地球衝突の危険をはらむ地球近傍天体2000 SG344

【2000年11月9日 Science@NASA (2000.11.7)

地球近傍天体2000 SG344と地球の軌道図
地球近傍天体2000 SG344と地球の2030年の軌道図。9月21日に至近距離まで接近するが、衝突の危険は無い。

国際天文学連合(IAU)は11月3日、9月29日に新発見された地球近傍天体「2000 SG344」が2030年に500分の1の可能性で地球に衝突する可能性があるというアナウンスを行なった。この天体が一般的な小惑星であった場合、その大きさは直径30メートルから70メートルの間と推定される。その大きさの小惑星が衝突しても地球規模の災害とはならないが、局地的には大きな被害を与える可能性がある。

幸い、このアナウンスの後にこの天体の発見前観測画像が見つかり、より高精度な軌道が求められた結果、この天体は2030年には地球〜月間の距離の11倍程度までしか地球に接近しないことが判明し、この年の地球衝突の可能性は否定された。しかし、その次に地球に接近する2071年には地球衝突の可能性が1000分の1程度あるという。

ところで、図を見てわかるように、この天体はほとんど地球と同じ軌道を地球に寄り添うように公転している。このことから、この天体の正体については、もうひとつの可能性が残されている。

その可能性とは、アメリカがアポロ計画で用いたサターン-5ロケットのブースター部「S-IVB」 (全長15メートル以下) であるという可能性である。NASA・ジェット推進研究所の地球近傍天体計画のマネージャーであるDonald Yeomans氏によると、2000 SG344はS-IVBとしては少々明るすぎるが、S-IVBである可能性も否定できないという。

もしこの天体がS-IVBであった場合は、地球大気に突入した際に完全に燃え尽きてしまうと考えられ、危険はない。

だが、この天体がS-IVBなのか小惑星なのかについては結論が出ていない。

2000 SG344を発見したハワイ大学の観測チームの一員であるDavid Tholen氏は、小惑星である可能性が高いと考えている。S-IVBであるとするなら、その軌道から考えられる候補はアポロ14号または15号のものであるが、アポロ14号または15号のS-IVBは月に激突してしまったはずだからである。

ただし、アポロ12号のものである可能性は否定できないという。月の重力がS-IVBの軌道を変えた結果、偶然にも地球と共に太陽を公転する軌道に乗ってしまった可能性があるためだ。

また、S-IVBであった場合、長年にわたって宇宙塵による腐食を受け、白かった表面が汚れて反射率が低くなってしまっている可能性があるということもあり、観測された明るさはS-IVBとしては明るすぎると考えられるそうだ。

だが、2000 SG344の運動や形状については、およそ10分周期で自転する、直径対長さが1対2ほどの細長い形状をしているということがわかっており、この形状はS-IVBによく似たものであるという。しかし、そのような形状の小惑星が存在することも知られており、小惑星であるとしても不思議ではないという。

その正体がいずれにせよ、地球に衝突する可能性があるのか無いのかについては確認する必要があるため、より多くの追跡観測により、さらに正確な軌道を確定する必要がある。また、アポロ計画当時のS-IVBの地上観測画像から、正体がS-IVBなのかそうではないのかが確定できる可能性もある。

Image credit: NASA