回転サーチライト等禁止の法制化、日本天文学会が環境省へ要望
【2003年12月12日 国立天文台・天文ニュース(689)】
夜空に漏れ出す屋外照明の光によって、日本の星空は次第に失われつつあります。こういった現象を光害(こうがい、ひかりがい;光による公害)と呼び、最近では天文だけでなく、ウミガメなどの動物への影響や、ホウレンソウなどの農作物への影響も含めて広い意味で使われるようになっています。
近頃の天文雑誌では、夜空が暗く、天体観測や天体写真撮影に最適な場所の案内などが掲載されるようになりました。光害の影響を受けないような場所が、それだけ少なくなってしまった証拠といえるでしょう。
国立天文台の付属施設のひとつ、乗鞍コロナ観測所は、岐阜県・長野県境の乗鞍岳山頂付近にある日本でも有数の暗い夜空を誇る場所ですが、いまでは中京方面の都市光の影響が目でわかるようになっています。
光害源の中には、もちろん市民生活に必要な屋外照明が含まれていますので、一概に悪いとはいえませんが、中には光を夜空に向けて照射することを目的としているものもあります。回転サーチライトが、そのひとつです。その細く絞られた光は、大変遠方にまで届き、その動作によって人目を引くため、郊外のパチンコ屋やホテルなどで用いられていることが多いようです。
回転サーチライトは、天文ファンから自然の星空を奪い、ひいては天文学の観測環境を損ねている代表的な、そして市民生活に全く不必要な光害源といえるでしょう。影響が広範囲に及ぶ回転サーチライトは、平成10年に当時の環境庁が策定した『光害対策ガイドライン』によって、恒常的に使用することが禁止されています。にもかかわらず、ガイドラインには拘束力がないために、商業目的の回転サーチライトの使用は一向に減る気配はありません。
天文ファンだけでなく、研究者の間でも、法制度の整備が必要なのではないか、と考えられるようになりました。
12月11日、日本天文学会(松田卓也(まつだたくや)理事長・神戸大学教授)は、『回転サーチライト等禁止の法制化についての要望書』を小池百合子(こいけゆりこ)環境大臣へ提出しました。
この要望書に至るまでは、民間団体として光害の啓発活動に携わる星空を守る会(古在由秀(こざいよしひで)会長・ぐんま天文台長)も協力しています。
もともと、この会の前身であった日本星空を守る会(青木正博(あおきまさひろ)会長、故人)は、1972年に初代環境庁長官・大石武一(おおいしぶいち、故人)氏に『回転サ−チライトの禁止と、一般照明の天空照射規制』の陳情を行った経緯があります。
この要望を受けて、一刻も早く要望が実現し、日本の空から不必要なサーチライトが消えることを望みたいものです。