宇宙誕生の新モデル 宇宙は2つの「薄膜」の衝突で誕生!?

2001年4月17日 一部訂正

最初公開したとき、「薄膜」とは4次元空間と説明していましたが、これは「薄膜」とは3次元空間の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。

【2001年4月16日 SPACE.com (2001.04.13)

宇宙は2つの「薄膜 (brane=membraneを短縮したもの)」の衝突から始まった。こんな新説が発表された。この新説は、Neil Turok氏 (ケンブリッジ大学) 、Burt Ovrut氏 (ペンシルバニア大学) 、Paul Steinhardt氏 (プリンストン大学) 、 Justin Khoury氏 (プリンストン大学) らから成る研究チームが考案したもので、アメリカのボルティモアにおいて今月開催された、宇宙望遠鏡科学研究所 (Space Telescope Science Institute; STScI) の会合において発表された。

ここで、「薄膜」というのは、ひとつの3次元空間のことだ。私たちが生きる空間は、3つの空間軸からなる3次元空間だ。加えて、1つの時間軸も加えると、4次元となる。新説では、この4つの次元に加えて、もうひとつ未知の次元が存在し、その5次元上に複数の3次元空間が存在するとしている。そして、第5の次元上に複数の3次元空間が存在する状態を無理に3軸で表現するため、空間を2軸で表現し、もうひとつの軸を第5の次元として図示すると、1つの3次元空間は、1枚の無限に広がる「薄膜」として表現できるのである。

そして、宇宙の始まりは、2つの「薄膜」の衝突であったという。衝突以前には2つの「薄膜」には、私たちの宇宙と同様に物質が存在したかもしれないし、しなかったかもしれない。私たちの宇宙とは全く異なった物理法則に支配されていたかもしれない。しかし、2つの「薄膜」が衝突し1つに融合した際、空間全体が燃え上がり、そのときのエネルギーが素粒子や電子や光子に変換されて、今あるような宇宙が誕生したというわけだ。

もっとも、研究チームによると、この新説は基本的なアイデアの部分で未解明な要素を含むため、現在定説として受け入れられている「インフレーション宇宙論」に直ちに置き換わるようなものではないという。しかし、「インフレーション宇宙論」は、新説が前提としているような第5の次元の存在を否定していないため、選択肢のひとつにはなり得るとしている。

ここで、「インフレーション宇宙論」とはもちろん、宇宙は無限小・無限密度の一点が大爆発 (ビッグバン) を起こして誕生し、急激に膨張 (インフレーション) しながら進化してきたとする説のことだ。今回発表された新説は、「インフレーション宇宙論」が導くものと同様、膨張し宇宙マイクロ波背景放射を持つ宇宙像を導く。これはもちろん、現在観測により知られている宇宙像とよく一致するものである。

しかし新説は、「インフレーション宇宙論」に比べていくつか優れた点を持つ。

たとえば、「インフレーション宇宙論」では宇宙の始まりが無限小・無限密度という「特異点」であったとしているが、新説では空間全体から一様に宇宙が生まれたとしているため、特異点を必要とせず、宇宙の平坦性も説明できる。そして、衝突の際に達する温度も高温とはいえ有限であり、「インフレーション宇宙論」が必要とするような超高温状態を必要としないなどといったことだ。

研究チームは、この新説のことを「エクピローティック宇宙論 (Ekpyrotic Universe theory)」と名付けた。 この "ekpyrotic" は、古代ギリシア語の "ekpyrosis" からとった語。そして "ekpyrosis" は、ギリシア哲学において、世界の破滅・再生の際の大火を意味する。