すばる望遠鏡、ガンマ線バーストの横姿をとらえる
【2005年5月30日 国立天文台 アストロ・トピックス(105)】
東京大学、広島大学、国立天文台などの研究者からなるグループ(注)は、すばる望遠鏡と微光天体分光撮像装置(FOCAS)を用いて、ガンマ(γ)線バーストを伴わない極超新星(極端に爆発の規模の大きい超新星) 2003jd の観測を行いこれが高速ジェットを激しく噴出している爆発を横から眺めた姿である証拠初めて発見しました。この結果は、極超新星の大部分は高速ジェットを伴う線バースト母天体であり、ジェットが我々に向いている場合にのみガンマ線バーストとして観測されるという関係を明快に示すものです。
真空の宇宙空間における爆発現象は、特別な要因が無い限り、球対称になると考えるのが自然です。しかし、球対称とはかけ離れた爆発と考えなければ説明できない天体現象も観測されていて、その正体を知る上で重要な要素となっています。その代表が宇宙の中で最も大きな爆発現象: ガンマ線バーストです。その正体は長らく謎でしたが、宇宙の遠方で起こっていることが明確になるにつれ、そのようなエネルギーを等方的に放出するのは無理があると考えられました。そこで、例えば非対称な爆発で起きる高速ジェットがたまたま地球の方向に向いていると、ガンマ線バーストとして観測されるのではないか、と考えられるようになりました。
この仮説に対する状況証拠は、最近の研究で徐々に揃いつつありました。まずガンマ線バーストの中でもガンマ線放出が比較的長く続く天体は、超新星爆発現象の中でも特に爆発エネルギーの大きい極超新星と関連していることがわかってきました。国立天文台および東京大学などからなる研究グループは、2003年に出現したガンマ線バースト GRB 030329 と極超新星 SN 2003dh の爆発が、場所と時刻の両方で一致することを示しました。さらに同グループは2002年に出現した極超新星のひとつ SN 2002ap のすばる望遠鏡の観測から、高速ジェットの証拠を示唆する偏光成分を発見し、これらをもとにガンマ線バーストを統一的に説明できる高速ジェットを伴う重力崩壊型超新星モデルの提唱を行いました。
これらのモデルからの予測によれば、極方向に高速ジェットを伴う非対称な爆発を起こす超新星では、酸素などの比較的軽い元素を赤道方向にドーナツ状により多く放出します。超新星を極方向から見ると、ジェットの活動性によりガンマ線バーストとして観測されますが、赤道に近い方向から見るとガンマ線バーストとしては見えません。一方、酸素に注目すると、ドーナツ状に拡がる成分のドップラー効果が場所ごとに違うため、極方向から見た場合と横からみた場合とでスペクトル輝線の形に大きな違いが現れます。つまり、極方向から見ると輝線は一つ山になりますが、真横から見た場合にはドーナツ状に拡がる酸素のうち、我々に近づいてくる成分と遠ざかる成分に対応して、輝線が二つの小さいピークを持つと予想されます。
今回の超新星 SN 2003jd のすばる望遠鏡による観測は、まさに時宜にあった成果を上げたといえます。この超新星は重力崩壊型のスペクトルタイプを持ち、爆発のエネルギーが非常に大きい極超新星に分類されています。爆発から約一年が経過し、放出物質の内部まで見通せるほど稀薄になった2004年9月12日(世界時)に、この超新星のスペクトル観測を行ったところ、膨張する稀薄なガスに含まれる酸素が放射する輝線スペクトル線の形状に、著しい二重ピーク構造が予測どおり見いだされたのです。これは世界でも初めての発見で、極超新星爆発が球対称な爆発ではなく高速ジェットを伴う非対称な爆発であるというモデルと明快に合致し、極超新星が相対論的なジェットを伴うガンマ線バースト現象の正体であるとする当該研究グループの予測を立証する成果といえるでしょう。この成果は米国の学術論文誌 サイエンス5月27日号に掲載されました。
(注): 東京大学、広島大学、国立天文台の他、独マックスプランク高等研究所、伊トリエステ天文台、米カリフォルニア大学バークレー校、米プリンストン高等研究所、伊パドゥバ天文台、中国国立天文台、宇宙航空研究開発機構、総合研究大学院大学、米国立光学天文台、米ローレンス・バークレー国立研究所、米カリフォルニア工科大学のメンバーを含む研究グループです。