近傍にある太陽に似た星を公転する褐色矮星が発見された
【2002 年 1 月 11 日 KECK OBSERVATORY NEWS】
ジェミニ北望遠鏡とケック望遠鏡を使った観測から、近傍にある太陽によく似た星の周りを公転する褐色矮星が見つかった。
褐色矮星が見つかったのは「や座 15 番星」あるいは HR 7672 と呼ばれるスペクトル型 G の星で、年齢は 10〜30 億歳、地球からの距離は約 58 光年である。一方、褐色矮星は主星からおよそ 14 天文単位離れており、質量は木星の 55 倍から 78 倍と推定されている。直接的な光学観測でこれほど主星に近いところに伴星が見つかったのは初めてである。
これまで、見えない惑星が主星に及ぼす重力の影響で主星の運動がふらつくようすを観測することで多くの惑星が発見されてきたが、同じ方法で見つかった褐色矮星はほとんどなかった。また、この方法では 4 天文単位より内側のことしか調べられないので、我々の太陽系の大型惑星が存在するような外側のことはほとんどわかっていなかったのだ。
褐色矮星とは惑星と恒星の中間の天体で、しばしば「恒星になり損ねた星」と呼ばれる。星の中心で核融合を起こし自ら光り始めるためには太陽の質量の 8% 以上の質量が必要となるが、褐色矮星はその質量に達することができなかった天体である。
今回この褐色矮星を直接観測できたのは「補償光学」と呼ばれる手法のおかげだ。大気の揺らぎをリアルタイムに測定して常にシャープな像が得られるように鏡を変形させることで、地上からも高解像度の天体像を得ることができる。ジェミニ望遠鏡、ケック望遠鏡という 2 つの巨大望遠鏡と補償光学の組み合わせにより、ハッブル望遠鏡に匹敵する(あるいはそれを凌ぐ)ほどの性能が得られる。
今回の発見は補償光学の能力の高さを改めて示すと共に、太陽系外惑星の多様性をいっそう広げ、褐色矮星がどのように形成されるのかという問題について新たな謎を投げかけた。現在のところ、太陽系の惑星は原始太陽系円盤と呼ばれるガスやチリの円盤からできあがったと考えられているが、今回見つかった褐色矮星はどうやら違う過程を経てできあがったようである。星の周りにどのような環境が形成されるのか、それはどのような進化の過程の結果なのか、まだまだ謎は多そうだ。