎えているが、1996年〜1997年にかけて大幅な機能拡充が行なわれ、制御システムや観測装置がESOの誇る4基の8.2メートルVLT望遠鏡のものと同等のものに更新されている。今回、上のM17「オメガ星雲」を撮像した近赤外線分光カメラSOFIも、そのときの機能拡充により新設された観測装置だ。2000年8月15日の撮像。

M17「オメガ星雲」は「いて座」「たて座」「へび座」の境界の方向(銀河面の近く)およそ5870光年の距離に位置する散光星雲だ。見かけ上の大きさはおよそ満月ほどである。中口径望遠鏡で見るとギリシア文字の「Ω(オメガ)」のように見えるためこの名があるが、小口径望遠鏡で見ると白鳥の姿に見えるため、白鳥星雲とも呼ばれる。他にも、馬蹄星雲やロブスター星雲という呼び名もある。この星雲は、恒星が次々に誕生している星形成領域として知られる。上の画像は、3種類の近赤外線波長で撮影された画像からカラー合成したもので、Jバンド(1.25ミクロン)を青、Hバンド(1.65ミクロン)を緑、Ksバンド(2.2ミクロン)を赤として合成してある。

この画像では、進化の初期段階にありまだ厚いチリに覆われた恒星は赤色に見えている。そして青っぽい色の恒星は、星雲の手前にある恒星または星雲内の進化した恒星だ。これら星雲内の進化した恒星からの強烈な放射が、星雲の水素ガスを電離させた結果、星雲は輝きを放っている。暗い領域は莫大なチリのために光が吸収されている領域だ。また、この吸収のため、画像の多くの星が真っ赤に写っている。より長い波長の方が光が吸収されにくいためだ。画像左上の部分には若く赤い星の大きな集団が見られるが、これらの星たちは星雲の深部に位置するため、可視光では観測できない。

画像左上端の部分は星像が引き伸ばされたようになっているが、これは、広視野の光学系のために生じた色収差による。視野は、およそ5分角(1分角=1/60度)四方で、満月の3%ほどの面積に相当し、これはこのクラスの望遠鏡としては広視野になる。画像上が北、画像左が東。

ところで、美しい天体画像は、科学的に興味深い情報も多く持っているものである。今回の画像ももちろん例外ではない。

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進化初期段階にある巨星とそのスペクトル

今回の画像には、進化初期段階にある巨星が発見されている。左の画像は、上の画像の一部を切り出したもので、最も長波長のKsバンドにだけその巨星の姿が見られるのがわかる。巨星は、私たちの太陽のような軽量級の恒星に比べて存在がめずらしく、また進化が急速であるため、進化初期段階にある巨星が発見されるのはめずらしい。

左の画像の下は、その巨星の近赤外線スペクトルだ。2000年8月16日にSOFIにより取得されたものである。このスペクトルから、進化初期段階の巨星であることが確認された。長波長になるにつれて連続的に強さを増すようなスペクトルになっているが、これは厚いチリに覆われた進化初期段階の恒星に特徴的なスペクトルだ。進化した恒星のスペクトルは短波長になるにつれ強くなり、またいくつかの吸収線も見られるため、進化初期段階の恒星とは容易に区別される。

なお、波長2.06ミクロンにはっきりとした吸収線が見られるが、これは観測方法の影響によるものだ。観測では、まず20分露光で巨星のスペクトルが取得され、次に同じ20分露光で巨星付近の星の無い領域のスペクトル(星雲のスペクトル)が取得された。そしてその後、巨星のスペクトルから星雲のスペクトルを減算し、巨星のみのスペクトルが得られた。波長2.06ミクロンは、星雲のスペクトルのヘリウム輝線である。

巨星が誕生する過程には謎が多く、進化初期段階の巨星を見つけることは銀河の成長の過程を探る上でも重要である。


画像提供: ESO