ビーナス・エクスプレス打ち上げ成功、金星周回軌道へ!

【2005年11月15日 ESA News

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の金星探査機「ビーナス・エクスプレス」が、11月9日の日本時間午後0時33分にカザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地からの打ち上げに成功した。ビーナス・エクスプレスはESAによって打ち上げられた2番目の惑星探査機で、2003年に火星周回軌道に投入された「マーズ・エクスプレス」と同じ基本構造を持つ。いわば、双子の兄弟探査機というわけだ。来年2006年4月の金星到着後は、謎の多い金星の大気について探査する予定である。

ビーナス・エクスプレスの打ち上げの画像 金星とビーナス・エクスの想像図

(上)ビーナス・エクスプレスの打ち上げの画像(提供:ESA / STARSEM-S. CORVAJA)、(下)金星とビーナス・エクスの想像図。いずれも、クリックで拡大(提供:ESA/C.Carreau)

1962年以来、アメリカや旧ソ連によって20ほどの探査機が金星の調査を行ってきたが、調べれば調べるほど新たな謎が浮かんでくる。それらに答えを出すべく、ヨーロッパ宇宙機関が開発して打ち上げた金星探査機がビーナス・エクスプレスだ。ビーナス・エクスプレスは7種類の観測機器によって大気の組成や構造、化学反応などを調べる。また、金星の厚い大気を透視して直接表面を見ることができる波長で観測するのも大きな特徴だ。

経費を下げるための工夫も様々になされている。7種類の機器のうち3つは火星探査機マーズ・エクスプレス、2つは彗星探査機ロゼッタのために開発されたものだ。また探査機の基本構造もマーズ・エクスプレスと同じで、開発コストを抑えた。

ビーナス・エクスプレスが金星に向かう旅路は3億5千万キロメートル。所要時間はおよそ5ヶ月と、「先輩」のマーズ・エクスプレスとあまり変わらないが、接近してからが大変だ。金星の質量は火星の7.6倍もあり、探査機を引っ張る重力もその分大きい。そのためビーナス・エクスプレスは、570キログラムある推進剤の大半を使ってエンジンを53秒間噴射し続け、惑星周回軌道に入る。その後、2回目の噴射によって金星の南極・北極付近を通る、楕円軌道に切り替える。こうして、ビーナス・エクスプレスは金星のあらゆる面を、250〜66,000キロメートルの範囲の距離で観測することができるようになるのだ。ビーナス・エクスプレスの観測期間はたった2日間 …… というのは金星における時間で、これは地球では486日間に相当する(金星は1回自転するのに243日かかる)。もちろん探査機のコンディション次第では観測期間の延長も可能とされている。

金星の大気は地球と大きく異なり、温室効果によって極端な高温高圧状態になっている。また、100時間未満で金星を一周してしまうほどの強風が吹いていることも知られている。惑星の大きさこそ地球と似ているものの、他の環境、特に大気はわれわれの常識とは大きくかけ離れたものだ。しかし、「他の惑星を探査することこそが、地球にとどまり続ける人類にとって重要な意味を持つことを、ビーナス・エクスプレスによって示したい」とESA局長、ジャン・ジャック・ドーダン氏は語る。局長によれば、その理由は次の通りだ。

「地球の気候変動を完全に解明するには、もはや地球だけを調べるのでは足りません。より一般的に、惑星の大気のメカニズムを解明しなければならないのです。私たちは今、マーズ・エクスプレスで火星の大気を調べていますし、ホイヘンス(ESAが携わった土星探査機カッシーニの子機)を土星の衛星タイタンに突入させてその大気も探査しました」

「そして今回のビーナス・エクスプレスによって、さらなる知見がもたらされるでしょう。元々地球と金星は大変似通った惑星だったはずです。それぞれが“生命が溢れる惑星”と“死の惑星”になっていった。その分岐点がどこにあるのかを私たちは知る必要があるのです」


金星は太陽系で内側から2番目を回っています。地球に最も近い惑星で、地球のように岩石の地表があり、大きさや重さは地球より少し小さい程度で、地球の兄弟星とも呼ばれています。厚い大気に覆われ、地表の気温は500℃、気圧は90気圧もあります。鉛も溶けるような高温高圧の世界で、もちろん海も森林も存在しません。地球では考えられない灼熱地獄の惑星です。(「太陽系ビジュアルブック」(金星 - 高温と高圧の世界)より一部抜粋)