アンドロメダ座大銀河の最新研究成果−その構造と歴史

【2006年6月8日 NASA JPLGemini Observatory

カナダのカルガリーで開かれているアメリカ天文学会で、アンドロメダ座大銀河(M31)に関する報告が相次いだ。宇宙と地上、両方からの観測により、われわれの天の川銀河にもっとも近い大型銀河の構造や歴史について、かなり詳しく分かってきた。


星々の海の中にはちりの渦

(M31のディスク部の画像)

スピッツァーがとらえたM31のディスク部。撮影に使われた波長は3.6μm(青)、4.5μm(緑)、8μm(赤)。クリックで拡大(提供:ASA/JPL-Caltech/P. Barmby (Harvard-Smithsonian CfA))

無数の星がひしめく銀河・M31は、可視光で見ると渦巻というよりは円盤のような印象が強い。しかし、NASAの赤外線天文衛星スピッツァーが捉えた画像を見れば、そんな星(青)の海の中に、ちり(赤)が渦巻状に分布していることがよく分かる。

ちりとして写っているのは、主に多環芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれる物質だ。星の光で暖められて波長8マイクロメートル程度の赤外線で輝くPAHは、星の誕生現場に多く存在する。ちなみに地上でも車の排気ガスなどに含まれることで知られている。

スピッツァーの一連の観測によると、アンドロメダ座大銀河の赤外線での明るさは太陽40億個分に相当するという。恒星の数自体は、およそ1兆個と見積もられている。なお、われわれの天の川銀河は一回り小さく、数千億の星が存在すると推測されている。

M31の心臓部に迫る

(M31中心核のモデル図)

ジェミニ北望遠鏡の観測に基づく、M31中心核の近赤外線における形状(提供:Gemini, Tim Davidge (NRC, Herzberg Institute of Astrophysics, Victoria BC))

M31の中心部は、われわれの天の川銀河とは異質なものだという見方が天文学者の間では強い。とりわけ特徴的なのは、中心核が2つあるという点だ。2つのうち大きい方には、おそらく天の川銀河の中心核にあるものより重たい「巨大ブラックホール」がある。巨大ブラックホールの強力な重力場は周囲のガスやちりが収縮するのを妨げ、星の誕生を抑制するかもしれない。そのため、M31の中心部には古い星しか存在しないと考えられてきた。

ところが、ハワイ・マウナケアのジェミニ北望遠鏡は、2つの中心核の間に「漸近巨星分枝(AGB)星」(解説参照)と呼ばれる天体を発見した。AGB星は宇宙空間にちりを放出し続けていて、そのちりが放射する赤外線が観測されたのだ。AGB星は恒星の一生の中では最終段階にあるが、AGBの段階にいたるような恒星は質量が比較的大きく寿命が短いので、生まれてからの時間で言えば「若い」星ということができる。かくして、M31の周りの星はすべて古いものだという予想は覆された。

AGB星は天の川銀河の中心核周辺でも見つかっている。ひょっとすると、M31と天の川銀河の中心核は似たような歴史をたどってきたかもしれない。そうだとすれば、天の川銀河の中心部は広く銀河一般を代表する存在で、はるか遠くの銀河を理解するための格好の研究対象となるはずだ、と観測グループは語っている。

M31を徹底的に分解して調べる、その歴史

(M31を構成する星々の画像)

補償光学によってM31の密集部も星々に分解される。明るい星は天の川銀河の恒星で、補償光学の基準に使われた。クリックで拡大(提供:Gemini, ALTAIR)

ハッブル宇宙望遠鏡に代表される宇宙望遠鏡が大気に影響されないシャープな画像を撮影する一方で、日本のすばる望遠鏡など地上の大型望遠鏡もハンデを克服するために様々な工夫をしている。代表的なのが「補償光学」と呼ばれる、大気のゆらぎによる影響をリアルタイムで検出して打ち消す技術だ。かつては実際の星を基準にしたため、明るい恒星を含む視野でしか使えなかった。しかし、最近ではレーザーを照射することで人工的に星を作るシステムがあるので、こうした制限もない。

ジェミニ北望遠鏡も、補償光学を用い8メートルの口径を存分に活かしてM31を観測した。その目的は、M31を個々の星に分解して1つ1つの性質を調べ、銀河全体の進化の歴史を調べることにあった。

M31の中心に近い範囲にある数千個の星を調べた結果、ほとんどが位置にかかわらず同じような組成からなっていた。われわれの太陽に近い割合で重元素が存在していて、比較的年齢が高かったのである。最近の銀河形成と進化の理論によれば、大銀河は小銀河が衝突を繰り返すことで形成される。銀河の円盤は崩れやすいので、円盤を構成する星の年齢や分布を調べれば衝突が一段落してから経過した時間がわかるはずだ。星々が落ち着いた状態にあることから、M31が今のような形になってから、少なくとも60億年が経過していることが判明した。

M31(アンドロメダ座大銀河)

実視等級 4.4等、視直径 180'×63'、距離 230万光年。日本から見える銀河としては最大のもので、天文ファンのみならず広く一般に知られている有名な天体だ。満月を横に5つ並べたほどの大きさと、肉眼でもはっきり見える明るさを持つ。(最新デジタル宇宙大百科より)

漸近巨星分枝星(AGB星)

中質量星(太陽の7倍程度まで)の星が、中心核でヘリウム核融合を終え、ヘリウムと水素がいずれも殻燃焼を行っている段階の姿。この段階の星の外層は不安定で、やがて宇宙空間に放出され、ガスは惑星状星雲に、中心核は白色矮星になるとされる。(最新デジタル宇宙大百科より抜粋)