カンガルー望遠鏡、銀河にガンマ線の「後光」を発見

【2003年2月28日 国立天文台天文ニュース(622)

宇宙線は、地球に降り注ぐ高いエネルギーをもつ粒子の総称です。1912年に宇宙線が発見されてから、その振る舞いは詳しく調べられてきました。しかし、その長い研究の歴史にもかかわらず、宇宙線が宇宙のどこで発生し、どのように伝わっていくのか、完全には解明されていません。また陽子などの宇宙線は、地球にやってくる間に磁場などで曲げられてしまいます。そこで、直進する性質を持つ宇宙線の一種であるガンマ線を利用すれば、その発生源に迫ることができます。

ところがガンマ線は地上には届きません。そこで、空気シャワー現象(注1)に伴うチェレンコフ光(注2)を捉えて、ガンマ線のやってくる方向を調べるのです。この目的のために活躍してきたのが、東京大学宇宙線研究所が運用するカンガルー大気チェレンコフ望遠鏡(CANGAROO, Collaboration of Australia and Nippon (Japan) for a Gamma-ray Observatory in the Outback)です。もともと旧東京天文台堂平観測所にあった月レーザー望遠鏡の3.8メートルの反射鏡を再利用し、1992年からオーストラリアで稼働を始め、かに星雲などから放射されるガンマ線を捉えるなどの成果を上げてきました。2000年には、さらに感度を上げるため、2号機が設置され、現在は口径10メートルにグレードアップされています。

この高性能を生かし、われわれが住む銀河系ではなく、他の銀河からのガンマ線が調べられるようになりました。そして、ちょうこくしつ座にあるNGC253という、800万光年離れた渦巻き銀河からのガンマ線を、2000年から通算2年にわたって、150時間もの観測で捉えることに成功しました。そして銀河の大きさを越える広がった領域全体からガンマ線がやってきていることを発見したのです。その領域は銀河の周りの拡がった空間(ハロー)に相当します。さらに、茨城大学、宇宙線研究所、京都大学のグループは、他の波長の観測との比較から、ここには高エネルギーの電子が満ちており、それが高エネルギーのガンマ線の放射源であることを示しました。まさに「ガンマ線の後光」の中に銀河があるといえるでしょう。これは、現在まで見つかっている最大規模の宇宙線の放射領域です。

われわれのような平べったい渦巻き銀河では、宇宙線の発生源は主に円盤部だけと思われていました。今回の発見は、それを突き崩すだけでなく、宇宙線の起源に関しても大きな謎を提起しています。カンガルーでは、口径10メートルの望遠鏡を3台追加し、さらに精度の良いカンガルーIIIとしてグレードアップしつつあり、さらなる観測成果が期待されます。

  • (注1)宇宙線の一種ともいえるガンマ線は、地球大気に飛び込むと、大気の原子核と衝突して様々な二次粒子を生み、これらの二次粒子がさらに大気の原子核と衝突していくプロセスが繰り返され、ねずみ算式に多数の粒子に増殖する現象。
  • (注2)荷電粒子が大気中を高速で走る時に放射する光。空気シャワーの時には、宇宙線粒子の飛び込む方向に、1度程度の円錐状に放射されるので、到来方向を知ることができる。

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