火星の閃光ミステリー
【2003年8月26日 国立天文台・天文ニュース(666)】
最接近を迎えた火星に多くの人の目が注がれています。大接近の火星を一目見ようと、公開型天文台には長蛇の列になっているようです。そんな中、一部のアマチュア天文家や天文学者は、古くからミステリーとされている閃光現象が起こるのではないか、と監視の目を光らせています。
閃光現象は、火星の表面の一部に明るく輝く光斑が現れ、しばらく明滅しながら、数分から数十分程度で消えていく現象です。天体望遠鏡で火星の表面を観測していた日本のアマチュア天文家によって、主に1950年代に報告されました。まだ火星人の可能性が指摘されている時代だったため、核爆弾の爆発の光ではないかとさえ言われていたほどで、いまでも、何が光っているのか、よくわかっていません。
ところが、最近になってようやく解明へ向けて光明が見えてきました。2001年にアメリカの月惑星協会に属するアマチュア天文家、トーマス・ドビンスとウィリアム・シーハンが、過去に閃光が目撃された日時と発生場所から、その幾何学的条件を計算し、氷や霜のような反射条件、つまり鏡面反射条件に近い例があることを見いだしました。そしてその幾何学的条件が、2001年6月上旬に実現することに気づいたのです。彼らは予測に基づき、フロリダで観測を行い、6月7日および8日の二日間にわたって、閃光の観測に成功しました(IAUC No. 7642)。この例に限れば閃光はある種の反射条件を満たしたために起きた可能性が強いと思われます。その付近はスキヤパレリという非常に大きなクレーターがある低地で、その底に水の結晶が凍り付いているのか、あるいは霧のような雲による反射なのかもしれません。
しかし、どうも一筋縄ではいかないところもあります。霜のようなものでは、あれだけ明るく輝くことはないという研究結果もある上、別の場所で目撃された閃光は確認されていません。そこで、今年の大接近で閃光を捉えようとしているチームがいくつかあるわけです。2001年の例と同様の条件となるのは、8月上旬と11月上旬なのですが、前者の期間には、はっきりした閃光は観測されませんでした。一方、愛知県名古屋市の池村俊彦(いけむらとしひこ)氏は、太陽−火星−地球が成す角度が小さくなる時に閃光が観測されていることに注目し、8月25日から9月1日の間に閃光が起きる可能性があることを指摘しています。これは大接近の前後ですので、多くの方が火星を観察している時期に当たります。多くの人の目が注目している時期に起きたとすれば、見逃される可能性も少なくなるので、期待されるところです。