ブラックホールも回転しているらしい

【2001年5月1日 NASA Goddard Space Flight Center News (2001.04.30)

NASAゴダード宇宙飛行センターのTod Strohmayer博士は、X線観測衛星RXTE (Rossi X-Ray Timing Explorer) を用いた観測により、ブラックホールの少なくとも一部は回転しているということを発見した。RXTEは、毎秒1000回以上回転する中性子星のようにX線強度が急速に変化する天体を研究するための観測衛星である。

「宇宙にあるほとんど全ての種類の物体は回転しています。惑星も、恒星も、銀河も。」Strohmayer博士は語っている。「ただ、ブラックホールは表面を持たないため、回転を直接検出することはとても難しいのです。しかし、方法はあります。ブラックホールに落ち込んでゆく物質からの放射を観測するのです。ブラックホールの伴星から放出された物質は、ブラックホールに落ち込むその直前、気が狂わんばかりに急激に動くのです。」

Strohmayer博士の研究対象は、地球から1万光年ほどの距離にある「GRO J1655-40」というマイクロクエーサー。マイクロクエーサーとは、周囲にある物質を吸収しながら、その一部を超高速のジェットとして吹き出している恒星型ブラックホール (太陽の10倍以上の質量の恒星が重力崩壊して形成されたブラックホール) であり、広い波長域で明るく輝いていることからそう呼ばれる。

博士は、このマイクロクエーサーにX線の準周期的振動 (quasiperiodic oscillation; QPO) を2種類発見した。ひとつは、300ヘルツのもので、これは以前から知られていたもので、ブラックホール中心から半径64キロメートルの安定軌道にあるガスに由来するものと考えられている。もうひとつは450ヘルツのもので、今回新たに発見された。この450ヘルツのものは、ブラックホール中心から半径49キロメートル以下の軌道にあるガスに由来すると考えられるため、ブラックホールが回転しているとしない限り説明がつかないという。

回転するブラックホールは、回転しないブラックホールに比べて小さな「事象の地平」を持つ。「事象の地平」とは、それより内側に達すると強大な重力により光でさえ脱出できなくなってしまう境界面であり、ブラックホールの外と内を分ける面である。そのため、ブラックホールにらせんを描きながら落ち込むガスは、ブラックホールが回転していない場合に比べてブラックホール中心からより近い位置まで安定して存在することが可能となる。そして、ブラックホール中心からより近い位置にあるガスは、ブラックホール周囲をより高速に渦巻くのである。