すばる望遠鏡、補償光学装置を使って褐色矮星連星系を分光観測

【2002 年 1 月 17 日 Subaru Telescope Latest News

すばる望遠鏡に取り付けた波面補償光学装置(以下 AO)が、その能力を見せつけた。すばる望遠鏡が AO と近赤外分光撮像装置 IRCS を組み合わせた分光観測で撮影した褐色矮星連星系の画像が、16 日に公開された。

(すばるが撮影した褐色矮星連星系 HD 130948B, C の写真)

褐色矮星連星系 HD 130948B, C。左上は AO を用いたもの、右上は用いていないもの。左下は拡大写真、右下は 2.2μm 付近のスペクトル画像。クリックで拡大(写真提供:国立天文台)

AO は、大気の揺らぎによる光の波面の乱れをリアルタイムに補正する装置である。観測する天体の近くにあるガイド星の光を観測して大気の揺らぎの程度を測定し、その揺らぎを打ち消すように補助鏡を変形させて、常にシャープな星像が得られるようにするのだ。この AO のはたらきにより、望遠鏡の理論的な限界に近い解像度を得ることができるようになる。

すばる望遠鏡が今回観測したのは、地球から約 58 光年のうしかい座の方向にある HD 130948B, C と呼ばれる連星系である。昨年 2 月にジェミニ望遠鏡の AO を用いた観測によって発見されたこの連星系は、どちらの星も低質量星であると考えられている。2 つの天体の角距離はわずか 0.13 秒しかないため、分離観測するためには AO が必要不可欠であった。

今回の「すばる望遠鏡 + AO + IRCS」による観測では、見事に 2 つの天体を分離し、さらにそれぞれの分光観測にも成功した。観測から得られたスペクトルの解析から、両天体の大気の温度は摂氏 1500-1700 度ほどと低いことがわかった。別の観測から求めた天体の年齢(5-10 億年)と合わせて考えると、この連星系はともに褐色矮星であるという結論が得られる。褐色矮星とは、質量が小さい(太陽の 8% 以下)ために星の中心で核融合反応を起こすことができず、自分で輝くことができない「できそこないの」恒星である。

褐色矮星連星系はこれまでに数例しか知られておらず、AO を用いた分光観測としては、すばる望遠鏡と同じくマウナケア山にあるケック望遠鏡によっておこなわれた観測に続いて 2 例目である。褐色矮星のような低質量星の進化や性質を研究する上で、AO による近接連星系の分光観測は必要不可欠で非常に重要な手法となるだろう。もちろん、その他の種類の観測においても、AO によって得られる高解像度は大きな魅力になるに違いない。すばる望遠鏡には、今後も世界の他の大型望遠鏡に負けない活躍を期待したい。