「なんてん」がとらえた銀河系中心部の巨大ループ

【2006年10月16日 名古屋大学理学研究科 天体物理学研究室

名古屋大学の研究チームは、南米チリのラスカンパナス天文台に設置した電波望遠鏡「なんてん」を用いて、銀河系中心部の広範囲な分子雲の観測を行い、その詳しい分布を明らかにした。詳細な解析により、銀河円盤から高さ600光年を超える分子雲ループが発見された。


(発見された磁気浮上ループ(ループ1)を描いた動画の一部) (発見された磁気浮上ループ(ループ2)を描いた動画の一部)

発見された磁気浮上ループ(ループ1、2)を描いた動画の一部。ともにクリックで拡大(提供:名古屋大学理学研究科 天体物理学研究室 プレスリリースページより)

(磁気流体力学を用いた2次元数値解析シミュレーションで再現された2つのループ)

磁気流体力学を用いた2次元数値解析シミュレーションで再現された2つのループ。クリックで拡大(提供:名古屋大学理学研究科 天体物理学研究室 プレスリリースページより)

銀河系中心部は我々の銀河系の中心部3000光年ほどの領域を指す。この領域の中心には巨大ブラックホールが存在し、そしてその周りをひじょうに圧力の高いガスが取り巻いている。また数々の磁場による現象も確認されており、銀河系でもっとも特異な領域として盛んに研究が行われている。分子雲もこの領域にひじょうに多く存在しているが、他の領域と大きく異なる特徴として、分子雲内部の激しい運動と、分子雲のひじょうに高い温度、という2点が挙げられている。しかし、それらの起源は長年の謎とされてきた。

名古屋大学の研究チームは、この謎に答えを与える観測結果を得た。電波望遠鏡「なんてん」による観測で、銀河系中心部の広範かつ詳細な分子雲の分布を明らかにし、さらに、この領域に銀河円盤から高さ600光年にも及ぶ分子雲ループを発見したのだ。この分子雲ループは「パーカー不安定」(ガスの集まりに水平に磁場が走り、垂直に重力が作用した場合に起こる)と呼ばれる磁気浮力で作られると考えられており、太陽表面で発生しているループやプロミネンスも同様のものである。

銀河系中心部は、ひじょうに強い磁場が銀河円盤に沿うように水平に分布している。「パーカー不安定」では、磁場にくぼみがあると、その磁場が波打つように大きなループへと成長する。この時、ループの上へと持ち上げられたガスはやがてループに沿って銀河円盤へと落下していく。今回発見されたループは、これらの特徴をとてもよく描いている。また、ループの根元へと落下するガスは、重力によりその速度を速め、衝撃波となり銀河円盤へ激突する。この際、ぶつかった分子雲は強く弾き飛ばされ、ひじょうに高温となる。このような磁気ループ現象は銀河系中心部のいたるところで起こっていると考えられ、このモデルにより、銀河系中心部において長年謎とされてきた2つの分子雲の特徴をたいへんよく説明することができる。

今回の発見によって、我々の銀河系でも太陽表面と同種の現象が起こっていることが明らかとなった。ただし、今回発見されたループは太陽表面で見られるこれら「パーカー不安定」による現象を銀河系中心部に応用するもので、サイズとしては太陽表面のループ現象より12桁ほど巨大なものとなる。このような銀河スケールの巨大な現象は、理論的には1980年代の終わりに予言されていたが、観測により発見されたのは今回が初めてのことだ。

「なんてん」を用いた今後の観測で、銀河系内の他のループの発見、さらに我々の銀河系以外での同様のループ現象、ループ以外の磁場現象の発見などが期待されている。

なお、この研究結果は、10月6日発行の科学雑誌「Science」に掲載されている。

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