銀河団エイベル2218からの電波
【2001年9月20日 国立天文台・天文ニュース (477)】
25億光年も遠く離れた銀河団エイベル2218から、中性水素原子の発する波長21センチの電波が観測されました。この距離は、これまで同じ電波が観測された距離の約二倍に当たります。
水素原子は、静止座標系で波長21.12センチの電波を放射します。したがって、この電波を観測して水素ガスの存在を検出することができます。しかし、この電波は強度が弱いので、遠距離の天体から検出することはなかなか困難です。
オーストラリア、メルボルン大学のツワーン(Zwaan,M.A.)たちは、エイベル2218と呼ばれる銀河団からこの電波の受信を試みました。これは赤方偏移が約0.17もあり、およそ25億光年の距離にある銀河団です。この銀河団からは、波長21センチの電波がドップラー偏移で約25センチに伸びて観測されます。この観測に、ツワーンたちは、現在最大の電波望遠鏡のひとつであるオランダ、ウエスターボルクの合成開口電波望遠鏡を使って、1999年7月から9月にかけて、総計100時間以上の観測をおこないました。この電波望遠鏡は、口径25メートルのアンテナ14基を3.2キロメートルの範囲に配置したものです。その結果、期待した21センチの電波をやっと受信することができました。
この電波の発信位置を高精度に知るため、ハワイの口径10メートル、ケック望遠鏡でスペクトル観測をおこない、光学的に確認をしたところ、驚くことに、その電波は銀河団の中心から出たものではなく、周辺部に遠く離れて存在する渦巻銀河のA2218-HIから出たものであることがわかりました。銀河がたくさん集中したところでは、それらを包む高温ガスからのX線放射が、そこに落ち込んでいく銀河から水素ガスをはぎ取ってしまい、十分の水素がなくなってしまうためと思われます。A2218-HIは銀河が集中しているところから離れた位置にあるため、まだ多量の水素ガスが残り、21センチの電波を放射しているのでしょう。たくさんの銀河が集中している銀河団の中では、このようなプロセスで水素が減ってしまうため、星形成は急速に衰え、赤い銀河が増えると推定されます。今回の観測は、このようなモデルやシミュレーションを裏付ける形の結果となりました。
エイベル2218は、パロマー写真星図をもとにエイベル(Abell,G)が作った銀河団のカタログ(エイベル・カタログ)の2218番目にある銀河団で、「りゅう座」にあり、200から300個の銀河が集中しています。
<参照>
- Zwaan,M.A. et al., Science 293, p.1800-1802(2001),
- Braun,R.,. Science 293, p.1781-1782(2001).