月の内部に部分的に溶けた層が存在
【2002年2月21日 国立天文台・天文ニュース (526)】
月では、部分的に溶けた状態の層が、中心核を取り巻いて存在するらしいことがわかってきました。これは、月までの距離をレーザーで測り、月の潮汐変形を観測した結果に基づいて推定したものです。
海岸で観測すると、海面がほぼ一日に二度ずつ昇降することがわかります。それが潮汐で、月や太陽の引力で海水面が変形するために起こる現象です。この現象は海面だけでなく、地球の固体部分でも起こり、地表面も上昇、下降を繰り返しています。日本周辺では、20センチ程度の上下があり、たとえば精密重力観測などでその変化を検出することができます。
地球と同様に、月も地球や太陽の引力を受けて潮汐変形をします。どのくらい変形するかを測定すれば、月の弾性的性質がわかります。潮汐変形は、一般にラブ数といわれるh,k,lの三つの弾性定数で表現されます。詳細な説明は省略しますが、このうちkは潮汐によるポテンシャルの変化に関係する量です。
地球から月までの距離は、地球からレーザー光線を発射し、それが月表面にある反射鏡で反射して地球に戻るまでの時間を測って求めることができます。月面の反射鏡は約30年前のアポロ計画の際に置かれたもので、今でも立派に機能するということです。
ジェット推進研究所のウイリアムズ(Williams,J.)たちのチームは、測定された月までの距離のデータを解析して、潮汐変形により、月の表面が約27日周期で10センチほど上下していることを突き止めました。ここから計算されたラブ数kは0.0266となり、地球の約0.3に比べてずっと小さいことがわかったのです。こうして求めたラブ数と、アポロ計画の後1977年まで続けられた月の地震観測の結果を合わせ考えて、ウイリアムズたちは、月の中心核の周りを部分的に溶けた層が取り巻いていると結論したのです。この結果は、3月にテキサス州リーグ・シティ(League City)で開催される「月・惑星研究会(Lunar and Planetary Science Conference)」で発表されるということです。ついでに述べておきますと、地球では、地表から測って、深さ約2900キロメートルから約5100キロメートルまでの範囲は、地震波の横波を通さず、完全に溶けた液体の層になっています。なお、ラブ数は、19世紀から20世紀にかけて弾性論などを研究した数理物理学者ラブ(Love,A.E.H.)が導いたことから、この呼び名がついたものです。