ハッブル、原始星から放出されたガスの変化をとらえる
【2000年9月28日 STScI-VID00-32 (2000.9.21)】
NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)が撮影した、原始星から放出されたガスの変化をとらえた画像が公開された。誕生から100万年ほどの原始2連星「XZ Tauri」と、誕生から50万年ほどの原始星「HH 30」の2つをとらえたもので、この2つの天体はそれぞれ「おうし座」〜「ぎょしゃ座」に広がる分子雲の中にある。この分子雲は、地球からおよそ450光年の距離に広がっており、もっとも近い星生成領域のひとつとして知られる。
誕生から100万年ほどの原始2連星「XZ Tauri」
2つの原始星の一方もしくは双方の周りの降着円盤から、わずか30年ほど前に放出されたガスの泡の変化をとらえている。ガスは毎時54万キロメートル近い高速で放出され、今では960億キロメートルの範囲に広がっている。
HSTは1995年に初めてこの天体を観測し、このユニークなガスの泡を発見した。そして、1998年と2000年にもこの天体を撮像し、ガスのようすの変化をとらえることに成功した。左のアニメーション画像は、それらの観測画像から制作されたものだ。
1995年の画像では、ガスの泡の周辺部の明るさは内側の部分とほぼ同じ明るさだった。しかし1998年の画像では、泡の周辺部は内側より明るくなっているという劇的な変化が見られた。これは、ガスが冷え、高温により電離していた原子核と電子が再び結合しはじめたためと考えられる。原子核と電子の結合の際には光が放出される。このような変化が観測されたのはこれが初めてである。
広視野/惑星カメラ2(WFPC2)による撮影。
Credits: NASA, John Krist (Space Telescope Science Institute), Karl Stapelfeldt (Jet Propulsion Laboratory), Jeff Hester (Arizona State University), Chris Burrows (European Space Agency/Space Telescope Science Institute)
誕生から50万年ほどの原始星「HH 30」
この天体は、生まれたばかりの原始星とそれを包むダストである「ハービッグ・ハロー天体」のひとつとして知られる。
HSTは1995年、1998年、2000年にこの天体を観測し、その変化をとらえることに成功した。左のアニメーション画像は、それらの観測画像から制作されたものだ。原始星を取り巻く降着円盤(画像下部)と、高速で噴き出すジェットのようすがわかる。
降着円盤の直径はおよそ450天文単位(天文単位=地球〜太陽間の平均距離で約1億5000万キロメートル)。1995年と2000年の画像では円盤の左右の明るさはほぼ同じだったが、1998年の画像では円盤の右側の方が明るかった。これは、恒星上の明るい地点の影響によるものか、または恒星付近の円盤の変動の結果右側の方が恒星からの光の吸収が少なくなって明るく照らし出されたと考えられる。
降着円盤の上下に見られるジェットの形成には恒星の磁気圏が深く影響している。降着円盤のガスやダストが恒星に落ち込む際、その一部は磁気圏に沿って恒星の両極に流れ込み、両極から噴き出すのである。この画像に見られるジェットは一様ではなく、とぎれとぎれになっていることから、この現象は散発的なものと考えられる。画像に見られる変化から推定されたジェットの速度は、時速16万キロメートル〜時速96万キロメートル程度。ちなみに、なぜだかはよくわからないが、下部に噴き出しているジェットは上部に噴き出しているジェットに比べて倍もの速度である。
Credits: NASA, Alan Watson (Universidad Nacional Autonoma de Mexico), Karl Stapelfeldt (Jet Propulsion Laboratory), John Krist and Chris Burrows (European Space Agency/Space Telescope Science Institute)