巨大ブラックホールによって星が引き裂かれ飲み込まれる現場を初めて発見
【2004年2月20日 Chandra Photo Album / ESA News】
NASAのX線観測衛星チャンドラとESA(ヨーロッパ宇宙機関)のX線衛星XMM-ニュートンによる観測で、巨大ブラックホールの重力によって引き裂かれ一部飲み込まれつつある星の壮絶な崩壊現場が捉えられた。理論上の予測や他の観測によって示唆されていただけの現象が、現実に初めて捉えられたものだ。
画像(上)は、今回発見された現象をイメージしたもので、地球から7億光年離れたおとめ座の方向にある銀河RX J1242-11の中心に存在する超巨大ブラックホール周辺のようすをあらわしている。ブラックホールの周辺で2つの星が出会い、そのうちの1つがブラックホールに近い位置に追いやられたことで、この星の物質が巨大ブラックホールの重力によって引き裂かれ伸び、一部が吸収されているところだ。実際に飲み込まれているのは星の質量のうちほんの数パーセントで、それ以外の物質は周辺に広がっている。
また、X線望遠鏡「ROSAT」が以前撮った画像と組み合わせることで、RX J1242-11の中心部で起きている現象は今までに検出された銀河におけるX線アウトバースト(突発増光)の中でもっとも激しいものの1つであることもわかった。X線アウトバーストが観測されるのは、ブラックホールによって崩壊しつつある星のガスの温度が摂氏何億度にも上昇しているためで、その膨大なエネルギーは超新星レベルに匹敵する。
潮汐力による星の崩壊という奇妙な現象の発生確率は、1つの銀河内で1年間に1万分の1と極めて低いため、これまで実際に検出されたことはなかった。しかし、すでに専門家はたくさんの銀河についてのデータを集めているため、今後も同様の現象が発見される確率は想像以上に高いかもしれない。もし、われわれの天の川銀河系の中心でこの現象が起きると、現在銀河系内で発見されている一番明るいX線源の5万倍も明るいX線アウトバーストが見られるとのことだ。
今回の発見によって、ブラックホールの成長やそれを取り巻く星とガスへの影響に関する研究が進むことは間違いない。また、チャンドラX線望遠鏡とXMM-ニュートンX線衛星によって次々と潮汐力による星の崩壊が観測されれば、ブラックホール周辺で何が起こっているのかをわれわれが知る日もそう遠くはないだろう。
巨大ブラックホール: 銀河の中心にあり、太陽質量の100万倍〜10億倍に達する強大なもので、恒星進化の末に生まれるブラックホールと区別される。クエーサーやセイファート銀河などの活動銀河核が放射する莫大なエネルギーは、この巨大ブラックホールに流れ込むガスの重力エネルギーが解放されたものと推定されている。(最新デジタル宇宙大百科より)<2005年7月4日更新分>