[ESO] とけい座ι星を取り巻くチリの円盤を発見
【2000年10月13日 ESO Press Photo 27/00】
ヨーロッパ南天天文台(ESO)の南米チリ・ラシーヤ観測所の「ESO3.6メートル望遠鏡」が「とけい座ι(イオタ)星」(太陽系からの距離はおよそ56光年)の周囲に広がるチリの円盤を発見した。
この画像は、ESO3.6メートル望遠鏡の観測装置のひとつ「ADONIS (ADaptive Optics Near Infrared System=適応光学系近赤外観測システム)」による。左が「とけい座ι(イオタ)星」、右はチリ円盤を持たない一般的な恒星。中央に円形の部分を持つ十字の黒い影は、恒星からの明るい直接光を遮断して恒星の周囲を観測するためのマスク。マスクを用いても観測機器内での乱反射などの影響により漏れ光が生じてしまうため、右の恒星の周囲にも光芒が見られるが、左の「とけい座ι星」の周囲の光芒ははるかにはっきりしている。特徴を詳しく分析した結果、この光芒は北東〜南東方向に延びるチリ円盤によるものであるらしいことがわかった。
この「とけい座ι星」には昨年、木星質量の2倍以上の質量を持つ惑星も発見(ただし、直接観測ではなく、惑星の重力の影響による恒星の位置の揺らぎから検出する手法による)されており、惑星とチリ円盤の双方を持つ太陽系外の恒星系の発見はこれで4個目となる。私たちの太陽の周りにもチリ円盤が存在しており、日没後の西の空または日の出前の東の空にコーン状にぼんやりと輝く「黄道光」(ひじょうに淡いため、空気の澄んだ場所でなければ観測できない)は、太陽の周囲のチリ円盤が太陽光を反射して輝いているものだ。太陽と同型の恒星には惑星とチリ円盤の組み合わせの存在は比較的ありふれたものなのかもしれない。
「とけい座ι星」を取り巻くダスト円盤の半径は65天文単位(天文単位は太陽〜地球間の平均距離で、およそ1億5000万キロメートル)で、これは太陽〜海王星間の距離(約30天文単位)の約2倍にも達する。太陽を取り巻くチリ円盤はボイジャー探査機の観測により冥王星(太陽から約40天文単位)の外側にまで広がっていることがわかっているが、「とけい座ι星」の周囲のものは太陽の周囲のものにくらべてずっと大きく高密度である。
「とけい座ι星」に発見された惑星は、恒星から半径およそ1天文単位の軌道を持つと推定されているが、この画像で恒星からの直接光を遮断しているマスクの半径は8.5天文単位に相当するため、惑星はマスクに完全に隠されてしまっている。ただし、惑星の明るさはチリ円盤の明るさに比べ数千分の1と考えられるため、仮にマスクの外にあっても今回の観測システムでの検出は不可能である。
Image credit: ESO Education & Public Relations Department