X線宇宙望遠鏡チャンドラ最新画像2件
【2000年11月22日 CHANDRA Press Room】
解像力に優れたNASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」による最近の成果を2つ紹介する。
クエーサーから超高速で噴き出すジェットの詳細を観測
クエーサーとは、数十億光年かなたにあって莫大なエネルギーを放出しているコンパクトな天体である。クエーサーの正体は、宇宙初期に形成された活動的な銀河の核であると考えられており、その中心には巨大ブラックホールが潜み、巨大ブラックホールに周囲の物質が流れこむ際に急加速された物質からの放射がクエーサーからの莫大なエネルギー放出の原因であると推測されている。
ブラックホールに物質が流れこむ際、その一部はブラックホールの強大な磁気圏により曲げられ、磁力線に沿って両極方向に流れ込み、両極から光速に近い速度で噴き出す高温ガスのジェットとなって放出される。このジェットの流れは、連続的な流れとなるはずだが、可視光・電波・チャンドラ以外のX線観測データがとらえたクエーサーからのジェットは、ほとんどが団子状にわかれた不連続なものであった。また、クエーサーからのジェットの速度は噴き出したすぐ後に急に遅くなることも知られていたが、その原因も謎であった。
今回チャンドラはクエーサー「3C273」を観測し、団子状のジェットの開始点とクエーサーの中心との間に、淡い連続的なジェットの流れがあることを発見した。それが左の画像である。左上にクエーサーがあり、そこから右下に向かって淡いジェットが続き、ジェットの先は連なった団子状の明るいジェットになっている。このことは、次のようなシナリオを支持する強い証拠となるものだ。
そのシナリオとは、クエーサーからのジェットの速度は一定ではなく、速くなったり遅くなったりしている。そして、ジェットの流れが速くなった場合、速いジェットはそれ以前に放出された遅いジェットに激しく衝突し、その部分が団子状となって見えるというものである。
この速いジェットが遅いジェットに追突する部分から放出されるエネルギーは莫大である。この画像に見られるクエーサーから最も近い団子の部分の場合、それが放出しているX線の強さはほとんどのセイファート銀河 (活動銀河の一種) よりも強力である。おそらく、ガンマ線でも明るく輝いていると思われるが、現行のガンマ線望遠鏡では解像力が不足しているので確認できない。
画像はチャンドラの高解像度カメラ (HRC) および高度CCD撮像分光器 (ACIS) による。視野角はおよそ24秒角 (1秒角=1/3600度) 四方。
Image credit: NASA/CXC/SAO/H. Marshall et al.
はくちょう座A銀河を取り巻く高温ガスに巨大な空洞構造を発見
チャンドラの観測から「はくちょう座A」銀河を取り巻く高温ガスの内部にフットボール状の巨大な空洞構造があることが判明した。画像の黄色〜オレンジ色の部分がその空洞である。
はくちょう座Aは多数の銀河からなる銀河団の一員である。銀河団内の銀河間にはセ氏数千万度の超高温でひじょうに希薄なガスが広がっている。今回発見された空洞は、はくちょう座Aの中心部の巨大ブラックホールから吹き出す強力なジェットがこの銀河間ガスを押し広げて作り出しているものと考えられる。画像右上と左下の明るい黄色の地点は、ジェットが銀河間ガスに激しくぶつかって特に強く電波やX線が放射されている地点であり、銀河中心からおよそ30万光年離れている。銀河間ガスと空洞の境界部は、銀河間ガスが圧縮された状態になっているため、強いX線が放射されている。
観測チームの一員であるAndrew S. Wilson博士 (アメリカ・メリーランド大学 天文学教授) は、「私たちが見ているのは、ガスを引き寄せようとするはくちょう座A銀河の重力と、ガスを押し広げようとするジェットとの闘いなのです」と語っている。
2000年5月21日、チャンドラの高度CCD撮像分光器 (ACIS) による撮影。観測時間は9時間以上。視野は横3.3分角、縦2分角 (1分角=1/60度)。
Image credit: NASA/UMD/A.Wilson et al