ケック望遠鏡が作り出した人工の星

【2002 年 1 月 16 日 KECK OBSERVATORY NEWS

ハワイ・マウナケア山にあるケック望遠鏡が人工的に星を作り出した。この星はケックの補償光学装置の一部として大きな役割を果たすことになる。

(ケック望遠鏡と照射されるレーザーの写真)

ケック望遠鏡から照射されるレーザー(写真提供:John McDonald, Canada-France-Hawaii Telescope Corp.)

地上の望遠鏡で天体を観測する際、大気の存在は非常に大きな障害となる。大気の揺らぎのために像がぼやけたり一部の波長の光が遮られたりしてしまうためである。このうち、揺らぎの影響を小さくするために用いられるのが「補償光学」というアイデアだ。明るい星を観測して大気の揺らぎの状態を調べ、常に最良の像が得られるように調整用の小さな鏡を 1 秒間に 100 回以上変形させるのである。この手法はケック望遠鏡の他にもすばる望遠鏡や ESO(ヨーロッパ南天天文台)の VLT(The Very Large Telescope)など世界の大型望遠鏡でも用いられている。問題は、このような明るい星があるのは全天の 1% ほどにしか過ぎないという点である。

今回、ケック望遠鏡はこの「明るい星」を人工的に作り出し、観測の際に大気の状態を調べるための星がいつでも利用できるようにした。20 ワットの色素レーザーで上空 95km の希薄なナトリウム原子の層を照らし、9.5 等級の明るさで輝く人工のナトリウム星を作ったのだ。その色は、街灯などでおなじみのオレンジ色である。

ケック望遠鏡と補償光学を組み合わせればハッブル望遠鏡の 4 倍もの解像度を得ることができる。補償光学をいつでも利用できるようにするという人工星の登場で、今後ケック望遠鏡はますます素晴らしい発見をしてくれるだろう。