電気で光る星
【2001年12月20日 国立天文台・天文ニュース (507)】
星が光を出すのに必要なエネルギーを生み出すものとして、まったく新しいメカニズムが提案されました。そのエネルギーは電力です。強い磁場をもつ白色わい星と磁場をもたない白色わい星が公転周期の短い連星になっているとき、この連星は効率のよい発電機となり、作り出された電力が恒星の大気を加熱して、光を出すようになるというのです。
星が光るためのエネルギーを生み出すために、これまでは大きく分けて二つのメカニズムが考えられていました。ひとつは星の中心の核融合反応で生ずるエネルギー、もうひとつは、物質が落ち込むときに生ずる重力エネルギー(降着円盤モデル)です。これに対し、星が発電機となって電気エネルギーを作り出すというのは、まったく新しい考え方です。
この考え方は、シドニー大学のウー(Wu,K.)、国立天文台ハワイ観測所の関口和寛(せきぐちかずひろ)たちの研究グループによって提案されました。このグループはRXJ1914+24というX線源に注目しました。これはX線観測衛星ROSATによる全天サーベイにより発見された「こぎつね座」にあるX線源です。X線天文観測衛星ASCA、ハワイ・マウナケア山頂の国立天文台「すばる」望遠鏡などを使った観測から、このX線源は9.49分という非常に短い公転周期の連星系であることがわかりました。RXJ1914+24のX線変光曲線、光度、分光特性などを説明するため、同グループは、太陽と同じ質量で強い磁場をもつ白色わい星と、太陽質量の10分の1で磁場のない白色わい星が、周期約10分で共通重心の周りを回転しているという連星系モデルを当てはめてみました。このモデルでは、強磁場白色わい星によって形成される電磁場の中を磁場のない白色わい星が動くとき、誘導電力を生じます。そして、強磁場白色わい星の自転周期と連星系の公転周期が一致しない場合には、太陽が生み出すのと同程度のエネルギーを放出するのです。このメカニズムでは、強い磁場をもつ白色わい星の表面二ヶ所にできる、磁力線が集まった小さな領域(Hotspots)でエネルギーが生成されます。
このモデルによりますと、RXJ1914+24のエネルギー生成をうまく説明できるだけでなく、可視・赤外線観測では明らかな変光が観測されないこと、スペクトルに輝線が観測されないことなど、これまでの降着円盤モデルでは説明できなかった事実もうまく説明できそうです。これは、このモデルが正しい方向に向いていることを示唆しています。この考え方は、星のエネルギー生成についてまったく新しい局面を開いたと言っていいでしょう。
注:この天文ニュースは、ハワイ観測所関口和寛さんから全面的に資料をいただきました。