すばる、崩れゆくシュワスマン・ワハマン第3彗星をとらえる
【2006年5月12日 すばる望遠鏡】
地球へ接近中のシュワスマン・ワハマン第3彗星(73P/Schwassmann-Wachmann 3、以後SW3彗星) の本体(核)のひとつが崩壊しつつある様子を、すばる望遠鏡がとらえることに成功し、その画像が公開された。
SW3彗星の核は、これまでに50以上の小さい核へと分裂をしている。その中で、すばる望遠鏡は、B核と呼ばれる彗星核を地球から1650万キロメートルの距離にある段階で撮影し、その周辺に、ごく最近この核から分裂したと考えられる多数の微少な破片を写し出すことに成功した。
ドイツのシュワスマンさんとワハマンさんによって1930年に発見されたSW3彗星は、太陽の周りを約5.4年間かけて一周する。SW3彗星の軌道は細長いだ円形をしているため、タイミングによっては地球に接近することがある。発見から1979年までのおよそ50年もの間、観測しても見つからず行方不明となっていたため、SW3彗星は「謎の彗星」といわれてきた。
その後1995年に太陽へ接近した際に、チリと氷の固まりである核が3つに分裂したことが確認され、2000年に太陽へ近づいたときは新たに4つの核が発見されている。さらに今回の接近時には、数十個に分裂していることが世界中の天文台の観測から明らかとなっている。
すばる望遠鏡は、人間の目と同じ可視光を捉える広視野カメラを取り付けて、2006年5月3日未明にSW3彗星の核の1つであるB核へ狙いを定めた。撮影した画像には、B核本体から出たガスやチリからなる明るいコマや、そこから伸びる尾が捉えられている一方で、ごく最近に分裂し、B核から離れつつある微小な破片を多数写し出すことに成功した。
詳細な解析はこれから進められるが、数えてみると13個もの破片が確認できる。ヨーロッパ南天天文台の口径8メートル望遠鏡VLT(Very Large Telescope)による4月23日の観測では、同じB核から離れていく8つの破片が見つかった。すばる望遠鏡が捉えた多くの破片は、B核そのものと同様にコマや尾を出しており、“小さな彗星”となっている様子がみごとに写し出されている。
これらの微小な破片は大きさが数十メートルとひじょうに小さいとされることから、短時間で消滅してしまうと考えられている。研究チーム(注意)の布施哲治さん(国立天文台ハワイ観測所)は「すばる望遠鏡だけでなく、石垣島天文台などの他の天文台の観測データも合わせて詳しく解析することで、謎に満ちた彗星核の分裂メカニズムに迫りたい」と話している。
SW3彗星は、今日5月12日に地球へ1200万キロメートルまで近づく。これは、地球と月の距離のおよそ30倍に相当する。可視光による本観測に引き続き、すばる望遠鏡では赤外線カメラを用いた SW3彗星の観測を実施した。さまざまな波長で彗星を観測しデータを総合的に解釈することによって、彗星の組成や、その起源の解明に一歩近づくと期待されている。
※研究チームメンバー:布施哲治、古澤久徳(国立天文台ハワイ観測所)、渡部潤一 (国立天文台)、木下大輔(台湾國立中央大学)、山本直孝(産業技術総合研究所グリッド研究センター)