ウランを太陽系外に初検出 ひじょうに古い恒星の年齢を特定
【2001年2月8日 ESO Press Release 02/01 (2001.02.07)】
国際研究チームが、ヨーロッパ南天天文台の8.2メートル望遠鏡VLTとその紫外-可視光エッシェル分光器UVESを用いて、CS 31082-001というひじょうに古い恒星に含まれる、ウランの放射性同位体ウラン238を測定し、その恒星の年齢が125億歳 (誤差見積もりは110億歳〜160億歳の間) であることをつきとめた。恒星の年齢は当然ながら宇宙より若いことから、今回の成果により宇宙年齢の下限が求まったことになる。宇宙年齢については諸説あるが、現在では100億歳〜160億歳という説が一般的となっており、今回の成果はこのことと整合する結果であるといえる。
ひじょうに古い起源を持つ恒星
ビッグバンにより宇宙が始まった直後は、水素 (原子番号1)、ヘリウム (原子番号2)、リチウム (原子番号3) という最も軽い元素のみが存在していた。それより重い元素は、恒星の内部で核融合反応により生成された。ただし、恒星の内部で生成できるのは鉄 (原始番号26) までであり、それより重い元素については、大質量の恒星が寿命を終える際の超新星爆発と呼ばれる大爆発において生成された。
したがって、鉄などの重い元素を少量しか含まない恒星は、ひじょうに古い起源をもつ長寿の恒星であるといえる。銀河系を球形に包む銀河ハローと呼ばれる領域に散在する球状星団には、鉄含有率が私たちの太陽に比べて200分の1程度のものも含まれ、古い星の集まりであることが知られる。
最近になって、アメリカの天文学者であるTimothy C. Beersらによる大規模なスペクトル観測から、球状星団のものに比べてもずっと鉄含有率の低い恒星が何百個も見つかった。そのなかには、鉄含有率が太陽に比べて1万分の1程度のものも含まれる。これらの恒星は、銀河系内で最も古い星々であり、したがって銀河系の誕生初期から存在すると推定され、銀河系の起源を探る上で重要な研究対象であると考えられた。
そこで、パリ天文台のRoger Cayrel氏をリーダーとする国際研究チームは、これらの星々を詳細に研究することを提案し、2000年〜2001年にかけてVLTの観測時間を多数得ることに成功した。今回の成果は、その研究プロジェクトの最初の成果発表である。
星の考古学
今回研究チームが恒星の年齢の特定に用いた方法は、考古学で大成功を収めている、炭素の放射性同位体炭素14を用いた年代測定と似た方法だ。この方法は、不安定な放射性同位体は、規則正しく一定の速度で放射崩壊して、他の安定な元素に代わるという性質を利用している。もともとあった放射性元素の半分が崩壊するまでの期間を半減期といい、放射性同位体は、半減期が過ぎると元々の半分になり、半減期の2倍が過ぎると元々の4分の1に、半減期の3倍が過ぎると元々の8分の1になるというように、規則正しく一定の速度で崩壊していく。したがって、ある放射性同位体と、その崩壊後の元素との割合を調べることができれば、その形成年代をかなり正確に特定できるというわけだ、
炭素14の場合、その半減期は5730年であり、これは考古学上の出土物の形成年代を探るには都合が良い。しかし、恒星の場合は時間のスケールが10億年単位であるため、ひじょうに長い半減期を持つ放射性同位体を利用する必要がある。そのための候補はわずか2種類しか無く、半減期が140億5000万年のトリウム232または半減期が44億7000万年のウラン238である。これらの重い元素は、半減期が長いとともに、超新星爆発において形成されその後新たな恒星の原料となったあとは、恒星の内部で新たに生成されることは無いため、検出することさえできれば年代測定に利用できる。
トリウム232を利用した恒星の年代測定は、明るい恒星や私たちの太陽を対象に実現している。だが、トリウム232は半減期が長すぎるため、かえって精度が悪くなってしまうという問題があった。ウラン238の半減期の方がこの目的には適しているのだが、ウランは恒星に含まれるさまざまな元素の中では最も希少な存在であるため、そのスペクトル輝線は他の雑多な元素の輝線の中に埋もれてしまい、検出は実現していなかった。
ところが、ひじょうに古い起源を持つ恒星の場合、重い元素が少なくスペクトルの輝線構成が比較的単純であり、またVLT+UVESの高い観測能力もあって、今回ウラン238の輝線の初検出に至った。
研究チームでは今後、今回の観測対象であるCS 31082-001のより精密なスペクトルを得たり、他の同程度に古いと考えられる恒星についても同様の観測を行なうことにより、より高い精度の成果を得ることを目指している。
もっとも、現状ではスペクトルの精度より、むしろ関連する物理的な基礎データの信頼性の方がより大きな問題である。それらを向上させる研究も、各地で行なわれている。
今回の成果は、科学誌『Nature』の2001年2月8日号上にて詳しく報告されている。