マーズ・エクスプレス画像集:火星の顔

【2006年9月28日 ESA News

1976年にNASAの火星探査機バイキング1号が初めて撮影したことで知られる“火星の顔”を見事にとらえた画像が公開された。この顔が存在するシドニア(Cydonia)地方をとらえた一連の画像は、見ごたえがあるばかりではなく、惑星地質学においても貴重な情報をもたらしている。


(シドニア(Cydonia)地方に存在する火星の顔と呼ばれる地形の画像)

シドニア(Cydonia)地方に存在する火星の顔と呼ばれる地形。クリックで拡大(以下同)(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum), MOC (Malin Space Science Systems))

(火星探査機バイキング1号が撮影した「火星の顔」の画像)

火星探査機バイキング1号が撮影した「火星の顔」(提供:NASA/JPL)

(どくろの形をした地形の画像)

どくろの形をした地形(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

(上空から見たシドニア(Cydonia)地方の画像)

上空から見たシドニア(Cydonia)地方(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

有名な“火星の顔”と呼ばれる地形は、1976年にNASAの火星探査機バイキング1号によって初めて撮影され、その数日後の1976年7月31日に「人の頭部に似た地形」としてNASAから正式に発表された。あくまでもこれは錯覚で、全体的な形状とそこから作られる影があたかも目や鼻や口のように見えるだけだということは、今では明白な事実だ。にもかかわらず過去、一部の熱烈な火星ファンによって、火星の知的生命が想像され、これらの地形が、“ピラミッドである”とか“崩壊した都市の跡”などと思い込まれてしまった。その思い込みは、新聞や小説、ネット上でも取り上げられていたのだ。

その熱烈な空想に終わりが告げられることになったのは1998年のこと。NASAのマーズ・グローバル・サーベイヤによる観測で、自然がつくりあげた造形であることが確認されたのだ。しかし見方を変えれば、人工的建造物説は実に22年も続いていたことになる。

シドニア(Cydonia)地方に隣接したエリアはなだらかなスロープで、周辺は丘や起伏のある地形に囲まれている。これらは、火星でよく見られる堆積物が崩れた跡なのだ。こういった地形は土を盛ったような盛り上がりのすそ部分で形成され、おそらく、細かい岩石や氷からできていると考えられている。シドニア地方に見られる火星の顔を含めた地形にも、岩石が斜面から落下し、堆積してできたと考えられる同様の特徴を見ることができる。

さらに、火星の顔の周辺については、もともとここにはより大きな堆積物の崩れた跡が存在していたのだが、その後表面が溶岩によって覆われたと考えられている。

科学者であり作家でもあったカール・セーガンは、「人のイマジネーションというものは、一度も訪れたことのない見知らぬ世界へとわれわれを連れていってくれる」という言葉を残している。また、マーズ・エクスプレス・プロジェクトの研究者であるAgustin Chicarro博士は、「これらの画像は、本当に圧巻と呼ぶにふさわしいものです」と語っており、火星の顔が人工物でないことが明らかな今でも、火星の壮大な光景は人々を魅了してやまないようだ。

バイキング1号

1975年8月20日に打ち上げられたNASAの火星探査機。火星周回軌道に入り、それぞれ着陸機を分離。1976年7月20日と9月3日に軟着陸した。写真撮影、大気の観測、生物実験などを行った(「宇宙年鑑 2006」より抜粋)