M78星雲の近くに新しい星雲が出現
【2004年2月12日 VSOLJニュース(121) / 国立天文台・天文ニュース(700)】
(VSOLJニュース)
M78星雲はオリオン座にある有名な星雲ですが、この近傍の暗黒星雲中に驚くべき「新変光星雲」が出現しました。発見はJay McNeilというアメリカのアマチュアによるもので、7.6cm望遠鏡とCCDカメラによる撮像によって発見されたものです。詳細はIAUC No.8284やStar Formation Newsletter No.136(2004年2月9日)に報告されています。
天体の位置は05h46m14s, -00o05'.8 (J2000.0)で、可視光での星雲の光度は15-16等と報告されています。この位置にはIRAS 05436-0007という赤外線源が知られていましたが、これまでの可視光写真にはほとんど何も見えていませんでした。
この現象は、この暗黒星雲(Lynds 1630)に隠されていた誕生まもない星(原始星)がアウトバーストを起こし、その光が周囲の星雲を照らしているものと考えられています。このような現象が可視光で観測されることはひじょうに珍しいものです。
このような誕生まもない星のアウトバースト現象として、かつて「新星」と考えられたFU Ori現象(1937年増光、現在も明るい状態が続いている)が有名です。20世紀においても、可視光でFU Ori型の増光現象が記録されたものは数例(V1057 Cyg, V1515 Cyg)しかなく、増光期間が捉えられなかったと思われるもの、あるいは可視光は吸収されて見えず、赤外線だけで観測されたものを合わせても確実なものは10個ほどしか知られていません。
FU Ori型現象は、星がガス雲から形成される時に形成される降着円盤中で、中心星に間欠的にガスが落ち込む現象で、星の成長に大きな役割を果たしていると考えられています。このような間欠的なガスの降着の一つの原因として、矮新星のような降着円盤の不安定が考えられていますが、低温の原始星円盤にどのようにして不安定を起こすようなガスの加熱や電離が起きるのかなど、現在でも未知の部分の多い天体現象です。伴星の重力によって円盤が乱されるためであると考える説もあります。
いずれにしても、FU Ori型現象は星の誕生過程のごく初期に起きるものと考えられており、ほとんどの期間をガスやちりの雲の中で過ごす原始星の成長過程で「目にみえる初めての光」と言っても過言ではないでしょう。よく知られているおうし座T型(T Tau型)の「生まれたばかりの星」は、この成長のずっと後で、星の周囲の雲が次第に晴れて可視光でも星が見えるようになった段階に相当すると考えられています。
この新星雲を照らしている星が、FU Ori型の現象なのか、あるいはより小規模の増光現象なのかの判定には今後の研究を待たなくてはなりませんが、「星の誕生を知らせる最初の光」の可能性もあるこの星雲の変動をぜひ注視してみたいところです。天体写真などでもよく撮影される領域ですので、過去の写真や画像をチェックしてみるのも興味深いでしょう。この発見が7.6 cmという小型望遠鏡でなされたことも驚きですが、CCDカメラやインターネットを用いた過去画像との照合など、現代の技術を駆使したアマチュア天文学の記念すべき到達点として歴史に残るものになるでしょう。
発見前後の比較画像はたとえばhttp://www.balinka.com/m78c.jpgに示されています。
(国立天文台・天文ニュース)
今の季節、南の空に輝くオリオン座には、たくさんの星雲があります。そのなかでも、M78は、ウルトラマンの故郷としても有名な星雲で、オリオン座の三つ星のやや東に位置しています。双眼鏡でも見える明るい星雲で、アマチュア天文家の写真の撮影対象にもなっています。
1月23日、この星雲を口径7.6センチメートルの天体望遠鏡とCCDカメラによって撮影したアメリカのアマチュア天文家、マクネイル(J.W.McNeil)さんは、その星雲のそばで、見慣れない別の小さな星雲が写っていることに気がつきました。その後、ハワイ大学の研究者らによって、その星雲が実在しているのが確認されました。この新しい星雲の位置は、下記の通りです。
赤経 05時46分14秒 赤緯 -00度05.8分 (2000年分点)
この星雲の明るさは、残念ながら15等から16等と暗く、肉眼では眺めることができません。北海道名寄市在住で、超新星の発見で知られるアマチュア天文家・佐野康男(さのやすお)さんが、新しい星雲の画像を撮影に成功しています(名寄市立木原天文台のウェッブ・ページ参照)。
この場所は、もともとM78の星雲につながる暗黒星雲がある場所です。赤外線の観測では、この場所には可視光では見えないIRAS 05436-0007という赤外線源があるとされています。これは暗黒星雲に隠されている生まれたばかりの恒星と考えられます。
したがって、この場所が光り出したというのは、この恒星が急に明るくなって、周囲の星雲を照らしはじめた可能性があります。
このように暗黒星雲だった場所が可視光で光り始める現象が捉えられるのは、ひじょうに珍しいことです。誕生まもない星が輝きだす例として、オリオン座FU型星という変光星がしばしば明るくなる現象が知られていますが、今回の増光もそのひとつかもしれません。
京都大学の加藤太一(かとうたいち)さんは「オリオン座FU型星の現象なのか、あるいはより小規模の増光現象なのかの判定には今後の研究を待たなくてはならない。もしそうなら、可視光で、このタイプの増光現象が記録されたものは数例しかなく、たいへん貴重だ。この発見が7.6センチメートルという小型望遠鏡でなされたことも驚きだが、CCDカメラやインターネットを用いた過去画像との照合など、現代の技術を駆使したアマチュア天文学の記念すべき到達点として歴史に残るものだ」と述べています。
オリオン座で恒星の誕生が今も起きていることを実感させる現象といえるでしょう。